第4回学習基本調査報告書
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序章 本調査の結果からみえること

お茶の水女子大学教授 耳塚 寛明

 「学習指導基本調査」は、いくつかの特徴をもつよう設計されている。
 第一に、子どもを対象としてその行動や意識を明らかにする調査は数多いが、「学習指導基本調査」は教える側、すなわち学校と教員を対象とする。

 第二に、学校と教員を対象とした調査を通じて、学習指導の実態を明らかにするのみならず、教員の教育にかかわる意識をも明らかにしようとする。

 第三に、特定の地域を対象とした調査ではなく、全国から抽出された学校を対象とした調査である。そして第四に、学習指導と教員の意識を対象とした時系列的比較を可能とするよう設計されている。

 変動の激しい教育改革の時代にあって、指導する側に焦点づけた定点観測データはまこと貴重である。さらに、ベネッセ教育研究開発センターが実施している、児童・生徒を対象とした定点観測である「学習基本調査」のデータを参照することによって、子どもと学校・教員の変化を対応させて読むことも可能である。「学習指導基本調査」と「学習基本調査」は、この意味で、民間の調査研究機関が所持する調査としては希有な、体系的プロジェクトであるといってよいだろう。

 1.教育変動の時代 子どもの学習になにが起こったのか

 1990年代以降は、それまで不易と考えられてきた日本の教育システムが音を立てて動いた、変動の時期であった。変動はいまも止むことなく続く。1998年に告示された現行学習指導要領(2002年実施)は、授業時数と内容の削減(厳選)によって特徴づけられる、ゆとり教育路線の総決算というべきものだった。

 しかし、その実施を待たずして1990年代終盤から起こったいわゆる学力低下論争は、現行学習指導要領導入後の学力低下に対する激しい不安を世論に惹起した。

 そのため、文部科学省は『学びのすすめ』(確かな学力の向上のための2002アピール)を公表し、その後も学力向上のための施策を矢継ぎ早に放った。「学力向上フロンティア事業」や「学力向上アクションプラン」が導入され、全面実施されてまだ1年を経たにすぎない2003年に学習指導要領の一部改正が告示された。

 現在でも学習指導要領の基本枠組みは、完全学校週5日制などゆとり教育路線の産物であり続けているが、「ゆとり」から「脱ゆとり」(学力向上)へと実質的な路線変更がなされたといってよい。学力の国際比較調査の結果公表(PISA2003、TIMSS2003、2004年12月公表)も、日本の学力低下を印象づけ、脱ゆとり路線の定着に一役買った。

 「学習指導基本調査」の結果を概観する前に、この間、子どもたちの学習行動と意識にどんな変化が生じていたのかを、先に述べた「学習基本調査」の結果を覗いてみておくことにしよう。

 まずは“確かな学力”路線以前(2002年以前)についてである。「第3回学習基本調査」(2001年実施)でみえたのは、少子化を背景に到来した<脱受験競争時代>の子どもの学習の姿だった。学習時間は減少を続け、さまざまな達成意欲の低下がみられた。親や教員から発される受験プレッシャーも徐々に弱いものとなっていた。

 ところが、脱ゆとり・確かな学力路線へと実質的に転換がなされて以降、小・中学生の行動に「学習への回帰」といってよい現象が観察された(2006年実施、「第4回学習基本調査」による)。それを象徴するのが、家庭での学習時間の減少に歯止めがかかり増加に転じた事実である(図1-1)。高校生の学習時間は増加しなかったものの、小学生と中学生の学習時間は明らかに増加に転じた。

 ただ、この増加は、すべての小・中学生にみられたわけではない。学習習慣は成績上位層に局所化し、全体として学習するものとしないものの分極化が進行した。
図1-1 平日の平均家庭学習時間(小学生・中学生・高校生)
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