「データで考える子どもの世界」
第1回 小学校英語に関する基本調査(教員調査)
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(4)小学校から英語を始める必要性

 小学校に英語が必要なもう一つの理由は、中学校から始めるのでは遅い、ということです。中学校から始めた英語でものになっていないという現状があるわけですから、それを少しでも改善するためには、英語開始年齢を下げることが重要です。英語に慣れ親しみ、英語を体で覚えられる時期に取り入れる。コミュニケーションとはどういうものか、文法などの構造的知識をあまり考えずに、遊びの中でコミュニケーション自体を楽しめる年齢から始めるということが、非常に大切なのです。


 体験があって、後から文法や知識を学ぶことによって、あのときやっていたのはこういうことだったのか、とわかる。中学校、高校では「オーラル・コミュニケーション、実践的コミュニケーションの基礎をつくる」と言っても、一方で文法は教えなければならないし、書くことも教えなければならない。これらをすべて行うのは、中学校の週3時間ではとても無理でしょう。また、たとえ、中学校での英語の時間数を多少増やしたとしても、短時間に集中して英語による実践的コミュニケーション能力を身につけさせるのと同時に、文法などの言語形式を同時並行に無理なく学ばせるのは非常に難しいことです。だからこそ、小学校では、まず、実践的にコミュニケーションをするという体験をさせ、ことばというものが本来コミュニケーションの道具であることを実感させることが大切なのです。


 その意味で、5年生からの必修化というのはぎりぎりのところです。できれば3年生から、理想的には1年生からやってほしい。早くから英語に触れることによって、耳が慣れ、英語に慣れる時間が増えるのが望ましいと思います。本調査の結果でも、教員の約半数が英語教育の望ましい開始学年を小学1年生と回答しています。ただ、少なくとも5年生から始めれば、実践的なオーラル・コミュニケーションの部分を多少なりとも小学校で担うことができるので、中学の3年間で教えなければならないことを充実させることができます。


(5)小学校英語の目的とは

 つまり、小学校英語の目的とは、英語の知識を学ぶことではなく、英語によるコミュニケーションを体験することです。学校はそのことをきちんと説明できなければなりませんし、そのためにも必修化して、小学校英語の方針を決めることが必要です。小学校に英語を導入することで、小・中・高それぞれの英語教育の役割を明確にし、発達年齢に応じた最適な教育内容を今こそ考えるべきときなのです。

 机に向かってするばかりが勉強ではありません。英語の授業で子どもたちが体を動かしたり、遊びの要素を入れた学習活動でいきいきと学んでいる姿を見て、先生たちも従来の授業のやり方を変えてみようという動きがあちこちで起こっています。英語を教えることが他の教科にもいい影響を与え、学校全体の活性化につながっているところが多いのです。


 一方で、遊んでいるだけじゃないか、歌を歌っているだけで何になるのか、という批判もあります。しかし、人は遊びからたくさんのものを学ぶのです。勉強は苦労と苦痛を伴うもので、それを通して「忍耐」することを学ぶことが大切だ、という人もいます。しかし、私たちが何かを学ぶ一番の環境は、時間を忘れて「面白い」と思える時です。自ら、「出来た」「通じた」「分かった」という体験をすることが最も大切なのです。しかし、これらの体験は、必ずしもことばで説明できるものではありません。コミュニケーションは、ことばだけでなく、その場の雰囲気、ジェスチャー、顔の表情、服装など、さまざまな要因から成り立っています。事実、ことばがコミュニケーションに果たす役割は30%程度、という人もいるぐらいです。読み書きなど、ことばそのものが分からなければコミュニケーションができない状況は、中学校や高校、また、大学等で学んでいく必要があります。しかし、小学校では、コミュニケーションをすることの楽しさや喜びを味わうことが大切です。ですから、子どもが、学校から帰宅し「今日、学校で英語やったよ。楽しかったよ」と言ったときに、親がいきなり、「英語で話してごらん」とか「どんな単語覚えた?」などと言わないようにしなければなりません。「何を習ったの?」と聞かれても、たぶん子どもはあまり答えられないでしょう。しかし、だからといって何も学んでいないということはありません。彼らは、英語によるコミュニケーションを体験し、その中で、「やった!」という体験をしているのです。


 小さいうちは、理屈ではなく、英語にたくさん触れることこそが大切なのです。ですから、私たち教師や親は、そのようなコミュニケーションの体験をできるだけたくさん子どもに与えること、そして、自らも子どもと一緒になって英語でコミュニケーションすることが最も大切だと言えるのです。

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