都立専門高校の生徒の学習と進路に関する調査

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第2部 高校入学以前の状況と学習・進路

 第3章 家庭の経済階層が生徒の学習意欲・進路選択に与える影響
      ―専門学科と普通科の比較からみえてくるもの―

佐藤 昭宏(Benesse 教育研究開発センター研究員)

  <要約>
  • 専門学科においては、家庭の経済階層が高いほど、中2 時点の成績や中3時点の高校教育に対するレリバンス意識が高くなる。一方、普通科においては、家庭の経済階層による成績やレリバンス意識の差はみられない。
  • 専門学科の家庭の経済階層下位において学習意欲が加熱される傾向が確認された。なおこの傾向は現在(高2時点)の成績を統制しても変化しなかった。
  • 専門学科においては、同レベルの成績層であっても、家庭の経済階層によって進路希望先に違いがあることが明らかになった。専門学科では、家庭の経済階層によって生徒の進路選択が制約されている可能性がある。

1. 問題設定

本稿は、専門学科における生徒の学習意欲・進路選択と家庭の経済階層の関連を把握し、また普通科との比較を通してその特徴を明らかにするものである。

生徒の成績に階層間格差が存在することは、これまでに数多くの研究者が指摘してきた。そしてこの階層間格差は、社会的公正や機会平等の観点から、とりわけ教育社会学の分野において問題視され続けてきた。しかしながらこれだけ長い間、中心的なテーマとして成績と階層の関係性が取り扱われてきたにもかかわらず、階層が成績に与える影響をいかに断ち切るか、または格差を緩和するためにどのような方法をとるべきか、といった点については有効な対策が提示されずにきた。その背景には、どのように階層が成績に影響を与えているのか、そのメカニズムが必ずしも明確に示されてこなかったことがあるように思われる。

そのようななか、近年明らかにされてきたのが、努力や学習意欲を媒介とした格差拡大という実態である。苅谷(2001)、苅谷・志水(2004)、耳塚ほか(2002)は、学力の階層間格差が生徒の学習時間や学習意欲を媒介に拡大していることを明らかにした。また荒牧(2002)は、階層が学習意欲や進路選択に与える影響を分析しており、階層の影響が高校ランクを媒介にした間接的なものであることを明らかにした。

しかしながら、専門学科には、苅谷や耳塚、荒牧らが対象としてきた普通科とは異なる、専門学科特有のカリキュラムや授業方法、学校文化がある。また在籍する生徒の卒業後の進路選択もかなり多岐にわたっている。

荒牧が注目した高校ランクに基づくならば、今回の調査対象校である専門高校は普通科進路多様校とほぼ同様のランクに位置づけられるが、階層が学習意欲・進路選択に与える影響は、先述した違いをもつ専門学科においても普通科と同様の傾向が確認されるのであろうか。

専門学科においては、従来就職を見据えた職業教育中心のカリキュラムが組まれてきたが、近年は大学進学を希望する生徒の増加から進学を目指したカリキュラムが組まれるなど変化がみられる。

今回の調査対象である都立専門高校においては2002年以降、積極的な改革が推し進められており、2005年には新たに「新しいタイプの高校における成果検証検討委員会」が発足し、「進学指導重点校」や「エンカレッジスクール」など、高校入学前の生徒の成績や本人の将来の進路に基づいた既存の高校枠の再編などが行われている※1(東京都教育委員会2002b)。これらの改革は、近年の保護者や生徒、産業界のニーズの多様化への対応策としては一定の効果が期待できるが、しかし視点を変えれば、こうした高校入学前段階における成績や進路希望を基準とした再編が、生徒の早期選抜につながる可能性も考えられる。

中学校段階までの成績や意識、将来展望が家庭の経済階層や資本の影響を受けやすいこと、そして選抜が「入試という一時点だけではなく、志願の段階で既に行われている」(飯田2007)可能性を考慮すると、選抜が早期化すればするほど、生徒の将来展望や進路が家庭の経済階層によって固定化されるような事態を招くことになるのではないか。したがって、現行の専門学科の再編が過度な生徒の早期選抜・集中・選択の契機とならないよう、生徒の成績と意識・行動の実態を実証データに基づいて定期的に評価、反省していくことの意義は小さくないと考える。

以上の問題関心から、本稿では専門学科における家庭の経済階層と学習意欲・進路選択に着目し、実態把握を行う。そしてその結果に対して考察を加えることを目的とする。

なお、本稿の分析では専門学科と普通科の比較を行っているが、今回のサンプルにおける普通科は専門学科と入試難易度が大きく変わらない普通科進路多様校であり、いわゆる普通科進学校は含まれていない。

〈注〉
※1  成績上位かつ大学進学希望者の多い学校を「将来のスペシャリスト育成型」、就職希望でかつ進路が明確な生徒の多い学校を「専門能力育成型」、進路が不明確で成績下位の生徒が多い学校を「職業観育成型」に分類し、それぞれの学校タイプに即した教育活動と指導を提供することで生徒や保護者、産業界のニーズへの対応を目指すというものである(東京都教育委員会 2002a)。

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