都立専門高校の生徒の学習と進路に関する調査

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第3部 高校入学後の学校生活

 第1章 専門教育と学業適応
      ―内発的動機づけと階層分化に着目して―

桑田 恵(東京大学教育学部)

  <要約>
  • 現在、生徒の学業適応をいかにして高めるかが喫緊の問題である。
  • 生徒の学業適応は、出身階層の影響を受けることが指摘されている。
  • 本稿では、まず上記事項を改めて検証し、加えて以下の2つのリサーチクエスチョンに関して検証を行った。
  • 第1に、専門教育の持つ特徴は、生徒の内発的動機づけを高めうるか。
  • 第2に、内発的動機づけは、学業適応における文化階層の影響を緩和しうるか。
  • 分析の結果、リサーチクエスチョンは第1・第2ともに実証され、学業適応に対する専門教育の貢献が示された。

1. 問題設定

本稿におけるリサーチクエスチョンは、第1に「専門高校の教育は、生徒の学習に対する内発的動機づけを高めうるか」、第2に「内発的動機づけは、生徒の学業適応における文化階層の影響を緩和しうるか」の2つである。

「内発的動機づけ」とは、新しいことを知り、身につけることに楽しさや面白さを感じ、そのために学習するという、主に教育心理学において用いられる概念である。これは、親や教師に言われるから、テストで高得点をとらなくてはならないからという外的要因による「外発的動機づけ」という概念と対比されることが多い。ここでまず、本稿での調査・分析において「内発的動機づけ」概念に注目し、導入した理由を述べる。

現在、主に18歳人口の減少傾向や、入試科目の削減、推薦入試・AO入試合格者の増加、受験機会の複数化、「一芸入試」などの入試多角化から、かつてと比較して受験戦争の緩和が顕著になってきている(苅谷2001)。これらの影響を受けて受験競争の圧力が弱まれば、受験に合格するため、テストで高得点をとるためといった外発的動機づけによって生徒を学習へと向かわせることは、ますます困難になるだろう。このような状況下で、生徒を学習に向かわせるには、学習するという行為そのものに対する動機づけが必要になってくる。つまり、生徒の学習に対する内発的動機づけをいかに高めるかということが喫緊の問題であるということができる。よって、本稿における分析から、専門高校の教育に内発的動機づけを高める効果があることや、内発的動機づけの形成に効果を発揮する要素等が明らかになれば、それは社会の要請に応えうる知見となる。これが第1のリサーチクエスチョンとして検証すべき問いである。

第2のリサーチクエスチョンは、この内発的動機づけがなしうる貢献の可能性についての問いである。生徒を学習に向かわせることの困難さについてはこれまで述べてきた通りであるが、後に述べるように、現在、生徒の学力や教育達成における階層分化が大きな問題となっている。生徒たちを競争へと巻き込む圧力が低下し、受験戦争に向けた動員力が弛緩することで、学力や教育達成における階層間の不平等の拡大・顕在化の可能性が生じるのだ。生徒の学習意欲や達成度が出身階層によって決定され、さらに階層分化の傾向が拡大している状況下で、学習に対する内発的動機づけが文化階層の影響を緩和しうることが示されれば、階層分化に歯止めをかける手がかりがつかめることになる。専門教育の特徴が内発的動機づけを高めうることとあわせて実証されれば、実際に専門教育の特徴を教育全般に取り入れることで、生徒の学業適応の階層分化という社会問題の解決に貢献できるかもしれない。

本稿の構成については、以下の通りである。まず、本節で述べた問題設定に基づき、次節で先行研究の検討を行い、すでに得られている知見を踏まえたうえで、3節において具体的な仮説を提示するとともにその説明を行う。そして、実際の分析で使用する変数について4節で説明を加えた後、5節でクロス集計を行い、その結果を示す。6節では、分析の結果をうけて、2つのリサーチクエスチョンに対する答えを提示し、専門教育が学業適応に貢献しうるということ、およびその考察や今後の課題について述べ、結論とする。

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