都立専門高校の生徒の学習と進路に関する調査

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第3部 高校入学後の学校生活

 第4章 普通科、工業科、商業科の生徒間比較に見る学校内・学校外文化意識

大草 佑太(東京大学教育学部)

  <要約>
  • 普通科・工業科・商業科の各学科を比較して、それぞれの学科における生徒文化の「分極化」の特徴を明らかにすることを企図する。
  • 「地位欲求不満」説が提示する学業成績による「分極化」の傾向が今日でも見られることを確認し、その傾向が普通科よりも工業科・商業科で強いことを明らかにして普通科の「低位同質化」の可能性を指摘する。
  • 工業科においては将来志向かつ教育機関としての学校に意味を見出す者と、現在志向かつ社交の場としての学校に意味を見出す者とがそれぞれ存在する「二元的帰属状況」があらわれる。
  • 商業科においては現在志向で、教育機関としての学校に強い意味を見出さず、学校外文化消費についても、他の2 学科に比べて強い社会志向性を持つ者が少ない、普通科と専門学科のどちらの特徴も示す「中間化」を指摘できる。

1.問題の設定:「都立高校生」とはいかなる集団か

一口に「都立高校生」といっても、都立高校生全体に占める割合の量的差異、受ける教育の質的差異等々の観点から見て、普通科高校の生徒と専門高校の生徒との間には大きな隔たりがある。また、「専門高校生」もきわめて多様(工業科、商業科、農業科……)であり、十把一絡げに扱うことには困難が伴う。しかし、一方で彼女/彼らは同じく「都内の公立高校生」であり、あまつさえ「若者」というより広範な社会的カテゴリーの構成員として一括りに表象されさえする。本稿では、組織的・制度的分化と都立高校生の「実態」との結びつきのあり方を探ろうという問題意識から、普通科の生徒と専門学科の生徒の間、各専門学科の生徒どうしの間にはいかなる差異が生じているのか、あるいはむしろ均質であると捉えうるのか、という問いについて考えたい。

かつてのような「普通科高校/職業科高校」という高校入学時点における選抜と「進学/就職」という高校卒業時点における選抜との結びつきが弛緩している、との指摘はつとになされている。21世紀初頭の現在、普通科高校と専門高校の生徒は「同質化」しつつあり、高等学校段階におけるトラッキングが期待される機能を果たしていないのだろうか。この問いに答えようとする試みは、後期中等教育システムの「多様性」のあり方に関する政策的議論をする際の前提としての、「現状」を認識する営みの一助となるであろう。

なお、専門学科どうしの比較を行うに際し、本稿では専門学科のうち「工業科」と「商業科」の生徒に絞って分析することとしたい。都立高校の専門学科の生徒数全体の8割以上は工業・商業・農業の3学科の生徒が占めており、かつ農業科については、東京都立の高校の専門学科の生徒数に占める農業科の生徒数の比率が、全国のそれよりも小さく、また今回の調査のサンプル数も学科間比較分析における統計的有意性を検定するに十分な量であるとは言い難いため、分析対象としないのが適当であると判断したからである。

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