都立専門高校の生徒の学習と進路に関する調査

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第4部 高校卒業後の進路・将来展望
第1章 専門高校における職業的レリバンス意識と進路不安

3.仮説と変数の設定

前節における先行研究の検討を踏まえて、仮説の設定を行う。

本田(2005)によれば、現在は、専門性とは対極的ともいえる能力である「ポスト近代型能力」(たとえば、コミュニケーション能力)が社会的地位の選抜・配分の主たる基準となる「ハイパー・メリトクラシー化」という社会状況にある。この点を踏まえれば、専門高校において職業的レリバンス意識が高まることには、功の側面だけでなく、罪の側面もあると考えられる。具体的には、職業的レリバンス意識が高まると、それまでよりも将来やりたい仕事が意識されるようになるため、「どんな仕事をしたいかよくわからない」「自分のやりたい仕事をしぼるのはまだ早いと思う」といった進路不安は低減すると予想される。一方、職業的レリバンス意識が高まると、専門教育で身についた専門性が「ハイパー・メリトクラシー化」した社会では齟齬をきたすという認識が生じてしまうため、「将来、社会でうまくやっていけるか不安だ」という進路不安は増大すると予想される。

また、教育内容の習得度やその学校外活用機会の多寡といった前提条件によって、職業的レリバンス意識が進路不安に対してもたらす影響は異なってくると考えられる。まず、教育内容の習得度についてみると、「どんな仕事をしたいかよくわからない」「自分のやりたい仕事をしぼるのはまだ早いと思う」といった進路不安は、習得度が中レベル以上の場合に、職業的レリバンス意識の向上によって低減すると予想される。なぜなら、基礎的な教育内容を習得していなければ、職業的レリバンス意識のみが高まっても、希望する仕事への到達可能性は高まらないと考えられるからである。一方、「将来、社会でうまくやっていけるか不安だ」という進路不安は、習得度が低い場合に、職業的レリバンス意識の向上によって増大すると予想される。なぜなら、習得度が低いと、専門性を1つの拠り所として社会を生き抜いていくことの困難性が認識されてしまうと考えられるからである。

次に、教育内容の学校外活用機会の多寡についてみると、「どんな仕事をしたいかよくわからない」「自分のやりたい仕事をしぼるのはまだ早いと思う」といった進路不安は、学校外活用機会が多い場合に、職業的レリバンス意識の向上によって低減すると予想される。なぜなら、学校の勉強を実社会で活用することで、希望する仕事が明確化すると考えられるからである。一方、「将来、社会でうまくやっていけるか不安だ」という進路不安は、学校外活用機会が少ない場合に、職業的レリバンス意識の向上によって増大すると予想される。なぜなら、学校の勉強を実社会で活用する機会が少ないと、身につけた専門性を「ハイパー・メリトクラシー化」した社会の中で運用する術が見出しにくくなると考えられるからである。

以上から、本稿の仮説は次頁のようになる※5

<注>
※5 本稿の仮説では、職業的レリバンス意識を独立変数として、進路不安を従属変数として想定しているが、独立変数と従属変数が逆の関係性を持つ可能性も想定できなくはない。この意味で、本稿の分析は、職業的レリバンス意識と進路不安の因果関係を厳密に確定しようとするものではない点に注意されたい。本稿は、佐藤(2006)と同様に、職業的レリバンス意識を独立変数として、進路不安を従属変数として想定することにする。

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