都立専門高校の生徒の学習と進路に関する調査

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第4部 高校卒業後の進路・将来展望
第1章 専門高校における職業的レリバンス意識と進路不安

5.結論

本稿では、専門高校の生徒を対象にして、教育内容の職業的レリバンス意識が高まることが進路不安に対してもたらす功罪は何かという問いを検討してきた。本稿の分析結果は、次の3点にまとめることができる。

第1に、職業的レリバンス意識が高まることは、進路不安に対して功罪をもたらしていた。功の側面として、職業的レリバンス意識が高まると、「どんな仕事をしたいかよくわからない」という進路不安が低減した(作業仮説1−1の採択)。罪の側面として、職業的レリバンス意識が高まると、「将来、社会でうまくやっていけるか不安だ」という進路不安が増大した(作業仮説1−3の採択)。なお、職業的レリバンス意識と「自分のやりたい仕事をしぼるのはまだ早いと思う」という進路不安は関連していなかった(作業仮説1−2の棄却)。

第2に、職業的レリバンス意識が高まることが進路不安に対してもたらす功罪は、教育内容の習得度(校内成績)によって顕在化したり、顕在化しなかったりした。教育内容の習得度が中レベル以上の場合、職業的レリバンス意識が高まると、「どんな仕事をしたいかよくわからない」という進路不安は低減した(作業仮説2−1の採択)。教育内容の習得度が下レベルの場合、職業的レリバンス意識が高まると、「将来、社会でうまくやっていけるか不安だ」という進路不安は増大した(作業仮説2−3の採択)。なお、教育内容の習得度を統制しても、職業的レリバンス意識と「自分のやりたい仕事をしぼるのはまだ早いと思う」という進路不安は関連していなかった(作業仮説2−2の棄却)。

第3に、職業的レリバンス意識が高まることが進路不安に対してもたらす功罪は、教育内容の学校外活用機会(授業で学んだことを、学校外で活かせる機会)の多寡によって顕在化したり、顕在化しなかったりした。教育内容の学校外活用機会が多い場合、職業的レリバンス意識が高まると、「どんな仕事をしたいかよくわからない」という進路不安は低減した(作業仮説3−1の採択)。教育内容の学校外活用機会が少ない場合、職業的レリバンス意識が高まると、「将来、社会でうまくやっていけるか不安だ」という進路不安は増大した(作業仮説3−3の採択)。なお、教育内容の学校外活用機会の多寡を統制しても、職業的レリバンス意識と「自分のやりたい仕事をしぼるのはまだ早いと思う」という進路不安は関連していなかった(作業仮説3−2の棄却)。

以上の知見を踏まえると、本稿の含意として次の2点を指摘することができる。

第1に、進路不安に関する変数の取り扱いには慎重になる必要がある。本稿の分析結果によれば、職業的レリバンス意識と進路不安の結びつきは、「どんな仕事をしたいかよくわからない」「自分のやりたい仕事をしぼるのはまだ早いと思う」「将来、社会でうまくやっていけるか不安だ」といった項目ごとに異なっていた。特に、「将来、社会でうまくやっていけるか不安だ」という進路不安は、職業的レリバンス意識の高まりとともに高まってしまうといったように、他の進路不安に関する変数と異なる動きをしている点には注意が必要であろう。このことは、進路不安を操作的に定義する際に、これらの項目を合算することには慎重にならなければならないということを示唆している。

第2に、専門教育を行う中で職業的レリバンス意識を高めることの前提条件の意義である。確かに、専門教育を行う場合、生徒は教育内容の職業的レリバンスを認識しやすいだろう。しかし、本稿の分析結果によれば、生徒がどれほど教育内容を習得しているのか、教育内容を学校外で活用する機会がどれだけ確保されているのかといった前提条件によって、職業的レリバンス意識と進路不安の結びつきは異なっていた。職業的レリバンス意識を高めることで進路不安を低減させるには、教育内容を的確に習得させることや当該内容を学校外≒実社会で活用する機会を設ける必要がある。普通科高校と比べて専門性の高い教育を行っている専門高校においても、職業的レリバンス意識を高めさえすれば、進路不安が低減するという単純な図式は成り立たない。

最後に、本稿に残された課題について言及する。

本稿は、職業的レリバンス意識と進路不安の関係性について基礎的な分析を行ったに過ぎない。今後は、他の変数を踏まえて、より踏み込んだ分析を行うことが求められる。その際は、なぜ進路不安に関する個別の変数によって、職業的レリバンス意識との結びつきが異なるのかという点を追究していく必要があるだろう。

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