都立専門高校の生徒の学習と進路に関する調査

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第4部 高校卒業後の進路・将来展望

 第2章 専門高校と個性観
      ―「自分探し」を超えて―

喜多下 悠貴(東京大学教育学部)

  <要約>
  • 本稿の目的は2つある。生徒の「自分探し」への志向に由来する弊害を、量的なデータのレベルで検証すること、そしてそこから一歩進んで、明らかになった「自分探し」の弊害を克服する手がかりを、専門高校に注目して探ることである。
  • 分析の結果、生徒の「自分探し」志向は、進路活動への消極性、将来に対する悲観的イメージという弊害をもたらすことが明らかになった。
  • 以上の弊害を克服する手がかりとして、「継続的に自分を育てていく」という個性観が示唆され、それは専門高校における職業生活を意識した授業によって涵養されるということも明らかとなった。よって本稿は、「自分探し」の弊害を克服する環境としての専門高校の意義を見出すものであるといえる。

1. 問題設定

本稿では次のような問題を扱う。いわゆる若者の「自分探し」言説における、「自分探し」志向がもたらす弊害は存在するのか、それはどのような弊害なのか。そして実際に何かしらの弊害が生じているのだとしたら、それを克服する手がかりはあるのか。その際に専門高校という場は、その問題に対していかにかかわることができるのか。以上のような関心に焦点を当て、分析を行う。

個性、言い換えれば「自分らしさ」というものが至上の価値となり、学校教育においても生徒一人ひとりの個性を重視することが目指されるようになって久しい※1。また、「個性重視」は、学校側が配慮すべき価値基準としてだけでなく、生徒自身もそれを持つよう奨励されていることも、苅谷(2008)により指摘されている。「自分のやりたいこと」を尊重し、「自分探し」を中心とした高校の進路指導の実態には、個性の追求が、生徒も当然持つべき価値として認められていることが示されている。リクルートによる「高校の進路指導に関する調査」(2009)では、「進路指導で生徒に伝えていること」で「自分のやりたいこと・向いていることを探しなさい」に回答した学校は全体の95.8%にものぼった。「自分らしさ」を最優先して、それに見合った進路を選びとるべきであるというイデオロギーが学校に存在していることがここに示されている。

このように、今や教育現場の主流を占める「自分探し」という考え方であるが、現在ではその弊害についても同時に語られるようになっている。そのことについては次節で詳しく述べるが、本稿ではその実証的な分析と、それに対する処方箋の提示を目的とする。そして分析に際しては、生徒の個性観と、専門高校の授業形態という2つに特に注目した分析を行う。この2つに注目することによって、より具体的な、学校教育についての示唆を導き出せると考えるためである。

<注>
※1 「個性重視」という標語が教育政策に登場したのは、1985年の臨時教育審議会答申とされる(森田ほか編 1995)。

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