都立専門高校の生徒の学習と進路に関する調査

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第4部 高校卒業後の進路・将来展望

第3章 専門高校女子生徒の将来像
     ―ライフコース戦略と職業アスピレーション―

宮本 幸子(Benesse 教育研究開発センター研究員)

  <要約>
  • 近年ライフコースを戦略的に発想していくことの重要性が指摘されている。進路形成に問題を抱えやすい進路多様校の女子生徒においては、特にその必要があるだろう。
  • 進路多様校のなかでも、専門高校の女子生徒のほうが、普通科高校の女子生徒に比べて「仕事本位志向」が強い。しかし、「家事・育児志向」をあわせて考えると、専門高校のライフコース戦略では「両方重視」タイプが多くなった。
  • この点に関して職業アスピレーションとの関連を検証すると、専門高校の「職業志望あり」群で「両方重視」タイプが多く、特に非ASUC職業志望者においてそうした傾向が見られた。

1. 問題設定

本稿では、専門高校に通う女子生徒の将来像に着目する。ここでの「将来像」とは、具体的にはライフコース戦略(仕事に対する志向、家事や育児に対する志向)と職業アスピレーションを指す。本稿では、専門高校女子生徒のライフコース戦略の特徴を示すとともに、彼女たちの戦略に影響するであろう職業アスピレーションとの関連を分析し※1、将来像を明らかにする。

ここでは「ライフコース」に、あえて「戦略」という言葉をつけた。吉川(2001)が指摘するように、高校生はライフコースにおける最初の重要な選択が迫った時期である。そして、山田(2008)や木村(2009)などが指摘するように、雇用環境や結婚関係が不安定化している現在、リスクヘッジのために、ライフコースの選択において従来の性別役割分業にとらわれない戦略性が重要である※2。研究対象としても、高校生の将来像を彼女たちにとっての戦略としてとらえる必要があるだろう。

近年の女子高校生の将来像についての研究には多様な切り口のものがあるが、多くは中上位の普通科高校を主要な分析対象とし、専門高校は比較対象にとどまっている(吉川2001;中村2003;元治2004;片瀬・元治2008;元治・片瀬2008など)。今回の調査対象は、進路多様校の専門高校と普通科高校である。進路多様校の女子生徒は、そのライフコースを考えたときに、二重の問題を抱えている。第1の問題は、進路多様校の生徒は、より性別役割分業観に影響された将来像を描きやすい点である。たとえば中村(2003)の分析では、進学校を除いた普通科高校や専門高校の女子生徒ほど、「女性向き」職業志望が多く、結婚後も仕事をすると回答した生徒は少ないという結果が出ている。

第2の問題は、進路多様校の生徒が「『夢追い』型進路形成」(荒川2009)の負の影響を受けやすい点である。90年代以降、進路形成は「興味・関心」「将来の夢」を重視する潮流にある。このなかで、進路多様校の生徒が「興味・関心」や「夢」に邁進してしまうことで、競争から降りるメカニズムがあることが指摘されている。特に荒川(2009)は、ASUC職業=「Attractive(人気)・Scarce(稀少)・UnCredentialized(学歴不問)」の志望と進路形成のあり方を分析している。ASUC職業とは、近年高校生の間で人気が高まっているが、「人気がある割には職業に就ける人口が極めて少なく、ほぼ、なることが出来ない(荒川2009:83)」職業であり、結局フリーターやニートになる確率が高いという。具体的には「デザイナー(ファッションデザイナー、フラワーデザイナーなどを含む)」「メイクアップアーティスト」「トリマー」など、女子生徒に人気が高いことが予想される職業も多く含まれている。このような進路形成のメカニズムは、どちらかといえば普通科進路多様校の問題として扱われてきたが、進路の水路づけ機能低下が指摘される専門高校においても考慮される必要がある※3

 こうした二重の問題を抱えている彼女たちこそ、実際の選択が近づきつつある今、戦略的なライフコースイメージが重要なのではないだろうか。本稿では専門高校女子生徒の将来像を明らかにし、最終的にはライフコースの戦略性という観点から考察を加えたい※4

なお、本稿は専門高校と普通科高校の比較を主としているため、分析時にはウェイト1を使用した。

<注>
※1 元治(2004)は仙台圏の高校生調査のデータを分析し、女子高校生の職業アスピレーションは自らが志向するライフデザインを反映しているという結果を提示している。

※2 山田(2008:69-70)は、現在のライフコースにおいては従来の性役割分業にこだわらない「戦略的発想」が重要で、性別にかかわらず仕事、家事能力を持っておくことがリスクヘッジになるとしている。また、木村(2009)も、雇用環境の悪化による性別役割分業のリスクを鑑みて、高校生にとっての「戦略的な選択」の重要性を指摘している。

※3 堀(2002)や片瀬(2005)は、専門高校における進路の水路づけ機能の低下と、それに伴う高卒無業者増加の可能性を指摘している。実際、本調査のデータでも、専門高校のASUC職業志望者には、卒業後の進路で「パート・アルバイト」を考えている生徒が有意に多くなっている(付表参照)。
また、専門高校の女子生徒の具体的なASUC職業記述には、パティシエ(13名、うち10名農業科)、イラストレーター(11名、うち9名工業科)など、学科の専門性との対応が予想される職業もあるが、ミュージシャン・音楽(14名)、声優(7名)など、必ずしも学科の専門性に対応した職業ばかりではない。荒川(2009)や片瀬(2005)が指摘するように、非現実的な夢を追う傾向は特定の学校種・学校ランクに限った問題ではなく、若者全体にかかわる問題であるといえるだろう。

付表:専門高校女子生徒の「卒業後進路志望」

※4 現状で選択場面が圧倒的に多く、家庭生活に対しても当事者意識が強いのは女性であるため、本稿の分析対象は女子生徒に限定した。男性のライフコースにおける戦略的発想も重要な論点であり、男子生徒の分析は今後の課題とする。

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