「データで考える子どもの世界」

 若者の仕事生活実態調査報告書−25〜35歳の男女を対象に−

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解説・提言4

「子どもの自立」は「親の自立」  ―自立に向けた5つの条件とは―


立正大学教授 臨床心理士 宮城まり子

●増え続ける親になれない親たち

子どもの成長にとって最大の影響を与える要因は「家庭」である。子どもが成長の過程で、親と温かくふれあい、親から家庭教育やしつけを受け、豊かで思いやりのあるやさしい人間性を育み、善悪の判断、社会マナーや常識、身辺生活の知識やスキルなどを身につけることができるか否かは、家庭での「親の教育力」にかかっている。人間が子どもの「親になること」は、それは大きな厳しい責任と役割を背負うことだ。しかし、昨今のニュースに取り上げられるように、実の親による幼児の虐待、育児放棄、自他の命を大切にしない子ども、感情のコントロールのできず我慢が苦手な子どもの増加など、家庭における「親の教育力」の低下の問題は深刻化している。すなわち、「親になれない親」の増加の問題である。物理的に出産し親になることはいとも簡単でも、精神的に成熟した「大人の親」になることは難しい。子どもをもったその日から、子どもと一緒に親も学びながら、ともに育ちあい、発達し大人の親になる「共育」努力が欠かせない。

●育児のゴールは親子の自立

育児の最終ゴールは自立である。親がいなくても1人で自立し子どもが生きることができるようにすることである。そのために幼児期から自立へ向け、食事、着脱、排泄、入浴、など親に依存せずともできるように生活のなかで子どもをしつけ、教育をしているのである。そして、最終的には社会のなかで働き、収入を得、経済的にも親から自立し、子どもが自分の人生を歩むことができるようにすることが育児の目的であり、育児の社会的役割であるといえよう。

子どもを自立させる過程は、同時にまた親の子どもからの自立の過程でもある。子どもは成長に伴い、時間的にも物理的にも次第に親から離れ、生活するようになる。親子の距離が出てくるにしたがって、精神的にも自然に親子は分離していくのが本来の定理であった。しかし、最近では少子化のなか、親が先まわりして細かく子どもの世話をし、子どもが大きくなっても親子が互いに依存していつまでも離れられないような状態が散見される。

すなわち、「子どもの自立」を支えるのは「親の自立」であり、育児のゴールはともに「親子の自立」である。そのためには、子どもの成長に伴い距離をとり、子どもを手放し、離れていく子どもの後ろ姿を定位置から見送ることができる(子どもが離れたら、親から近づいていかない)親でなければならないだろう。親は子どもの成長と並行して、育児後の自分の生き方の青写真、育児から卒業した後の自分の世界を新たに構築しながら、「育児からの自立」の準備が欠かせない。

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