ベネッセ教育総合研究所 ベネッセホールディングス
変化と工夫に富んだオリジナルのカリキュラムで、子どもたちの笑顔が絶えない授業を実現

東京都千代田区立 富士見小学校
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小学校の英語活動は、短く・繰り返す、が大事
 見学したのは三年生の授業。中心になって進めるのは、スタン・ピダーソン先生。千代田区の小学校で十年間も教えているカナダ人講師だ。相手役の講師は、元中学校英語教諭の須田昌義先生。担任の先生は遅れがちな子どもに目を配る役割だ。
 授業中、二人の講師は、すべての指示を英語とアクションで行う。ときどき指示が聴き取れないで戸惑う子もいるが、「男と女に分かれるんだよ」など助け船を出す子がいて、授業は滞ることなく流れていく。次々に出てくる新しいアクションやゲームに、子どもたちには退屈したりよそ見をしたりする暇はない。
 授業で最も大事にしているのは音(聴くこと)と、リズム。とくにリズムは、「小学校時代でないと身につきにくい」(須田先生)からだという。歌も会話も、リズムがいいものを意識して選んでいる。
 わずか四十五分の授業に、三つのテーマが登場した。しかも、一つひとつのテーマもそれぞれ三つくらいの切り口で構成される。
“Let's talk about〜.”と先生がテーマを示して導入を行ったあと、アニメーションを見て、体を動かしたりゲームをしたり…、といった具合だ。なぜ、短い時間にそれほどの変化が必要なのか。
「小学生が一つのテーマに集中できるのは、せいぜい十分間です。中学校の授業のように一時間中同じテーマを、導入→展開→復習のように取り上げても、ついてこられません。小学生の学習法は、『短く』『繰り返す』ことが有効なのです」
と須田先生。例えば、一つのテーマを今日「リスニング」として取り上げたら、次の時間は「スピーキング」の練習、しばらく時間をおいてから「コミュニケーションゲーム」をするというように、だいたい三つの段階を踏んでいくのだそうだ。
「つまり、一つのテーマを、ふれる、慣れる、親しむ、という三段階で学び、螺旋的に上の段階に上がっていくようにするのです。だから一時間のなかで、ある教材が『ふれる』段階であり、別のテーマでは『慣れる』段階であったりします」
と説明してくれたのは、同校の国際理解担当の永曽久美子先生。
▲英語に親しむ活動は、机も椅子もないプレイルームのような部屋で行われる。歌ったり、ゲームをしたりしているうちに45分間はあっという間に過ぎていく

外国生活経験者の多い学校独自のカリキュラム
 富士見小学校が英語への取り組みを始めたのは、一九九三年に区の帰国子女受け入れ推進地域センター校に指定されてから。その後、一貫して「国際理解教育」を進め、英語への取り組みも深化させてきた。三年前からは、三年生以上の「総合的な学習の時間」のなかで、「英語に親しむ授業」を毎週一時間実施しており、一、二年生でも、年間各十七時間を確保している。
 同校には帰国した児童や外国籍の児童が常に二二〜二四%もいるが、彼らもほかの子どもたちと一緒になって英語の授業を受けている。日本語では遅れがちな彼らが、生き生きする場にもなっている。外国生活が長い保護者の方が参観しても、「質の高い授業だ」と評価しているという。
 教科ではない小学校の英語には、当然、決められた教科書やカリキュラムはない。そこで、初めは、担任の先生と国際理解担当の先生で協力し、ピダーソン先生、須田先生をはじめとする専任講師の授業記録をつけ、それをもとに、同校で使えるプログラムに整理していった。その結果を受けて、ピダーソン先生、須田先生が協力してコミュニケーションのためのカリキュラムと英語劇のためのカリキュラムを練り上げていった。現在同校ではその教材(注)を核にし、毎年改善しながら使っている。
▲「英語に親しむ授業」展開のもとになる7つのカテゴリーと3つのステップ。この組み合わせで毎回の活動が組み立てられ、およそ10分構成のものが3〜4で1つの授業になる

価値観の違いを認め合う雰囲気が育ってきた
 小学校の多くの先生は、英語を専門として学んだ経験がない。それは富士見小学校の先生方も同様だ。ときには講師の相手役になったりして授業を担う抵抗感はないのだろうか。
「英語はコミュニケーションの道具だから、間違ってもいい。そんな開き直りも必要です。言葉とアクションを駆使しますから、子どもに伝わらないということはまずありません。それに、授業で使う英語はほぼ決まっていますので、ほかの教科と同じように、ある程度経験を積めばできるようになります」(永曽先生)
「ネイティブに近い発音をしなくてはいけないと思うと、萎縮してしまいます。日本人の英語で、子どもたちとコミュニケーションできればいいのです。まず担任の先生が英語の授業を楽しんでほしい。そうすると、子どもたちも楽しめるようになります」(須田先生)
 国際理解教育の一環として英語に取り組んできた成果はどんなところに出てきているのだろうか。
「本校では外国からのお客様が多いのですが、子どもたちは物怖じしないで話しかけています。それに、相手の話をしっかり受けとめられるようになっているとも感じます」(永曽先生)
「帰国生や外国籍のお子さんなど、多様な価値観を持った友だちを自然に受け入れているように思います。転校生に『○○語を喋って』といじめたり、はやし立てたりする光景は見られません。帰国生・転校生がのびのび過ごせる環境です。それもこの国際理解教育の十年の成果かもしれません」(矢川護校長)

(注)この教材はベネッセコーポレーションとの共同開発により小学校英語教材「English Stadium」として全国の多くの小学校に広がり始めている。
「English Stadium」の詳しい内容は、下記URLにアクセスしてください。
http://www.teacher.ne.jp/welcome/e_stadium/index.html
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