ベネッセ教育総合研究所
特集 豊かな学力の確かな育成に向けて
吉崎静夫
日本女子大学人間社会学部教授 吉崎静夫

よしざき・しずお●1950年茨城県生まれ。大阪大学助手、鳴門教育大学助教授を経て現職。学術博士。専門は教育工学で、特に「授業づくり」では、学生に教えるだけでなく、全国の学校現場や教育委員会に数多く足を運んで指導に当たっている。著書は『デザイナーとしての教師、アクターとしての教師』(金子書房)、『新教育課程で育てる学力と新しい授業づくり』(2004年3月刊、ぎょうせい)ほか多数。
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提言 小学校で身につけるべき学力とは
──四つの学力をバランスよく
小学校ではいったいどんな力を育てていったらいいのか。そして学校の裁量権が拡大するなかで、小学校ではどんな独自色を出していけばいいのか。長年、学校現場の先生方とともに授業づくりを研究してこられた吉崎先生に、21世紀を生きる子どもたちにつけたい学力と、そのための方略を提起してもらった。
日本女子大学人間社会学部教授
吉崎静夫


21世紀を生きるのに必要な「学力」は四つある
 私はいま、子どもたちに育てなければならない学力は四つあると考えています(図1)。
図
▲図1 4つの学力の相互関係。
どこかに偏ることなく、バランスよくトータルに育てたい
 土台になるのはやはり基礎的な学力です。「読み・書き・計算」の伝統的な学力、新しい時代の基礎としてのコンピュータリテラシーと英語コミュニケーションを「基礎的な学力A」(以下、基礎A)とし、学習指導要領の内容を「基礎的な学力B」(以下、基礎B)と分けて考えました。  しかし、21世紀という変化の激しい時代を生きることを考えると、基礎A+Bだけでは心許ない。世界のなかで生き延びていくためには、付加価値の高いものを生まなくてはならないのです。そのために学校教育がどのような役割を果たすべきかと考えたとき、求められるのが、新しい学力としての「発展的な学力」(以下、発展)と「実践的な学力」(以下、実践)です。
 以前聴いたITソフトメーカー・インテック社の社長・中尾哲雄氏の講演が、私の学力の見方・考え方に具体的イメージを与えてくれましたので、簡単に紹介しましょう。
 中尾氏によると、会社には2種類の人間が必要で、一つは「仕事をこなす人」、もう一つは「仕事のできる人」だといいます。前者は決められた仕事を期日までにこなす人で、後者は会社にとって何が仕事になるかを考え、新しい仕事を生み出してくれる人という意味のようです。そして、「これまでの学校教育は、『仕事をこなす人』の基礎づくりはしてきたけれど、『仕事のできる人』の基礎は育ててこなかったのではないか」そのように問題提起されました。
 21世紀はこれまでとは比較にならないほど「仕事のできる人」を求めているのであり、子どもたちには、「仕事をこなす」かつ「仕事ができる」両方の力を育てていかなければならないのではないかと考えました。
 昨今の教育界は、「学力低下」の声や評価問題に押されて、新しい学力やそれを育成する「総合的な学習の時間」(以下、「総合的な学習」)への関心を急速に失ってしまっているようで心配になります。いま申し上げた四つの学力をトータルにバランスよく育ててほしいということをまず提起しておきたいのです。


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