ベネッセ教育総合研究所
東京都練馬区立練馬第三小学校
練馬第三小学校
 東京23区の西北にある住宅地・練馬区。練馬第三小学校は、そのほぼ中央に位置し、練馬第二小学校から分かれて1976年に開校。当時の児童数は700人を超えていたが、現在は半分ほどに。図書館、美術館などの近隣施設を活用した教育活動が行われているのが特色。普通教室に冷暖房が完備されているほか、多様な学習に対応するマルチパーパスワークスペースなどの施設も充実している。
〒176−0021
東京都練馬区貫井1−36−15
TEL 03−3970−5641
FAX 03−3577−7988
児童数/363人、
学級数/15学級
荒木正志校長
荒木正志校長
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一斉授業での「学び合い」を生かした
個に応じた指導を試みる
実践のポイント
(1)単元のはじめに、学習の見通しを持つための「プリテスト」を実施。
(2)授業中「相談タイム」を設け、わかる児童がわからない児童を教える「学び合い」の場面をつくる。
(3)毎時間、児童が授業評価として満足度曲線を描き、1時間のなかで授業の満足度がどう変化したかを推測。


日本の教育には“個別化”は合わない
 練馬第三小学校の実践の精神的支柱になっているのが、荒木正志校長だ。長年練馬区で算数教育の研究を重ね、数年前から前任校で、「一斉授業のなかでの個に応じた指導」を実践。それを2003年度から赴任した同校でも取り入れ始めた。
 「練馬区では“個別化”の指導が盛んに研究されたことがありました。私も試してみたのですが、日本の教育では無理ではないかなと思い始めたのです」
 日本の小学校ではそもそも集団での一斉授業が主流。そうした実情を無視して「個別」というかたちだけを持ち込もうとしても無理がある。そう考えて荒木校長がたどり着いたのが、「集団だからこそ実現できる個に応じた指導」だった。
一斉指導のなかで「個に応じた指導」を実践するための三つのポイント
 同校の試みの特徴を、03年度の5年生「平行四辺形と三角形の面積」の単元で行われた授業実践からみていく。

ポイント1
一人ひとりが「学習の見通し」を持つためにプリテストを実施


 最初の時間に行うのは、これから学習する単元全体についての「プリテスト」(図1)。
図
▲図1 プリテスト。○はつけるが、×はつけない
 その結果をもとに、次の時間には学習課題の表(表1)に、児童が各自の課題を記入。これによって、子どもたちは学習内容の概要を知り、できていない部分を確認する。
図
▲表1 学習課題の表。目標を持たせるのが記入の目的
 それは、自分の力に合わせて、何をめざすのかを認識することになる。「学習の見通しを持つ」ことが学習意欲の向上につながるというのが荒木校長の考えだ。
 プリテストを行うときの注意は、未習事項を扱っているので、解けない問題が多いこと。正答が少ないことが学習意欲の減退につながらないように、「習っていないからできなくてもいい」と伝えることは欠かせない。
 そのほかプリテストの効果として、学習後に同じテストをもう一度やる(ポストテスト)ことで、学習効果が明らかになる点も見逃せない。今回の実践でも、ほとんどの児童がプリテストに比べてポストテストで大きく点を伸ばしており、顕著な学習効果が確認できた。

ポイント2
「相談タイム」を通した児童同士の「学び合い」


 さらに、実践の核となる部分をみていきたい。  問題を解決するための一般的方法は、問題の把握→解決の見通し→解決の実行→解決の検討→解決のふり返り・発展のステップを踏むといわれる。
 荒木校長はこれまでの指導経験から、子どもはそうしたステップを踏まないのではと感じて、調査をしてみた。すると、「問題を見たら見通しなど立てず、いきなり解こうとしている」などの実態が明らかになった。特に問題が潜んでいると感じたのが「検討」のステップ。
 「例えば全体指導で検討を始めても、聞いていない子が必ずいます。まだ自分で問題が解けていない子です」
 「検討」は、自分の考えと他人の考えを比べながら、多様な価値観を身につけていくために重要なステップだ。しかし、一斉授業では、すべての子が解決して自分の考えを持つまで待っていられない。そこで考えたのが、「相談タイム」だ。
 「相談」といっても児童が教師に相談するのではない。わかる児童が、わからない児童に教える。「学び合い」の場面をつくり出すのがねらいだ。
 「相談タイム」は、単元導入時や既習事項を想起しにくいと判断したときのみ取り入れる。ある課題を与えて考えさせたあと、進路選択表(表2)を見ながら自己診断をさせる。
図
▲表2 進路選択表。「相談タイム」では、これを見て
自分の状況を考えながら、どのグループに入るかを考える
 「教えたい」「教わりたい」「できたどうしで相談したい」「一人でもう少しやりたい」「心配どうしで相談したい」の五つの選択肢のなかから自分の進路を選び、特設したそれぞれのコーナーに分かれる(写真3)。
写真
▲写真3 相談タイム。「教えたい」児童が「教わりたい」児童を教える。
「教えたり、教わったり、相談するところがあったからよかった」
(アンケートでの児童の声から)
 このとき指導者は、なるべく「教えたい」か「教わりたい」コーナーに進むように導く。教え合ったあと、「自分なりに納得したら席に着く」ように指導しているから、全員が席に着いた時点で、解決していない児童がいないことを確認でき、みんなが意欲を持ったかたちで先に進めるというわけだ。
 一斉授業には、塾などで学習を先取りしている児童と理解が遅い児童とを一緒に指導しなければならないという悩みがあるが、これも、「相談タイム」で解決できる。学習を先取りしている児童は、解法のテクニックは身についていても「理解」はできていないことがある。「相談タイム」で教える側に回ることで、それが改善できるのだ。
 「わからない人に教えるには、内容をかみ砕いて説明することが求められます。わからない子に『わかった』と言ってもらうのはすごくうれしいことですから、一生懸命考えて説明しようとします。それが自然と内容の理解を深めるのです」(荒木校長)
 理解が遅い児童に対する効果もある。一般にそうした児童は、自分に自信がなく、自力で解決する前に他人に依存する傾向が見られる。最終的には自立させなければならないとしても、「いま自信がないなら、依存させて安心感を持たせることが大切」というのが荒木校長の考えだ。「教わる」ことで自分の解決案を一つでも持てれば、安心して全体の検討に臨むことができるという。


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