ベネッセ教育総合研究所
特集 教師の「授業力」向上のために
今泉 博
今泉 博 東京都東久留米市立南町小学校教諭(取材時)2004年9月から北海道教育大教育学部釧路校助教授

いまいずみ・ひろし●1949年北海道生まれ。「学びをつくる会」などの活動を通して創造的な授業の研究・実践を広く行う。『集中が生まれる授業』(学隅書房)『若い教師のステップアップ1強視力』(編著・旬報社)など著書多数。
秋田喜代美
秋田喜代美 東京大大学院教育学研究科教授

あきた・きよみ●1957年大阪府生まれ。専門は発達心理学・学校心理学。全国の教育現場に足を運び、教師教育についても深く研究している。『子どもをはぐくむ授業づくり』(岩波書店)『日本の教師文化』(共著・東京大学出版会)『読書の発達心理学−子どもの発達と読書環境』(国土社)などの著書多数。
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教師の 「授業力」向上のために
 子どもたちの学力を育成するには、教師の「授業力」が重要である。
 しかし、近年の少人数学級の広がりや習熟度別指導の導入が、教師の授業力を低下させているのではないかとの声をベテランの先生から耳にすることが多くなった。
 2003年12月に実施した『VIEW21』の教師調査でも、学校の抱える課題の2番目に「教師の力量のばらつき」があがり、教師の力の向上が現場の課題となっていることが明らかになった。
  本特集では、教師の「授業力」に焦点を当て、第1部ではこれからの教師がつけるべき授業力の要素について、第2部では個人の授業力を組織的に高める実践方法について考えたい。


第1部 巻頭インタビュー
推理と想像力をかきたてる授業が、
子どもの学びを深くする
今泉 博 北海道教育大教育学部釧路校助教授(取材時・東京都公立小学校教諭)
聞き手
秋田喜代美 東京大大学院教育学研究科教授

 教師暦33年。常に創造的な授業を追及・実践し続けてきた今泉博先生に、これからの教師に必要な授業力とは何かを聞いた。聞き手は、教育現場を広く調査研究し、新しい教育の提言を行っている秋田喜代美教授。


日本の教育は連絡帳で変わる
秋田 今泉先生は教師として三十数年のキャリアをお持ちですが、昔と比べ、いまの子どもは変わってきているという実感はありますか?
今泉 確かに変わってきていますね。朝から「ムカツク!」と言う子もいれば、いらいらして歩き回る子、本を投げる子、ノートを破る子もいます。事情をよく聞いてみると、朝、兄弟げんかをしたとか、前日母親にひどく叱られたなどの理由がある。ストレスが生活のなかで生まれやすくなっているのだと思います。
秋田 その変化はいつごろから顕著になったとお感じですか?
今泉 学級崩壊現象が指摘され始めた10年ほど前からですね。あるときから、おしゃべりがクラス中に広がって、注意しても通じなくなった。最初は静かにしていても、だれかがテレビの話を始めると、教室中おしゃべりでいっぱいになるんです。そういうときには、もう教師としての自信がなくなり、胸がきゅーっと苦しくなって。対応策が見えないということがよくありました。
 低学年でも驚くような発言をする子がいます。ノートに書こうとしない1年生に、書くよう勧めたら、 「先生、ノートに書くか書かないか、自分で決めていいんでしょ。自分の人生なんだから」って。私は何も言えませんでしたね。「なんのために勉強するのか」という言葉が1年生で出てくるなど、以前は想像できなかったことです。
秋田 家庭が変わってきたことも要因の一つでは?
今泉 ええ。ただ、保護者には、学校にいい教育を本気になってやってくれという思いが強くあります。ですから、子どもの心をつかむような実践をしていくと、保護者が急速に信頼してくれるようになる。
 いま、うちの学年では毎週水曜日にお母さん方が交代で読み聞かせをしてくれています。お母さんが自主的に「読み聞かせのノート」をつくって、子どものようすを綴り、次のお母さんに申し送りをするということが行われています。そのノートには、お母さん方の教育を見つめる温かで確かな目が表現されています。そんなところから、一緒になって考え合うことができれば、保護者と学校との関係も変わってくるし、子どもにもよい影響を与えていくと思います。
秋田 実践を通じて親とつながり、学び合っていくということですね。
今泉 はい。実際、保護者から教えられることはよくあるのです。5年生で、それまで全然発言しなかった子が、はじめて発言したときに、連絡帳でそのことをほめたことがありました。それを見たお母さんが、「これまで、よいことで学校から連絡をもらったことはなかった」と感激していました。そのとき、子どもの日々の輝きを伝えていくことがどんなに大事かを教えられた気がしました。
 私は、日本の教育は連絡帳で変わると思っています。連絡帳を通して、教師と保護者が子どもの輝きを本気で伝え合い、支え合っていけるような地道なコミュニケーションを図るところから、教育は変わっていくのではないでしょうか。
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