ベネッセ教育総合研究所
特集 教師の「授業力」向上のために
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取り組みを組織的に高めていくには
 個々の先生の「授業力」を組織的に高める方法を、4観点から考えてみます。

(1)ファシリテーター(注)を決めて、批判的に見る目を養う
 まず、具体的な授業を取り出してきて、研究することです。授業を取り出す方法は、二つ。一つは、研究授業として特別な授業をする、もう一つはビデオカメラなどで普段の授業記録をとることです。
 ただ、いくら授業を対象化しても、それを批判的に見る目がなければ、授業力を高める効果は期待できません。私が勧めたいのは、「批判する人」「ほめる人」という役割(ファシリテーター)を決めて、お互いに言い合うロールプレイ・ディベートをすることです。
 学校は、階層の少ない組織構造で、そのために教師同士が互いの教育内容に口出ししにくい関係・文化が生じています。実際、同僚の教育法に口を出すのは、よほどの場合でなければできません。だから、頑張っている先生も個人プレーにとどまりがちです。しかし、「役割を演じるんだ」と考えれば言いやすい。そうした雰囲気のなかから学べることが多いはずです。

 ファシリテーター
ここでは、学校の課題に対して、主体的な活動を促したり支援したりする促進者のこと


(2)本物の授業を見せて刺激を与える
 先生方に「変わろう」という意識を持ってもらうには、力量のある先生の、本物の授業を見せることがいちばんです。しかも、これから力をつけたい先生の教室と同じ条件の授業を見せることです。つまり、力のある先生が鍛えたい先生のクラスに行って授業をしてみせるわけです。学内に適任者がいなければ、学外から招いてもよいでしょう。私は、そうした役割は教育委員会の指導主事にこそ担ってほしいとかねがね思っていますが、学校規模が小さくなり教師同士の刺激が少なくなっている小学校では、こうした率先垂範型が最も有効だと考えています。

(3)学校の強みを生かして
 さらに、学校の置かれている状況を生かして授業力を上げていきたいものです。
 都市部の強みは、近隣に多くの研究者がいること。教育学に限らず、教科的知識や方法を教えてくれる人もいます。あるいは世界にネットワークを広げているような人もすぐ見つかる。そのような人々と協働することで、互いのよさを発揮できるようになると思います。
 地方の強みは、学校と校区の風通しがよいことです。学校がどのように見られているか、どんどん情報が入ってくる。村落共同体的文化が残っているので、いざ学校に何かあれば、校区をあげて協力してくれる。また、都市部ほどは子どもの生活のスタイルに大きな違いがないので、生活と教育を結びつけやすくなる。「総合的な学習の時間」をはじめとして、地域を授業に巻き込むことで、教師の授業力が高められます。

(4)自己効力感が生まれる工夫を
 もう一点、教師の授業力向上に欠かせないのは、自己効力感を得られるようなサイクルを回していくことです(図2)。
図表
 教師一人ひとりが、小さくてもよいので「手応え」が実感できるような体験を積む。そうすることで自己効力感が生まれ、「もう一度」という反復動機につながります。自己効力感が高まると、「観の転換」が起き、さらに高い目標にチャレンジしようとする「挑戦動機」が刺激されます。
 まずは、身近なこと、無理せずにできることから始めてみましょう。それが効力感を生むことにつながります。(談)


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