ベネッセ教育総合研究所
特集 教室を超えて生きる国語力
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発表・討論の力を育成して社会が求める国語力を養成する
 OECD(経済協力開発機構)が2000年と03年に行った「生徒の学習到達度調査(PISA)」では、日本の生徒(15歳)の読解力の低下が浮き彫りになった。00年調査の8位から03年では順位を14位と下げたばかりでなく、調査結果を詳しく見てみると、さらに点数以上の課題が見えてくる。その一つが、文章を解釈したうえで自分の意見を書く自由記述問題での無答率の高さだ。
  「こうした問題を解くには、(1)本文を正確に理解したうえで、(2)それを根拠にして、(3)自分独自の解釈を述べる力が必要です。このような力は、社会で生きていくうえで必要な国際基準の力と考えられます」(有元氏)
  そもそも日本人は人と違う意見を言うことに慣れていないと言われる。控えめな態度を良しとし、議論によって新しいものを生み出すことを強く求めない文化は、学校教育の中にも同様にある。例えば、テストの記述問題も児童に自由に書かせるものは少なく、正解を求める問題がこれまで主流だった。
  しかし、社会は大きく変わり、日本も国際競争を生き抜くために、議論を重ねて新しいものを生み出したり、論理的に相手を説得したりする必要が出てきた。そんな背景から、国語教育でも「自分の意見を述べる力」が求められるようになっている。それは学習指導要領にも明示されており、実際、高校や大学の入試も、問題の本質をとらえ、各自の考えを論理的に表現する力を試す出題が増加している。
 こうした新しい時代に求められる「国語力」をつけるには、どのような授業を行っていけばよいのだろうか。ここで意識すべきなのは、日々の授業で子どもたちに発言・議論させる時間をきちんと確保すること、そして発言内容の知識的な正確さではなく、「根拠」を指し示す姿勢こそを評価することだ。
 「意見には根拠があってこそ、議論を深め、聞き手を説得することができるのです。子どもが自分の意見を言う場を増やすと同時に、必ず『なぜそう思うのか』と尋ねることが大切です」(有元氏)
 そのためには、「調べる→発表する→討論する」というスタイルを授業に取り入れていくことが効果的だ。
図表
 「調べたことを根拠にして発表することで、より相手に説得力をもって意見を伝えることができます。このような授業形式を、国語だけでなくあらゆる教科に広げていくことが重要です。『総合的な学習の時間』もそうした取り組みの実践に適しているのですが、多くは一過性の体験だけで終わりになってしまっていて、知的活動に結びついていないのが現状です。PISAの読解力で2回連続1位の好結果を収めたフィンランドでは、文字資料を使って調べたことをまとめ、発表し、討論する『プロジェクト学習』があらゆる教科で行われています」(有元氏)
図表
 読書活動も、こうした討論の場に結びつけることができる。 「日本の読書の多くは個人読書で、読んだらおしまい、または感想文を書かせて終わりです。しかし、読んだ内容についてみんなで話し合う場を設けることで、知的触発を受け、子どもたちはさらにコミュニケーションの力をつけることができます」(有元氏)
  さらに、こうした授業や読書を通じた試みのなかで、「批判的な思考」を指導していくことも視野に入れたい。ここで言う批判とは、「個人(相手)」に対する批判ではなく、相手の「意見」を紳士的に批判するスキルのことで、建設的な議論をしていくうえで必要な力となる。
  また、文章だけでなく図や表などを含むさまざまな文字情報(広告、マニュアル、時刻表など)を教材として授業に取り入れていくことも、読み書き能力を育成するうえで重要である。


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