ベネッセ教育総合研究所
Case Study 学力調査を生かした実践事例
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伝え合う力、考える力を伸ばす
 新治村にある小・中学校4校は、02年度に文部科学省・茨城県教育委員会より「学力向上フロンティア事業」の指定を受け、「確かな学力」の向上を目指して研究を進めてきた。斗利出小学校の研究テーマは「国語科における伝え合う力・算数科における考える力を育てる」で、事業期間は3年間。04年度は総括年度にあたる。
 図1が、斗利出小の研究構想である。
図1
■図1 「一人ひとりに確かな学力をつける指導法の研究」構想
〜国語科における伝え合う力・算数科における考える力を育てる指導の在り方〜
写真1 踊り場の掲示
■写真1 踊り場の掲示
踊り場には、図1の構想が、子どもにもわかりやすい内容で貼りだされている
この構想に基づき、斗利出小学校では3年間、さまざまな試行錯誤を繰り返してきた。
 02年度は、「伝え合う力」「考える力」を伸ばすために、まず基礎学力をしっかりつけることが大切と考え、国語の漢字練習、算数の100マス計算に重点を置き、間違えた箇所の見直しと反復練習に多くの時間を割いてきた。「基礎学力は確かに定着してきた」という実感はあったが、「どうも何かが足りない」という思いが先生たちの中で次第に強くなっていったという。
 「斗利出の子どもたちは、言われたことはきちんとやれるのですが、自ら考えたり、考えを人前で発表したりすることが苦手でした。また、基礎学力だけでなく応用力を伸ばすとさらに良いなと感じたのです」と、03年度に着任した研究主任の古宇田晶子先生は、子どもたちの印象をこう語る。この感触は、04年2月に実施した「学力調査」(注1)の結果でも「これまでに学んだことを組み合わせて考える」や「授業でならったことを生活に結びつける」といった項目のスコアが低いことで、数値的に裏付けられたと感じた。

(注1)ベネッセの「総合学力調査」。教科学力に加え、「学びの基礎力」「生きる力」を加えたトータルな学力を捉える調査

 先生も今までは、「見直しや確かめを行いなさい」「よく読みなさい」「できないところは繰り返し練習しなさい」などという、基本的学力を伸ばすための働きかけを子どもたちに随時行ってきた。しかし、今まで学んだ内容、たとえば算数であれば既習学習、公式、定義を使って発展的な思考を促すといった指導が足りなかったことも、今回の調査結果で気づかされた。
 さらに、家庭においても「規則正しい生活習慣や人に迷惑をかけないなどの生活面での言葉はかけているが、新聞や読書などの話題で子どもとの文化的・社会的な会話が少ない」という傾向があることが明らかになった。
 このため、04年度からは教師から子どもたちへの働きかけの改善に加え、家庭に対しても、調査結果を学校だよりや懇談会などで発信して、問題点や今後の課題を共有化し、学校・家庭が一つになって子どもたちの学力をサポートできるような体制をとることを、重点的に心がけている。「国語の伝え合う力、算数の考える力」という、2教科を軸とした指導構想が、斗利出小の子どもたちの学力向上に適していたことを確認した上で、さまざまなデータをもとに教師たちで検討を重ねた結果、「人前でも自信をもって自分の考えが伝えられる力を養うために、説明や発表の指導を取り入れた体験的な学習活動に一層の力を注ごう」という結論に達した。
 たとえば、2年生の国語の授業では頭と体を動かしながら、仲間との共同作業を通して、「伝え合う力」「考える力」を伸ばすための工夫をしている。(写真2)
写真2
■写真2 〈実践例〉2年生国語の授業

「おもちゃの作り方を教える店を開こう」

1年生との交流会や学校行事でのワークショップに向けて、2年生の子どもたちが手作りしたおもちゃの遊び方を、1年生にもわかりやすく伝えられるように練習を行う。子どもたちの真剣な説明を受ける先生たちとのやりとりを通して、「伝え合う力」をつけることをねらいとしている
(写真はオープンスペースをフルに活用して、おもちゃの準備をする2年生)

 このほかにも、ニュースキャスターとしてインタビューやスピーチを行うスペシャル番組の制作(5、6年)、村の音楽会でのオペレッタ上演(6年生)など、遊び感覚で楽しく取り組みながら「伝え合う力」「考える力」につなげる授業を工夫している。


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