ベネッセ教育総合研究所
Case Study 学力調査を生かした実践事例
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小中の先生同士で行う模擬授業の実践
 小中連携のための新しい指導計画が進む中、大きなハードルとなっているのは連携を想定した「指導案」づくりだ。
 「実際に関連づけの授業を実践するとなると、毎回の指導案をどうすればよいのかと当惑する先生もいます」(北小学校・藤井先生)
 そこで、指導案づくりのヒントになるようにと考えられたのが「模擬授業」だ。小・中両方の先生が一つの教室に集まり、教師役、児童・生徒役にわかれ、授業を行うのだ。(写真1)
写真1
■写真1 模擬授業の様子
小中両方の先生が、教師役、児童・生徒役に分かれて実施。小中の先生が行うことで、同僚性が高まった
 模擬授業では、45分を15分ずつに分けて、いずれかの部分についてのみ検討することにした。これは、45分の授業全体に批評を加てしまうと、かえって意見が分散し、授業に当たった先生を混乱させるのを避けるためだ。
 「模擬授業に集まった先生全員が自分の授業のつもりでどうしたらいいかを考え合うのです。そのため、単なる批判にならず、全員で作り上げるという感じになります」(北小学校・湯藤由佳先生)
 「模擬授業を通して、小学校の指導法に触れることができ、良いところを吸収できたと思います」(第四中学校・研究主任・湯谷好史先生)
 そして、04年7月には、模擬授業の成果を生かし、5年生の算数の授業で、小・中の先生一人ずつ一緒に教壇に立つという画期的な研究授業が実現した。
 「指導案作りに悩んでいる先生には、積極的に声をかける習慣も根付いてきました。」(北小学校・研究主任・門田雄治先生)
 小・中学校いずれの先生も、情報を交換するときは、児童・生徒の名前と顔が思い出せる。1クラス約15名という人数のためばかりではない、「9年間でひとまとまり」という考え方が小・中学校の教員全員で共有されているからこそ、実現しうることだろう。
 「子どもたちみんなの顔が輝いてくるのが楽しみなんです」
 第四中学校の岡川孝文校長はこう語り締めくくった。
 9年間の一貫性のある指導を実現し、学びの意欲に満ちた子どもたちの姿が、北小学校・第四中学校にあふれることだろう。
 
府中市の「学力向上に向けた取り組み」
●全部の子どもたちを元気いっぱいにする市を目指して
府中市教育委員会は、広島県の「基礎・基本」定着状況調査の結果から、「休日に友だちと遊ぶ」「進んで何かを行う」「部活動への参加」など市の子どもたちの体験や意欲面で課題を感じていた。また、体力測定結果が全国平均より低いこともあり、「遊ぶ・体力・やりきる・挑戦する」などの学力の根っこの部分での課題もあった。
そこで、03年度より「府中市義務教育改革フレッシュアップ計画マスタープラン」(図4)を毎年策定し、「元気いっぱいの府中っ子」づくりを目指して、「学校・地域・家庭・行政」が一緒になって子どもたちに向き合おうとしている。
図4
■図4 府中市義務教育改革フレッシュアップ計画マスタープラン(抜粋)
マスタープランの中では、小中9年間を見通したカリキュラム作りにも取り組んでおり、9年間学ぶ意欲を持続できるような研究も各中学校区で小中が協力しながら行われている。(北小・四中の取り組みもその一環)その中で小中の各教科での単元の連続性を意識する指導が始まるなど、変化もでてきた。
そういった現状の中、子どもの実態を多面的に捉えるために市全体で03年より府中市学力向上のための調査を実施し(04年度も継続)、学力面や生活面での課題に関する客観的数値を提供し、学校を支援している。教育委員会として調査結果を踏まえ、「学習習慣は身についている」が、「理由や考え方といっしょに理解する」「筋道を立てて考える」ことや「家庭で手伝いや自分のことができない」ことがやや弱点である子どもの実態を把握し、21世紀を生き抜くためには、学校だけでなく、家庭や地域も連携した教育活動が必要なことを発信している。
学校・家庭・地域がスクラムを組みながら、子どもの育成を行う。行政は、その支援に徹することで、子どもたちが知・徳・体にバランスよく育つ府中市教育の実現を目指している。
 
「学力調査」の活用と工夫
(1)小・中での実態の統一調査による課題共有
小・中双方の教育課題とその解決策を検討するため、学力調査とあわせて、独自のアンケートを作成し、小・中それぞれの児童・生徒に同じ内容で実施した結果、学習意欲、自己効力感の低さが問題点として浮かび上がった。
(2)複数の学力調査を比較検討する
学力調査では、学びの基礎力を構成する豊かな基礎体験・学びに向かう力・自ら学ぶ力・学びを律する力に関するデータから、小学生の場合について、次のような点が把握できた。
1 自ら進んで興味のあることを学習する意欲、自分の力を伸ばそうとす
  る力がやや弱い。
2 学習の準備をする、最後までやりとげるなど(自分を)律する意識が
  定着していない。
3 高学年に関しては、自己効力感が高まっていない。
一方で、県の行った調査により、取り組みの成果も明確になっている。2004年度の府中市の学びに向かう力、自己効力感については、府中市全体が下降しているにもかかわらず、北小学校ではスコアがアップしていることから、取り組みの方向性に確信が得られた。
(3)専門家による分析指導
福山大人間文化学部心理学科の発達・教育心理学の先生を招き、学力調査の結果を踏まえた上で、6〜15歳までの認知発達について、講義を受けた。さらに、小学4年生の研究授業では、福山大の学生も事後研修に参加し、研究授業を教師が自ら学び、実践する場にする試みも導入した。
(4)保護者への情報提供
小中連携教育の取り組みに関して、保護者の理解を高めるため2004年6月から「小中事務局だより」(図3)を発行。調査結果を含めた小中連携の情報や課題の提示、授業内容について詳しく示し、意識の共有化を図った。
図3
■図3 小中連携事務局だより
小中連携の情報を地域、保護者と共有化し、教員間の同僚性を高めるために発行


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