ベネッセ教育総合研究所
学校現場が長期休業を意義ある機会とするために 夏休みの指導のポイント
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theme1 社会〜自由研究
課題探究型学習の準備には1学期中から取り組む
  課題探究型の事例としてここでは社会を取り上げる。社会の課題としてE中学校が長期休業中に生徒に課しているのがパンフレットづくりだ。04年度の1年生には「○○県に住んでいる人が喜んでくれるような、その県を紹介するパンフレットをつくろう」という課題設定とした。生徒は自分の担当する都道府県を選択して、パンフレットづくりを手がけることになった。
  ただし、単に「○○県の特色を紹介する」という設定だけでは、生徒への自由研究の動機づけとしてはいささか弱い。そこで「県外に住んでいるおじいちゃんやおばあちゃん、またはその都道府県の観光・広報担当の方に取材して、その人たちに喜んで読んでもらえるパンフレットをつくろう」というように、ターゲットを明確にして、さらに取り組みの設定を具体的なものにしたという。
  できあがったパンフレットは、実際に祖父母や県の観光・広報担当者に送付することにした。課題探究型の学習では、「研究成果を第三者に見てもらい、評価してもらう」ことを前提にテーマを設定すると、生徒の姿勢は俄然変わってくるものだ。
  生徒の多くは、祖父母や観光・広報担当者に問い合わせるなどして資料を入手した。それらの資料を活用しながら、「この県は農業が盛んで、たくさんの果物や野菜がとれる。だから“食べもの”に注目したパンフレットをつくろう」というように、担当した都道府県の特徴やアピールポイントを自分なりに考えながら、パンフレットづくりに取り組んだという。いわばパンフレットづくりを通じて、社会科的な資料の読み込み方や、活用の仕方を実践的に身につけていったわけだ。
  「ただし、パンフレットづくりは、いきなり生徒たちに『夏休みの課題だからやりなさい』と言っても、できるものではありません。本校の場合、7月の授業のうちの2〜3時間を準備期間に充てました。そこでは、パンフレットづくりの事前作業をさせながら、お互いに作成中のものを見せ合い、『こんな視点で作成すると面白いものができる』『こんな見せ方をするとわかりやすい』といった情報交換を生徒同士でさせたんです。課題探究型のテーマでは、こうした事前の仕掛けが不可欠だと思います。さらに2学期の初めに発表会を設けるなど、事後の指導も重要です」
  同時にE中学校の社会では夏休み直前に、県庁所在地テストや国名テスト、年表テストといった“暗記物のテスト”も実施しているという。
  「夏休み前なら、生徒もイヤなものをすべて終わらせて休みを迎えたいがために一生懸命勉強します。さらにテストを通じて夏休み前に県庁所在地を覚えさせておけば、生徒が夏休みにパンフレットづくりをするときに、その知識が直接役に立つというメリットもあります。このように授業やテストで覚えたことが夏休みの課題に取り組むときに生きていくというように、授業と課題との連続性を持たせる工夫を常に心がけています」
  E中学校では05年度の夏休みは、2年生を対象に「日本に近い国を、その国の親善大使になったつもりで紹介するパンフレットをつくろう」という課題を設定する予定だ。既に1学期中から授業のなかで話し合いの時間を設けるなどして、準備を進めている。
  「“日本に近い”といっても、韓国や中国といった地理的に近い東アジアの国々だけではありません。例えば、人口密度が“日本に近い国”を選ぶこともできれば、産業構造が“日本に近い国”も選ぶことができる。生徒が自分なりの視点で日本に近い国を見つけてきて、興味を持って切り込んでいき、その国の文化を伝える作品をつくることに期待しています」
図2 課題の作品例(クリックすると拡大します)
図2
▲「○○県の特色を紹介する」自由研究作品。休業前の授業時間時間内で取り組ませ、クラスで仲間の作品から学び合い、そのうえで、長期休業中に本格的に取り組ませた。1学期の授業で資料や新聞などで調べ学習を行い、長期休業中に「自分で実際に行って確かめる・やってみる・感じてみる・本物をみる・挑戦してみる」ような手法で調べ学習を深めるように生徒を指導した


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