特集 コミュニケーションが生まれる授業づくり
東京都
江東区立南陽小学校

1975年開校。05年度から「江東区まなびプロジェクト」推進校の指定を受け、全教科・領域での授業研究を進めている。教育目標は「進んで学ぶ子」「思いやりのある子」「元気な子」。

稲富三夫

▲校長 稲富三夫先生

児童数◎537人
学級数◎16学級
〒135-0016
東京都江東区東陽2-1-20
TEL 03-3649-3461
FAX 03-5690-4014
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ed.jp/nanyo-sho/


VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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【事例1】「対話」のある授業づくり

教師の「待つ姿勢」が子どものかかわり合いを引き出す

東京都 江東区立南陽小学校

互いに深くかかわろうとしなかった子どもたち……。教師が子どもの話を聴くことで、子どもたちも互いの話を聴き、相手の気持ちを思いやったり、かかわり合ったりする場面が生まれてきた。こうした「響き合う授業づくり」を進める南陽小学校を紹介する。

頑張って話すのではなくまずは聴くことから

 南陽小学校5年生担任の木部(きべ)久子先生(主幹・生活指導主任)は、道徳の授業中、ずっと子どもたちの声に耳を傾け続けていた。この日の題材は『努力せずに天才になるには』(図1)。

▼図1 『努力せずに天才になるには』のあらすじ

 インターネットのホームページに、ユカは広告を出した。「モーツァルトのような作曲家になる方法を、教えてください」。
  すると、ディスプレーからミクロ星人のアルファが「ユカは、努力せずに天才になれる」と話しかけてきた。まだしていなかった算数の宿題がアルファの力で終わっていた。
  ある日、ユカはアルファの力を借りて学校の生放送で見事なピアノ演奏を披露。先生や友だち、知らない子からも、褒められた。しかし、ユカはだんだん暗い顔になっていく。
  「うそをついてまで、天才にならなくてもいいの」と、「私は私」であることをユカは選択した。

大野哲郎著・清水保徳編著『新しい読み物資料で新しい道徳授業を創る 5・6年生―生き方を深く考える』(明治図書出版)より

  「あきらめずに努力するのではなくて、頑張らないでも天才になれたらどう?」
  一通り朗読したあと、木部先生はそう問いかけ、「A君はどう思う?」「自分はどうなの?」などと子どもたちの考えを聴いていく。
  「努力しないで天才になると、喜びが少ないと思う。努力すれば、悔しいこともあるけど、楽しいこともある」
  「テストで友だちに負けたらもっと努力をしようと思うし、勝っても、もっと上を目指そうと努力するようになる。頑張るから点数が上がると思う」
  次々と飛び出す友だちの話を聴いていなかったり、ふざけていたりするような子どもは1人もいない。机をコの字型に並べた教室で、木部先生のフォローを受けつつ、「A君の意見を聞いて思い出したけれど……」「私もBさんと同じです」など、子どもたちは前の発言者の思いをくみ取りながら、自分も発言をする(写真1)。
  新しいクラスになって3か月。この日、それまで全く発言していなかった児童3人が、初めて自ら手を挙げた。
  「すっきりした」
  授業後、そのうちの1人がこう漏らしたのを、木部先生は耳にした。
  なかなか自分の意見を発言できない児童の中には、「Cさんのように話せるようになりたいから、次、頑張ります」と道徳の授業の感想文に書くこともある。しかし、木部先生は「とにかく聴こうよ! そんなこと頑張らなくてもいいから。みんなの意見を聴いて、その中で一番好きだな、自分の考えと近いな、というのを探してごらん。そうすれば言えるようになるから」と言い続けてきた。

写真
写真1 木部先生の授業では、どの教科も机の並べ方はコの字型。この日の道徳では、スポーツクラブや塾での出来事など、子どもたちは自分自身について語っていた

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