特集 コミュニケーションが生まれる授業づくり

VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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普段は目立たない子どもがゲームでリーダーシップを発揮

 

 7月中旬。梅雨の晴れ間の青空の下、5年生の子どもたちが校庭に集まった。まず、ウォーミングアップとして行われた「木とリス」(写真1)は、子ども同士が自然と混ざり合うゲームだと滝沢先生が解説する。

  「普段は絶対に手をつながない子ども同士でも、このゲームでは接触せざるをえません。それが日常での友だち付き合いのきっかけになればいいな、と考えています」
  ときには「したくない」と言う子どももいる。そんな子どもに対して、滝沢先生は「それなら先生のお手伝いをしようね」などと言い、あまり無理はさせない。
  「フォークダンスで無理に手をつながせてしまうと、二度としたくなくなるのと同じ理由です。ただ、一度溶け込んでしまえば楽しくなってくるので、途中で『入ってみる?』とそれとなく声をかけるようにしています」

写真1
写真1 「木とリス」は、木の役2人とリスの役1人で3人組をつくり、組み合わせを混ぜ合わせていくゲーム。「オオカミが来たぞ」でリスが動き、「木こりが来たぞ」で木が、「嵐が来たぞ」で全員が動く。低学年でも簡単に楽しめる
  一通り体をほぐしたあと、この日のメインである「くまがり」(図2)がスタートした。これは、「クマ」「キジ」「キツネ」が三すくみになって追い掛け合い、宝物を奪うゲームだ。赤帽と白帽の2チームに分かれ、最初は5分間の作戦タイム。子どもたちの作戦会議を覗いてみると……。
  「手を挙げて意見を言いましょう!」
  「守りたい人はこっち。攻めたい人はこっちに来て」
  先生からの指示は一切ないが、自分たちでチームをまとめようとしている。
  「俺、攻めと守りの中間。サッカーでいえばミッドフィールダー」
  「キツネを呼ぶときは1番、キジは100番、クマはゼロね」
  このように、子どもたちみんなが意見を出し合っていく。そして、滝沢先生の号令と共にゲームが始まると、チームの仲間同士で声を出して協力し合うだけでなく、相手にも盛んに言葉での駆け引きを展開する。体と頭を同時に使った一進一退のゲーム模様だった。
  「一人ひとりに役割が与えられているので、普段は控えめな子どもでも、ゲームをしていくうちに無理なくまわりの友だちとかかわっていくようになります。教科の授業では目立たない子どもが、昔のガキ大将のようにリーダーシップを発揮することもあるんですよ」
図2
「くまがり」のルール
  「くまがり」は、クマ、キジ、キツネが三すくみの関係になった鬼ごっこ風のゲーム。クマはキツネを、キツネはキジを、キジはクマをそれぞれ捕まえられる。
  2チームの対抗戦で、各チームはクマ2人のほか、キジとキツネは半数ずつ。相手のクマ2人を捕まえるか、相手陣内にある宝物(サッカーボールなど)を奪ったチームが勝ち。同じ役割同士(例えばキジとキジ)がタッチすると、相打ち(パッカン)となって一時的に活動できなくなるため、味方を助けるためにあえて相打ちを仕掛けるなど、すばしっこさだけでなく、頭を使った駆け引きも重要になる
図2の写真1 輪になって「くまがり」の作戦会議を開く子どもたち。運動能力よりも、作戦が勝負を左右する
図2の写真2
敵に捕まってしまったら、敵の陣内で手をつないで救出を待つ。ゲームの中なので、自然と手をつなぐことができる
  滝沢先生がこのクラスの担任となったのは4年生から。以来、1年以上に渡って対人関係ゲームに親しんでいる子どもたちは、キャンプなど宿泊行事の班割りや部屋割りについて不満を言うことはほとんどない。男の子と女の子が互いの家に遊びに行くなど、男女の仲が良くなってきたことも、滝沢先生は実感している。ゲームの中で「ありがとう」という言葉を口にしたり、声をかけ合って協力したりすることが、互いのコミュニケーションを改善する大きなきっかけになっている。

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