特集 量から質へ―これからの学びを考える
VIEW21[小学版] ともに語る、考える。ベネッセの教育情報誌
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自学自習へと導くノート指導と授業力

 しつけの取り組みを進化させ、確かな成果を上げている田上小学校にも課題はある。学力面を見ると、鹿児島県の学力テストでは県平均を上回っているものの、際立って高得点とはいえないという実態があることも事実である。
  「子どもたちに、思いやりや授業を受ける態度はある程度身についています。あとは、学力そのものを高めることが課題です。そのためにも、わかりやすく、そして魅力的な授業にしていきたいと考えています」(中村校長)
  そんな思いから、指導力向上の取り組みを進めている。中でも、板書およびノートの取り方の指導に力を注ぐ。「板書は授業の基本。教える内容はもちろん、教え方も重要」(中村校長)という考えから、研究授業の板書を写真に撮影して資料にまとめ、各教師への指導に生かしている(写真3)。
  ノートの書き方を重視するのは、上手にノートを書ければ復習がしやすく、家庭学習もしやすくなるからだ。そこで、板書と同様に事例集を作成し、教師間で教え方を共有している(図2)。基本的に板書内容がノートに反映されるため、板書とノート指導は不可分なスキルと捉え、教師全員に徹底させている。
  「児童のノートを見れば板書の内容がわかり、教師の力量も見えてきます」(中村校長)
写真3
写真3 実際の研究授業で使われた板書。学習のめあてやポイントを児童に印象付けられるように工夫されている
図2
  05年度にスタートした「ワンペーパー授業」も興味深い取り組みだ。これは、A4用紙1枚に授業の狙いや流れを記し、互いの授業を参観し合う試み。教師には「気軽に参観しよう」と呼びかけており、「導入の5分間だけ」「児童が考えを練り上げる過程だけ」など短時間でも参観し、自分の授業に戻るケースもある。感想や評価の形式は定めておらず、メモで渡したり、空いた時間に話し合ったりしている。教師各人に任せて負担を軽減することが長続きの秘訣、と考えるからだ。
  「ワンペーパー授業」の実施は、教師の自主性に任されている。それでも、05年度には30回近く実施され、中には「月1回は実施」と自らに課す教師もいる。この取り組みが浸透したことで普段の授業も気軽に覗き合う風通しのよい雰囲気が生まれたという。
  子どもの学習意欲を促すには、学びの連続性も重要だ。「児童には『よくできたね』というよりも、『それは中学校ではこういう学習につながるよ。すごい発見だね』と褒めた方が印象に残るし、児童に考える視点を与えることにもつながります。先を見通すことで指導や評価は格段に深まるのです」(中村校長)
  田上小学校は、中学校や高校、幼稚園とも連携し、積極的に授業を参観し合う機会を設けている。
  地域性と伝統を守りつつ、新たな取り組みを模索する田上小学校は、力強さと柔軟さを併せ持つように感じられた。

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