第5回【座談会】家庭学習のあり方とデジタル教材の可能性(小学校編)

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近年、学校現場でデジタル機器の活用が進んでいる。今後は家庭学習においても、デジタル教材の活用が増えると思われる。デジタル教材をどのように活用すれば子どもの学習に効果があるのか。デジタル教材に詳しい研究者と小学校の先生方に集まっていただき、その課題と解決の方向性について話をきいた。

参加者

藤本 徹 先生【ファシリテーター】 東京大学大学院情報学環特任助教

福島 健介 先生   帝京大学教育学部初等教育学科教授

前島 俊寛 先生   東京都八王子市立下柚木小学校校長

牧野 豊 先生   東京都八王子市立第六小学校教諭、3年生担任

田中 かおり 先生   東京都八王子市立由井第一小学校教諭、6年生担任

小澤 理(まこと) 先生   東京都八王子市立元八王子東小学校教諭、6年生担任

古野 美香 先生   東京都・私立帝京大学小学校教諭、1年生担任

*座談会は2013年1月に行われました。 ※肩書きは2013年2月現在のものです。

保護者に宿題の意図を伝え、家庭学習へのかかわり方を示す

藤本 徹 先生

藤本:今回は、家庭学習におけるデジタル教材の活用について、先生方からご意見をうかがいたいと思います。まず、子どもの家庭学習の状況ですが、2011年にベネッセ教育研究開発センター(現ベネッセ教育総合研究所)が行った「第4回 子育て生活基本調査」によると、「家でほとんど毎日勉強する小学生は42.9%」と、2002年調査と比較して約17%増えています。また、家庭学習における保護者の関与も高まっていて、「学校の宿題を手伝う」と回答した母親は40%に上りました。「ゆとり教育」の揺り戻しや経済情勢の不安定さから、「我が子にしっかり学力をつけさせたい」という意識が高まっていると考えられそうです。先生方は、子どもや保護者と日々接していて、子どもの家庭学習の現状をどのように感じられていますか。

小澤理(まこと)先生

小澤:私は、保護者の子どもへのかかわりが二極化していると感じています。生活習慣が身についている子どもは家庭学習にもきちんと取り組んでおり、保護者が家で支援している様子がうかがえます。一方、生活習慣が未定着の子どもは家庭学習もままならず、保護者は家庭学習どころか、学校への関心が薄いように感じます。また、もう一つ問題に感じていることは、子どもの勉強について、保護者が関心を持つ視点と、教師がみてほしいと思っている視点がずれているケースがあることです。

田中かおり先生

田中:私も、保護者の子どもの家庭学習へのかかわり方で、保護者の意識と教師の意識にミスマッチが起きていると感じています。一例ですが、ある子どもは、調べ学習の宿題が出されたとき、何を調べようとしているのか母親に話したら、調査の仕方を指示され下書きもチェックされて、書き直したと言っていました。子どもによい作品をつくらせたいという親の気持ちはわかりますが、子どもの意欲や自主性を引き出そうと自由に取り組めるようにしているにもかかわらず、親がその芽をつみ取ってしまっているのです。

古野美香先生

古野:私の勤務校は私立校だからか、保護者は教育に熱心な方ばかりです。2012年度は1年生の担任をしていますが、1年生でも保護者がここまで勉強を支援しているのかと驚くほどです。ただ、「これをやりなさい」「あれをやりなさい」と細かく指示を出しすぎていては子どもが自分で勉強できなくなり、今は学力が高くても将来伸び悩むのではないかと考えてしまいます。

福島健介先生

福島:調査結果をみると、学校の取り組みの中でも「教科の基礎的な学力をつけること」や「宿題の内容や量」に対する保護者の満足度が年々上がっています。この結果をみても、保護者が「勉強」「学力」に高い関心を寄せていることがわかります。しかし、漢字が書け、四則計算ができるといった学力ばかりに目が向いて、勉強を通して身につく力、例えば、主体性や創造性、忍耐力などの成長にはあまり注目していないのかもしれません。学力の向上はもちろん大切ですが、家庭学習には勉強を通した人間的な成長という目的があることも、保護者にきちんと伝えることが大切でしょう。

牧野豊先生

牧野:保護者が宿題にかかわりすぎるのは、学校の指導について不安に思っているからかもしれません。保護者は、担任や学校との情報のやりとりがきちんとできていると感じられれば安心し、学校に信頼を寄せます。情報公開の重要性は学校現場に浸透しつつありますが、家庭学習を効果的なものにするためにも、保護者に宿題の意図を伝え、協力関係を築くことが重要です。

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家庭学習の内容は各子どもの課題に応じて分ける

藤本:家庭学習の目的には、ただ単に授業での学習内容の定着を図ることだけではなく、自主的な勉強で学習習慣を身につけることもあるのですね。家庭学習の指導で工夫されていることはありますか。

小澤:私は2012年度は6年生を受け持ちましたが、中学生になるまでに自律性を身につけてほしいと考えて、家庭学習の指導をしました。本校では6年生の1日の家庭学習時間は60分を目安としているので、30分を私が出した宿題、もう30分は自分の好きな勉強としています。正直なところ、算数が苦手な子どもには計算問題に取り組んでほしいと思いますが、そればかりをさせていると勉強自体を嫌いになってしまう危険もあるため、子どもに任せる部分を設けています。また学級通信で、頑張っている子どもの自学ノートを紹介し努力を認めるとともに、クラスの子どもに刺激を与えています。

田中:家で復習をしなくても基礎学力が定着している子どももいれば、家で必ず復習をしてほしいと思う子どももいます。そこで、私は個別に対応し、例えば、漢字の書き取りや計算ドリルが必要な子どもにはそうした宿題を出し、基礎学力が定着している子どもには調べ学習をするように指導しています。自主学習とすると手を抜いて、既に書ける漢字の書き取りをしてくる子どももいるので、自由とはいえ、ある程度は指示をしています。

前島俊寛先生

前島:校長として課題に感じるのは、個別指導の重要性は認識しているのですが、先生方が多忙で対応しきれていないことです。以前は先生が個人的に、学習が遅れている子どもに放課後補習をすることがあったと思いますが、そうした余裕がなくなってきています。小澤先生や田中先生のように指導するのがよいとは思いますが、なかなか実現できていません。

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デジタル教材をきっかけに意欲の方向を広げる

藤本:今までのお話を踏まえると、学校での指導に時間的な制約がある中で、家庭学習の質をどのように上げていくかが重要な課題の一つといえそうです。今回はその課題解決の手段として、デジタル機器やデジタル教材を取り上げたいと思います。具体的に家庭学習では、それらをどのように活用していくとよいのでしょうか。

古野:時間がない中での解決法の一つとして、デジタルドリルが使えるのではないかと思います。授業用教材としてですが、本校では2012年度に導入しました。デジタルドリルはタブレット端末に出てきた問題に手書きで答えを書きますが、その場で採点されるので、正解した子どもはどんどん先に進めます。間違えた場合には何度でも復習でき、また教師はつまずいている子どもを個別に指導できます。また学習履歴が蓄積され、苦手分野に応じたプリントを作成できるので、個別に出せます。調べ学習は教師が見て評価すべきものですが、基礎学力の定着に関してはデジタルで解決できる部分が多いことを、1年間使って実感しました。教材を準備する負担が軽減されるという利点もあり、子どもとかかわる時間が増えました。私自身、もっと教材研究をして、きちんと使いこなせるようになりたいと思っています。

小澤:確かに、それは有効活用できそうです。教師が知りたいのは、この子はどこが苦手なのか、どこでつまずいているのかです。デジタル教材ならそうしたデータを基に適切な指導を考えられ、自信を持って子どもに接することができます。また、デジタル教材のよさは、実際には体験できないことを疑似体験できることにもあります。先日、情報モラル教育の授業を行った際に、デジタル教材を使ってロールプレイを行いました。この体験が子どもたちの興味・関心を刺激し、自分で勉強するきっかけになればよいと考えます。教師が活用するにしろ、子どもが活用するにしろ、デジタル教材は起点になるものだと思います。

田中:家庭教育での経験から、私も同感です。私の子どもは小学2年生なのですが、子どもの調べ学習に役立てられないかと、家庭用にタブレット端末を購入しました。早速、日本地図で都道府県を覚えるゲーム式のアプリケーションをダウンロードしたのですが、使ってみて感じたのは、アプリケーション単体では学習意欲を継続させにくいということです。親としては、ここに出てきた県はどういう県なのだろうと子どもが主体的に調べるようになってほしいのに、子どもは県名を当てたら、それで満足してしまったのです。私は、さらに学びを深めるために「都道府県カレンダー」という週めくりのカレンダーを併用しています。その県にはどんな特徴があるのか、「なぜここに湖があるのかな?」「形に着目してみよう」などと語りかけながら、関心を引き出しています。

藤本:地図のアプリケーションは、勉強のきっかけとしてはよかったけれども、勉強の広がりの面では物足りなかったということでしょうか。

田中:ゲーム式の教材には、ステージが進んだりレベルが上がったりする達成感はあります。しかし、「正解を出して、早くゴールを目指す」ということが目標であり、その目標さえ達成してしまえば、興味を失ってしまいます。本来、子どもの興味・関心は四方八方に伸びていくものなのに、ゲームにはその広がりがないのです。ですから、その広がりがデジタル教材にも盛り込めればよいと思います。もし、デジタル教材単体では難しいならば、本などの他の教材と連携させるのもよいと思います。

福島:デジタル教材選びにおいても重要なのは、子どもをしっかりみて、何を課題としているのかを見極めることです。あるデジタル教材が有効な子どももいれば、そうでない子どももいます。教材を購入するときは教材の中身にばかり目が行きがちですが、家庭で活用する場合は自分の子どもに合っているかどうかをしっかりみてほしいと思います。

藤本:家庭学習習慣の定着も重要な課題となりますが、デジタル機器やデジタル教材がどう活用できると思いますか。

古野:デジタル機器では、タイマーで一定の時間にアラームが鳴るようにしておくことができるので、毎日同じ時間に机に向かう意識づけにはよいと思います。ただ、それは学校のチャイムと同じで、学習習慣の手始めになるとは思いますが、いつまでもそれに頼っていては定着にはつながらないでしょう。

前島:何でも、継続させるためには達成感があることが重要です。周りの人に認めてもらい、声をかけてもらうことが、次への意欲になります。デジタル教材にも「よかったね」「おめでとう」と褒める機能はありますが、人間とのかかわりの中で得られる達成感をデジタルでどこまで味わえるかがポイントになると思います。

牧野:自分の体験を思い返すと、4年生のときに毎日家庭学習を続けられたのですが、それは課題を提出したら担任が丸をつけて返してくれていたからです。デジタル教材を家庭で使うとしても、子どもが利用するだけで完結させずに、保護者がかかわれる内容であればよいと思います。

藤本:デジタル教材はあくまでも教材の一つであり、それに頼りきりになるのではなく、子どもの課題に合わせて活用することの重要性がよくわかりました。私も研究者として、デジタル教材の可能性を追究し、学校の学習と家庭学習がつながるような、よりよい教材をつくっていきたいと思います。本日はありがとうございました。

2013年2月25日 掲載

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