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第3回【ベネッセ研究員より】 小学校入学前後の子どもを持つ親の悩みと課題
            〜『幼児期から小学1年生の家庭教育調査』(自由回答分析)より〜

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ベネッセ教育総合研究所 次世代育成研究室 研究員 田村 徳子

【要旨】

ベネッセ教育総研次世代育成研究室では、2012年1〜2月に年少児から小学1年生の母親を対象に「幼児期から小学1年生の家庭教育調査」を行った。

小学校入学前後の親の気がかりについて、自由回答を分類したところ、年中児では「生活と発達」(偏食、落ち着きのなさなど)、年長児では「友だちとの付き合い」、小学1年生では「勉強・学習」(ついていけるか、宿題、家庭学習など)であった。これらから、小学校入学前後で生活環境や学習環境が変わる中、友だちと仲良くかかわり、楽しみながら学習生活を送ってほしいと願っている親が多い様子がうかがえる。

また、幼児期の過ごし方に関しては、調査データ結果から、幼児期の豊かな経験や文字・数に親しむ習慣が小学校入学後の家庭での学習習慣と関連する傾向がみられた。

小学校入学に向けて親の気がかりは、年中児では「生活と発達」、年長児では「友だちとの付き合い」。小学1年生の学校生活での親の気がかりは「勉強・学習」。

小学校入学前後の時期、母親はどのようなことを気がかりに思っているのだろうか。ベネッセ教育総研次世代育成研究室で、2012年1〜2月に年少児から小学1年生の母親を対象に行った「幼児期から小学1年生の家庭教育調査」の結果からみていきたい。

この調査では、年中児と年長児を持つ母親を対象に、子どもが小学校に入学するにあたっての気がかりなことや悩みを自由回答できいている。同様に、小学1年生の母親には子どもの小学校での学習生活についての気がかりなことや悩みについてきいている。

図1. 小学校入学に向けて/小学校生活での気がかり・悩み(自由回答)

小学校入学に向けて/小学校生活での気がかり・悩み(自由回答)

※年中児:1,223名、年長児:1,125名、小学1年生:1,285名の結果。

※1人で複数の意見を書いていることが多いため、分類した意見は延べ件数で集計している。

母親の自由回答から、学年ごとの特徴を紹介しよう。

年中児で最も件数が多かったのは「生活と発達」、年長児では「友だちとの付き合い」、小学1年生では「勉強・学習」だった。学年による推移をみると、年中→年長→小1と子どもが成長するにしたがって「生活と発達」の悩みは少なくなる傾向がみられた。個々の発達や生活上の悩みは、子どもの成長とともに徐々に減っていくようである。

「勉強・学習」「小学校の状況」は、学年があがるにつれて増加する傾向がみられた。小学校入学が近くなるにつれて、学校への興味関心が強くなる様子がうかがえる。「友だちとの付き合い」「新しい環境への順応」「子どもの安全」は、年長児がもっとも多く回答していた。

調査は1〜2月に行われたので、年長児の場合、小学校入学直前の学校説明会が行われる時期にあたり、小学校生活で子どもが友だちとうまくやっていけるのか、新しい環境になじめるか、登下校の安全はどうかなどを気がかりに思う時期だったこともあるだろう。

一方この時期、小学1年生は小学校生活を約10か月過ごしており、子どもが安全に登下校し、新しい環境になじんで、仲良しの友だちもいる姿をみて、気がかりに思うことが少なくなるのかもしれない。

ベネッセ教育総研次世代育成研究室が小学1年生の母親を対象に行った「小1ママと子の放課後生活調査」(2009年)では、子どもが小学校生活に慣れてきたと感じられるのは、6月がもっとも多く約3割、「4月〜7月」を合わせると7割強をしめることから、1学期の間には、ほとんどの子どもたちが学校に慣れていく様子がうかがえる。

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表1.  学年ごとの親の気がかりや悩み(自由回答より)

学年ごとの親の気がかりや悩み(自由回答より)

次に学年ごとに自由回答を細かく分類して、1位から10位までを並べた。先に述べた親の気がかりや悩みとして多くあげられた項目を中心に詳しくみていきたい。

年中児では、「生活と発達」の悩みが多く、「偏食」「生活リズム」「言語面の不安」「コミュニケーション」など、多岐にわたる。

年中児では、「生活と発達」に関する悩みが他の学年よりも多く、「偏食」「生活リズム」「言語面の不安」「コミュニケーション」など、内容が多岐にわたっている。

「偏食」の詳細内容は、好き嫌いが多い、食が細い、アレルギーを持つ、給食をどう乗り越えられるか心配、といったものが多くみられた。

また、年中から小1を通して共通してあがったのが「落ち着きのなさ」だった。「あと1年で、小学校の授業で座っていられるようになるか、先生の話を聞いていられるようになるかが、とても不安(年中・男子)」「好奇心が強く、興味がわいた方にすぐに意識がいってしまうため、授業などで先生の話をしっかり聞けるかが心配(年長・女子)」など年中児・年長児では授業中に先生の話を聞いていられるかどうかについての不安が多くあがった。

小学1年生になると「最近は勉強も集中力がなく、すぐ違うことをしようとして宿題がなかなか終わらない(小1・女子)」など、集中力がないという回答がみられた。

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年長児で多いのは、「友だちとのかかわり」。ただし、友だちと関係を築いて楽しく遊べることを望む声はどの学年も共通である。「勉強や学習」では、授業についていけるか、入学時点でどの程度まで読み書きや理解が必要かを気がかりに思う声が多い。

年長児で最も回答数が多かったのは「友だちとのかかわり」である。

「おとなしく積極性に欠けるので、担任の先生や友だちとうまく関係を築いていけるのかが心配(年中・女子)」「幼稚園よりもたくさんの友だちと過ごすことになるので、その中で楽しくたくましく生活していけるか気になっている(年長・男子)」など、「うまく遊べるか」「友だちを作ること」「いじめ」に関する内容があがった。また、年長児では「生活と発達」の分野で「偏食」「落ち着きのなさ」「コミュニケーション」が10位以内に入っている。

「勉強や学習」では、「ついていけるか」、「入学時の能力」への気がかりがあがった。年長児の自由回答をみると、「授業についていけるか」とのみ書かれていることが多かった。

入学時点での能力については具体的な内容を示す声が多く、「どの程度まで読み書きや理解があればよいのか。生活面もどの程度までできればよいのか目安が分からない(年長・男子)」「小学校の先生のお話で、自分の名前の読み書きさえできればよいと知り安心した(年長・男子)」「入学するまでに自分の名前を読めるようになっておくべきなのは分かるが、書けるようになっておくべきという学校の方針は理解できない。学校に入ってから教えればよいと思う(年長・男子)」など、目安についての声が寄せられた。

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小学1年生では「勉強や学習」に関するものが多く、宿題を嫌がったり自分からしないことが気になるという声があがった。「小学校について」では、主に小学1年生での授業時間の長さや、先生の指導の質についての不安や疑問がみられる

小学1年生の「勉強や学習」では、「家庭で学習しない」「ついていけるか」「読み書きの習得」が上位にあがった。

家庭での学習について「毎日、適量の宿題があるが、なかなか自発的にこなすことができないので、学校では大丈夫なのだろうかと思うことがある(小1・女子)」「勉強が大嫌いで、宿題も無理にさせようとすると泣いてあばれる。字もきたないので、もう少し勉強を好きになってほしい。今、1番手がかかって大変(小1・男子)」など、宿題への取り組みの様子を見て、気がかりに思う声がみられた。

また、「友だちとのかかわり」では、「友だちを作ること」「うまく遊べるか」が気がかりなこととしてあがった。

「同じ幼稚園の子が少ないためか、まだ友だちとうまく遊べないのか、あまり学校が好きではないようだ(小1・男子)」「学習面で不安はないが、友だちとのかかわりがうすく気になる。学習面は家庭でフォローできるが、親が友だちを作ってやることはできない。しかし、これからの社会では、人とかかわり、もまれていくことは必要(小1・女子)」などの声が寄せられた。

小1では「小学校の状況」に関する気がかりも多い。特に「教育方針」「先生の指導の質」についての声があがった。

教育方針については、「1年生で6校時までの授業は集中力がもたずあまりよくないと感じている。放課後に遊べる時間もあまりとれない(小1・男子)」などがあがった。

先生の指導の質については、授業での教え方や宿題の量についての声に加え、「担任の先生によって、教え方や学習意欲に差がつくように感じる。もっと先生に意欲を出してほしい(小1・女子)」「小学校生活で担任の言葉の影響は大きいと思うが、1年生に対する言い方、6年生に対する言い方をきちんと成長段階を考えて発言してほしい(小1・男子)」「学校の先生の勉強以外での指導力がなく、クラスがざわつく感じがする。みんなをまとめる力や、人としての部分の指導が足りない(小1・女子)」など、小1の発達に合わせて丁寧にみてほしいという声が寄せられた。

ベネッセ教育総合研究所で行った調査でも子育ての気がかりについて母親を対象にきいているが、小学1年生では犯罪や事故への心配、ほめ方叱り方、友だちとのかかわり、食事に関するものが多くあがった(「第4回子育て生活基本調査」、2011年)。

小学校に入り生活環境が大きく変化することを背景としたものが多く見受けられた。

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親の気がかりや悩みの根底にみられるのは、生活環境や学習環境が変わる中、子どもが毎日元気に学校に楽しんで通い、友だちと仲良くかかわりながら、成長に合った学習生活を送ってほしいという願い。

今までみてきたように、小学校入学前後の親の気がかりは、年中児で「生活と発達」、年長児で「友だちとの付き合い」、小学1年生「勉強・学習」と少しずつ変化していた。その根底にあるのは、子どもが毎日元気に学校に楽しんで行き、友だちと仲良くかかわりながら、先生方の丁寧な指導のもとで学び、充実した小学校生活を送ってほしいという親の願いなのではないだろうか。

 幼児期から小1にかけての生活や学習の変化については、同じ調査の中で詳しくみているが、幼児期の豊かな遊びの経験(集中して遊ぶ、身の回りのさまざまなことに興味を持つ等)や文字・数に親しむ経験が、小1での「机に向かったらすぐに勉強にとりかかる」「勉強が終わるまで集中して取り組む」といった学習習慣の定着に関連する傾向がみられた。

「幼児期から小学1年生の家庭教育調査」より)

今回、子どもの生活環境や学習環境が大きく変わる小学校入学前後での、親の悩みと課題をみてきた。幼児期の豊かな経験や文字・数に親しむ習慣を小学校での学習生活にどのように結びつけるか、友だちとかかわり合いながら物事に集中し挑戦し、学びに向かう力を育むことが、子どもが安定した学習生活を送るための基盤として大切に思われる。[END]

2013年1月23日 掲載

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