「データで考える子どもの世界」

第1回【ベネッセ研究員より】
             中1の壁を「乗り越え」「伸びる」ために必要なこと
            〜 『中学1年生の学習と生活に関する調査』の結果を踏まえて 〜

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ベネッセ教育総合研究所 主任研究員 樋口 健

【要旨】

 小学校から中学校に進学すると、多くの中学1年生は学習面をはじめさまざまな環境変化に戸惑いを感じる。いわゆる「中1ギャップ」は中学生にとって普遍的な課題である。しかし一方で大半の生徒は学校に楽しさを感じており、柔軟に適応している。学校に適応する生徒には行動面でいくつか特徴がある。まず入学後の初期段階で基本的な生活習慣の確立や積極的な友だちづくりの努力を行っている。また部活動や学校行事など課外活動に熱中している。学習面で伸びる生徒は、既に自己学習の力を備えている。しかしこれらの力は中学校でにわかに身につくものではない。小学校と中学校、家庭が連携し、小中接続の課題として捉える必要がある。

※『中学1年生の学習と生活に関する調査』の概要

調査目的: 中学1年生段階で生じる学習面・生活面などでの問題状況とその要因についての把握
実施時期: 平成24年7月
調査対象: 全国の中学2年生とその母親(3,043組)
調査方法: インターネット調査。インターネット調査会社のモニター母集団の中で、調査協力可能な中学2年生の子どもを持つ保護者(母親)とその子どもに回答を依頼。中学1年時を振り返る形で質問し、3,043件の回答が回収された時点で調査を終了。

普遍的課題としての中1ギャップ

小学校から中学校に進学すると、学校生活や授業が小学校の時とは一変する。勉強の内容が難しくなり授業のスピードも増す。定期テストが始まり、自分の学力の現実を思い知る。人間関係面では、さまざまな小学校から生徒が集まるため新しく友人をつくる必要がある。部活動も始まり、毎日の活動に参加しなければならない。

こうした環境変化に、中学1年生の多くが戸惑いを感じることになる。いわゆる「中1ギャップ」である。特に学習面では、9割近くが「中学校1年生の時、苦手と感じるようになった教科がある」と答えている(図1)。中1ギャップは、大半の生徒が感じる、中学校に適応する際の普遍的な課題である。

図1. 中学校1年生の時、苦手と感じるようになった教科があるか(中学生回答)

中学校1年生の時、苦手と感じるようになった教科があるか(中学生回答)

※ 出典:ベネッセ教育総合研究所『中学1年生の学習と生活に関する調査』(2012年)

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充実した中学生になるための「初期努力」

しかし一方で、子どもは主体的に努力し、環境変化に柔軟に適応する力を備えている。ここでは、実に8割近くの子どもが「中学校が楽しい」と感じている事実に着目したい(図2)。

先述した9割近くが「中学校1年生の時、苦手と感じるようになった教科がある」という状況をあわせ考えると、そこには、大半の中学生が学校での新たな学習・生活に四苦八苦しつつも、自分なりの努力をし、充実した楽しい中学校生活をつくり上げている様子がみて取れる。

図2. 中学校は楽しいか(中学生回答)

中学校は楽しいか(中学生回答)

※ 出典:ベネッセ教育総合研究所『中学1年生の学習と生活に関する調査』(2012年)

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この「中学校が楽しいか否か」を、学校適応の一つの指標としてみると、中学校に適応している生徒は、生活面で次の二つの重要な努力を行っている。

図3. 中学校の入学後、夏休み明けくらいまでにできていたこと(中学生回答)

中学校の入学後、夏休み明けくらいまでにできていたこと(中学生回答)

※ 出典:ベネッセ教育総合研究所『中学1年生の学習と生活に関する調査』(2012年)

■生活を律する主体的な努力

「学校は楽しい」と感じている生徒は、入学後から夏休み明けまでの、いわば中学校の初期段階で、就寝・起床時間などを正し、自分のことは自分で行おうする態度が顕著だった(図3)。また、授業に集中しようと意識する姿勢もみられる。すなわち、生活を自ら律し学校に適応しようとする主体的な努力を行っている。

■積極的に友だちをつくる努力

また、「学校は楽しい」と感じている生徒は、「楽しくない」と感じている生徒と比べるととりわけ、新たな友人をつくろうと積極的に努力する姿勢が顕著である。努力の結果、8割近くが「学校内に自分の本音や悩みを話せる友だちがいる」と回答している(図3)。

逆に「学校は楽しくない」とする生徒においては「友だちづくりは面倒くさい」といった消極性が特徴として見受けられる。また図では示していないが、他のデータでは「新しい友だちの言動で傷ついたことがある」との割合が高い。適応のつまずきの背景には、思春期特有のナイーブな感受性もあるようだ。

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部活動・学校行事に熱中する

中学校生活への適応は、「部活動や学校行事への積極的な取り組み」とも関連がみられる。単純な値の比較ではあるが、「学校の勉強に意欲的に取り組んでいる」生徒よりも、「部活動や学校行事に積極的に取り組んでいる」生徒の方が、学校に楽しさを感じている割合が高い(図4)。もちろん熱心に学習に向かうことが望ましいが、必ずしも高い学習意欲を持てなくても、部活動や学校行事に力を入れることで、学校生活への充実感、満足感を得る生徒も数多くいることを示している。

結果的に一緒に学ぶ友人など親密な人間関係を得る可能性が高まることを考えると、課外活動は、生徒が充実した学校生活を送るための力を与える重要な場である。よくいわれることだが、授業とともに学校教育を支える、まさに両輪の一つであると考えられる。

図4. 中学校生活への認識(学校への適応状況別)(中学生回答)

中学校生活への認識(学校への適応状況別)(中学生回答)

※ 出典:ベネッセ教育総合研究所『中学1年生の学習と生活に関する調査』(2012年)

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「上手に学ぶ力」を身につける

肝心の「学力」についてはどうだろうか。中学校1年生で成績が変化した生徒のデータを取り出して比べてみると、興味深い特徴を見出すことができる。

 中学1年時に成績が上位へと伸びた生徒は、学習の方法に特徴がある。伸びる生徒は、単にたくさんの問題を解き、答え合わせをするだけの学習にとどまっていない。例えば、分からない問題についてまずは自分でねばり強く考える。また、間違えた箇所についてはその理由を考えながら解き直し、自分で次のテストの目標を立て計画的に学習している(図5)。学力を確実に伸ばすため、セルフチェックをしながら進める自己管理型の勉強法を身につけているようだ。

一方、学力が伸び悩む生徒は、好きな科目ばかり勉強したり、分からないところをそのままにしたりする傾向がある(図5)。

このように中学校1年生で、学力が伸びる生徒と伸び悩む生徒では「学び方の差」が歴然としており、効果的な学び方を身につける必要性を示すものといえる。

図5. 中学校1年生の成績変化と学習方法の関係

中学校1年生の成績変化と学習方法の関係

※ 出典:ベネッセ教育総合研究所『中学1年生の学習と生活に関する調査』(2012年)

おわりに

ここで取り上げた内容は、特に斬新なものではない。中学生が中1でのギャップを乗り越え充実した学校生活を送るために、これまでも指導が実践されてきた、基本的な課題である。今回の調査では、その重要性が改めて確認された。

自律的な生活習慣を身につける力、良好な友人関係をつくる力、部活動など課外活動に熱中する姿勢、自己学習のスキル。これらのいずれもが、中学校生活を円滑にスタートしその後にわたって伸びていくための重要な基礎力である。しかしこれらは、中学校入学後の努力でたちまち身につくものではない。中学校と小学校、家庭の密接な連携があってこそ育まれるものだろう。小学校と中学校の接続の課題として捉える必要があることを、ここで提起しておきたい。[END]

2013年2月28日 掲載

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