第4回【識者インタビュー】 小中接続をめぐる教育制度の行方と
それによる学びへの影響はどうなるのか

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小学6年生から中学1年生にかけて不登校など子どもの問題行動が増加し、学習面では、小5段階でつまずきと思われる現象が現れている。これらを背景に小中連携の必要性が提起されてきたが、自治体として「小・中連携を推進するための方針や計画」を定めているのは、3割程度である(文部科学省「小学校と中学校との連携についての実態調査」、2010年11月)。一方、2012年末に誕生した安倍政権下では「教育再生実行会議」が発足、6・3制を見直して9年間一貫した「義務教育学校」をつくるなどの動きもある。今後制度の見直しはどこまで進むのか、子どもの学びにどのように影響しそうなのか。小中接続について詳しく、中教審初等中等教育分科会の専門委員も務める酒井朗先生にうかがった。

プロフィール

齊藤誠一先生

酒井 朗 先生    大妻女子大学教授

さかい・あきら●大妻女子大学教授、教職総合支援センター所長。南山大学助教授、お茶の水女子大学教授等を経て2007年より現職。専門は教育社会学、教育学。学校現場に出向き、現場の教員とともに調査・研究を進める教育臨床社会学分野の第一人者。学生時代から、小・中学校の学校文化のギャップについて関心を持ち、現在も、「学校間、学校と地域のネットワーク形成」を研究テーマの一つにして、小中接続を研究中。中央教育審議会(中教審)初等中等教育分科会の「学校段階間の連携・接続等に関する作業部会」の専門委員も務める。著書は『教育の社会学 <常識>の問い方、見直し方』(有斐閣、共著)『よくわかる教育社会学』(ミネルヴァ書房、編著)ほか多数。(2013年4月現在)

【要旨】

  • (1) 教育再生実行会議による6・3制の見直しは、現象面でのいわゆる「中1ギャップ」への対応があるものの、背景には戦後教育体制を見直して新自由主義的な教育制度を志向する意図がある。
  • (2) 今後は、特区でなくても小中一貫教育が可能になり、制度の見直しが進めば9年一貫の「義務教育学校」(仮称、以下同)も認可される可能性が出てくると予想。
  • (3) 小中一貫教育で学びの連続性は高まり、また多様な選択が可能になるが、小学校、中学校、それぞれのよさが失われる恐れもある。
  • (4) 一貫教育で効率化を図り、能力のある子どもには飛び級させ、未達成者には場合によっては再履修の可能性もありうる。
  • (5) 現行制度にもよさがあり、日本の教育の国際的な評価は今なお高いので、現行制度を基本に、接続をより滑らかにする工夫するほうが学びの連続性は高まるのではないか。
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Q.  「6・3・3・4」制を見直す背景・意図は?

第2次安倍内閣では、「教育再生実行会議」を発足させ、「6・3・3・4制のあり方」も審議しようとしています。その背景や意図には何があるのでしょうか?

A.  戦後教育体制を見直す動きのなかで、現象としての中1ギャップ対策としても検討

 ●多様な選択を可能にする

それは第1に、新自由主義的な教育制度への志向ということでしょう。

昨年末の総選挙時に自民党が配布したパンフレット「自民党総合政策集」(J-ファイル2012)には、6・3・3・4制を見直し、多様な選択を可能とする『平成の学制大改革』を行う旨が述べられています。これは、文字通り学制を見直すということもありますが、「多様な選択を可能にする」というところがキーワードです。

2000年以降の教育改革では、選択肢をたくさん用意することが大事だといわれるようになりました。学校選択制もその一つですし、中学と高校段階ではすでに1999年に「中等教育学校」という新たな学校種が制度化されています。選択肢がたくさんあれば、そのなかで競い合うので、全体のサービスが向上するという考え方によるものです。

 ●戦後教育体制を見直す

第2に、これもやはり自民党の政策がはっきり出ている「戦後教育体制の見直し」です。第1次安倍内閣でも、同じ意図で教育基本法が改正された経緯がありました(2006年12月公布・施行)。この流れを受けて、戦後の教育改革によってつくられた教育制度の抜本的な見直しが行われつつあります。教育委員会制度も、今回の教育再生実行会議の検討対象になっていますが、「6・3・3・4制」の見直しもその大きな流れのなかにあるといえるでしょう。

第3には、2005(平成17)年の「新しい時代の義務教育を創造する」という中教審答申が背景にあります。そのなかで、9年制の義務教育学校の設置の可能性について検討するよう提言されています。翌年公布・施行された改正教育基本法・学校教育法で、義務教育の目的と目標が明記され、義務教育制度を9年一貫でとらえる方向になってきています。

 ●中1ギャップへの対応

第4に、近年の子どもの育ちや環境の変化により、現象として中1ギャップが起きてきていることへの対応です。不登校や暴力行為、いじめなどの生徒指導上の問題が中1になって急増することはさまざまな調査で明らかになっていますから、何らかの対応をすべきだという点については認識が共有されてきました。子どもの発達の加速化現象が起きており、小学校高学年の心身は6・3制導入時より2、3年は早く発達しているため、小学校を6年で区切ることが適切かという視点からの問題提起もありました。

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Q.  制度改革の実現可能性は?

現在進行中の教育制度の見直しはどこまで実現可能だと思われますか?

A.  特区でなくても小中一貫教育ができるようになり、義務教育学校も認可の可能性大

2010年、中教審初等中等教育分科会に「学校段階間の連携・接続等に関する作業部会」が発足し、2012年7月に報告が出ました(「小中連携、一貫教育に関する主な意見等の整理」)。これが教育再生実行会議の議論の前提になっていると思います。そこには、小・中学校教育の一貫性に配慮して、設置者が独自の教育課程を編成できるようにすることが提言されており、今後、教育課程については、基準の特例(※)が活用できるようになると思います。

※基準の特例:小中一貫教育を推進するために研究開発学校制度や教育課程特例校制度を活用した取組における教育課程の基準の特例を類型化すると、主なものは以下のとおりである。

@ 総合的な学習の時間、教科等の時数を削減し、学校や地域の特性を生かした新しい教科等(例えば、『市民科』『コミュニケーション科』『言語科』など)を設置するもの

A 指導内容を小・中学校間、学年間で入れ替えたり移行したりするもの」(同報告「1/2」p.11より引用)

その基準の特例を活用すれば、現在東京都品川区や広島県呉市などで行われているような小中一貫教育は、「教育特区」の指定を受けなくても各自治体の判断で実施してもよいという方向になると思われます。

次に「6・3・3・4制の見直し」についてですが、今、構想されているのが、9年制の一貫校です。これについても、前記の「学校段階間の連携・接続等に関する作業部会」ですでにその是非が検討されています。仮称としながらも、新たな学校制度として「義務教育学校」の名称も登場しています。しかしながら、「義務教育学校制度の創設には、慎重な検討が必要」「現行制度においても対応可能な面が多い」と反対意見が出ています。(同報告「1/2」p.33、34より引用)

もちろん、小学校・中学校を全廃してすべてを一貫校にするというわけではなく、多様な選択肢の一つとして、従来の小学校・中学校と並行して「義務教育学校」という学校種を地域に一つあるいは二つつくるというかたちになるだろうと思います。それは、中学校・高校と並行して「中等教育学校」が存在するのと同様の複線的形態です。

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Q.  9年制一貫校のメリット・デメリットは?

そうなったときの学びの連続性という点から見たメリットやデメリットはなんでしょう。また、子どもの学びにどんな影響がありますか。

A.  学びの連続性の効果はあるが、現行の小学校教育、中学校教育のよさが損なわれる恐れも

 ●学びの連続性や心理面でメリットが

9年制一貫の義務教育学校は、学びの連続性という点では確かに効果が上がるでしょう。小中の教員が同じ学校内にいるので、乗り入れ授業も容易に組めるようになりますし、小学校段階の学習履歴を踏まえての中学校の指導も可能になります。9年間を通した教育課程編成でカリキュラムの精選も図られ、小学校段階で習ったものは中学校では圧縮して重点的に教えることができます。

また、心理面でも、中学校に上がるときに感じる中学校教師や他校出身の同級生に対する不安などは解消されます。

 ●小学校高学年にリーダーシップが育ちにくくなる恐れも

ただし、必ずしもプラスに働かないこともあります。

小学校では、5、6年生は高学年として小学校教育の完成を目指して指導します。低学年、中学年、高学年、あるいは1〜3年、4〜6年と分けて学校行事や委員会活動へ段階的に参加させていき、徐々に高学年にリーダーシップが育つことが期待されます。しかし、一貫校になると、5、6年生はあくまでも中間帯でしかなく、リードするのは中学生になってしまうので、高学年としての自覚が育ちにくくなるかもしれません。

 ●「大人への第一歩」の契機がなくなる

学校間の移行は成長の契機ともなります。これまで日本では、中学校入学は、児童期を脱した大人への第一歩と見なしてきました。部活動で先輩後輩の関係を経験することで日本社会の人間関係を圧縮したかたちで学んだり、部活を生徒自身で自主的に運営したり、先生との対し方を通して実社会での目上の人に対する接し方を学んだりします。9年制一貫校となると、そうした中学校の指導を大きく変質させるのではないでしょうか。

一方小学校には、授業のなかで個々の子どもの思考に寄り添う指導をするよさがあります。一貫校になることで、そうした小学校の指導のすぐれた面を損なうことになりはしないかと危惧します。もちろん、中学校の先生が小学校指導のよさを学んでうまく作用する例もあるかもしれません。

 ●多様な人間関係を経験しにくい

9年間を同一集団で過ごすことの是非も検討すべきです。人間関係力、コミュニケーション能力を高めるという観点からいえば、中学校に入って新たな集団に入り、多様な他者との出会いがもたらされるのは好ましいことだからです。

 ●教育格差が生まれやすい

教育社会学を専門にする私としていちばん気になるのは、一貫校が選択肢の一つとして設置されることです。今の中等教育学校がそうであるように、学校選択制の下で9年制の一貫校が設置されれば、そこに人気が集まることが大いに予想されます。人気校に進める子どもとそこから漏れた子の二つのグループができます。小学校受験には保護者親の意向が強く反映されます。そうなると教育熱心な保護者が9年制一貫校に集中します。熱心な保護者の多くは、経済的に恵まれていたり高学歴の場合が多く、そうなると、そうした格差に対応した複線型学校制度が進むことになっていくだろうと思います。

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Q.  エリートを養成しようとしているのか?

格差に対応する教育制度に向かうとしたら、小中一貫教育はエリート養成の意味合いがあるのですか?

A.  エリートを養成する一方で、未達成者の留年もありうる

 ●義務教育でも単位認定を厳しくする方向へ

先に紹介した「自民党総合政策集」(J-ファイル2012)の「平成の学制大改革」の項に、「世界トップの教育立国とするため、(中略)飛び級制度、中学・高校において未達成科目の再チャレンジ、(中略)子どもの成長に応じた柔軟な教育システムとする…」という一文があります(同p.29より抜粋)。

「飛び級制度」は、能力のある子どもを早急に上位の学校に上げていくことで、明らかにエリート養成です。「未達成科目の再チャレンジ」とは、やり方次第では単位認定を厳格化して、一定の学力に達しない子どもにはその単位を認めず再履修ということになるかもしれません。

これまで「履修すればOK」だったものを、だんだんある基準に達しなければ再履修をさせるという考え方に変わってきているのは確かです。それを、義務教育である中学校段階から、もしかしたら留年させることもありうるといっているのかもしれません。すでに高校教育では、学力状況の客観的な把握の仕組みの検討を含め、教育の質保証の取組を充実させる方向で検討が進んでいます。義務教育でも、教育の達成度をしっかり確認しようとする方向になると思います。

つまりこの一文は、「9年制一貫教育にして効率的に教育をするなかで、能力のある子どもには飛び級をさせ、学力のついていない子どもには再履修をさせる」ということをいっているのだと考えられます。

 ●少子化への対応で生まれる学校も

ただし、9年制一貫の義務教育学校は、地域によって意味合いが異なってきます。先日、四国で最初にできた小中一貫校に行ってきました。そこは、地域の小・中学校合わせて5校の統廃合で生まれました。今後も、少子化の進行のなかで効率的に学校経営をする方法として小中一貫校が設置される可能性はあります。したがって、義務教育学校には、エリート養成校とそうではない地域の必要性から生まれる一般校とができると考えられます。

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Q.  小中接続期の子どもの学びを保障できる制度とは?

教育制度からみて、小中接続期の子どもの学びを保障するためには、どのような制度がよいと思われますか?

A.  現行制度を基本にしながら、問題が生じている背景をケアする方策を

 ●現行制度にもよさがある

まずは、現行の6・3制のよさをしっかり検証すべきでしょう。PISA2009(OECDの生徒の学習到達度調査)やTIMSS2011(IEAの国際数学・理科教育調査)の結果を見ても、日本は国際的に学力上位グループに位置します。そうした事実はもう少し評価してもよいのではないでしょうか。また、学力面のみならず、非行が少ないことや道徳性の高さ、他者との協調性を備えた人材の育成など、日本の学校教育の質の高さは今なお評価されています。単線型の学校教育制度のなかで地域の子どもとして育てられているので、欧米のような著しい階層的な分断は見られません。現行制度はそれなりに機能しているのではないでしょうか。

制度改革は絵空事ではできません。これまでの経過のなかでつくられてきた現行制度の修正や微調整のなかからでしか改革は進まないと思います。フィンランドの教育が理想だと思っても、人口規模も歴史もまったく違う日本がそれをそのまま取り入れることはできないわけです。

 ●小6と中1の指導を近づける工夫を

小中接続期の子どもの学びの連続性を保障するために必要なのは、現行の6・3制を前提としながらも、そのつながりをより滑らかにする工夫ではないでしょうか。

先に述べた教育課程の基準の特例を十分活用できれば、現行制度のなかでも、東京都品川区、広島県呉市のように、6・3制を4・3・2制にするなどの試みは可能です。このほうが子どもの学びの連続性に配慮しながら、現行制度のメリットを生かすことができるのではないかと思います。4・3・2制というのは、小6と中1の指導を近づけることです。小中の教員が連携しあうことでで、たとえば中1の問題行動が減少するなど、明らかな効果も報告されています。

 ●問題行動の背景にまで踏み込む

接続期の子どもすべてに問題が起きているのではなく、一部の子どもに学習意欲の低下や学力格差が生じているのです。そういう子どもたちは、往々にして一般的な小中接続の課題を超えた、家庭の問題を背景に抱えている場合が多いのです。それをケアするための福祉的なネットワークの強化などが、結局のところ学びを支えることになります。

高度経済成長期には、子どもたちの学力差が小さく、比較的高学力が維持されていたという評価があります。今のような経済的に厳しい状況になったときには、その分を補完することを考えるほうが学びの連続性を高めることになると思います。[END]

2013年4月26日 掲載

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