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共創ワークショップ 学生調査から大学教育の課題を解決する
〜イマドキからコレカラを考える〜

2018.4.06

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2018年3月10日開催イベント

ワークショップの概要



調査結果を教育改善に生かす手法を 体験的に学ぶワークショップ


 ベネッセ教育総合研究所では、大学生の学習・生活全般にわたる意識や行動を、多様な観点から明らかにすることを目的に、2008年、2012年、2016年の4年ごとに「大学生の学習・生活実態調査」を行ってきた。これは、日本全国の大学生約5,000人を対象に行われた調査で、大学教育改革が大きく進んだ8年間の大学生の変化をとらえた調査といえる。


 一方、各大学でも、自学の学生を対象とした調査の実施が増えている。しかし、調査結果をどう教育改善に生かしていけばよいのか、その使い方の部分に課題を感じている大学が多いだろう。そこで、当研究所が実施した大規模な学生調査で得られたデータを使い、教育施策や教育改善に生かすための観点やノウハウを体験的に学べる場を設けようと、今回のワークショップを企画した。


 ワークショップでは、大学教育の当事者である大学教員・大学職員・大学生の混合グループをつくり、大学の教育課題を設定。本調査データを活用しながら、その解決策を考え、議論した内容をまとめたポスターを作成し、全体で発表した。


 参加者は、大学教員29人、大学職員26人、大学生25人、高校生1人。北は青森県から南は沖縄県まで、全国から集まった。参加の理由について、大学教員からは「イマドキの学生がどんなことを考えているのかを知りたい」といった声が、大学職員からは「学内で学生調査を担当しているので、調査結果の活用法を知りたい」「学生に充実した大学生活を送ってほしい。そのための調査をどうすればよいか知りたい」といった声があり、調査データの活用方法に高い関心があることがうかがえた。

 冒頭の趣旨説明では、京都大学の山田剛史准教授が、ワークショップのタイトルに謳われた「共創」について、次の4つの場面が組み込まれていると説明。

①対象 教員×職員×学生
②方法 データ×経験×感覚
③時間 過去×現在×未来
④形態 個人×協働×競争

 山田准教授は、「大学内で教員、職員、学生が一堂に会して話し合う機会もなかなかない中で、今日のワークショップには全国の大学からその三者が集まった。参加者の経験はそれぞれ多様であり、持つ感覚も異なる。データ分析は、数字だけあればできるものではなく、経験や感覚も駆使したい」と指摘。さらに、データ分析で大切な観点として、「数字に目が行きやすいが、重要なのは課題発見力や協働性、創造性といったソフトスキル。今回のワークショップはその一端を学び取る機会になる」と、ワークショップへの期待を語った。

ワークショップの内容1

研究者が自身の分析例を挙げながら データ分析の観点をアドバイス


 グループは、参加者が申込時に選んだ①高校からの接続、②学修態度・成果、③学生生活支援、④進路指導・就職支援のテーマに応じて分けられ、1グループ4〜6人、計17のグループでワークを行った。その手順は次のとおり。



①調査結果を知る 「第3回大学生の学習・生活実態調査」の結果概要を報告。本調査の分析にかかわった4人の研究者から、データを使って考えるヒントを紹介。


②個人ワーク 各自で調査結果を読み、気になったデータをピックアップ。解決したい課題を考える。


③グループワーク1 各自が取り上げたいデータを提案。グループで議論して、解決したいテーマを設定。


④グループワーク2 グループで設定した課題の解決策を議論しなら、ポスターにまとめる。解析ソフトを使ったデータ分析でサポート。


⑤ポスター発表 完成したポスターを見て回る。1人2票を、よいと思ったポスターに投票。得票数の多かった2グループを表彰。



 ワークに先立ち、当研究所の松本留奈研究員が、第3回の調査結果の概要を報告。主な注目点として、高校時代までに課題解決型学習を経験した学生は8割以上で、さらに大学の授業でもグループワークやプレゼンテーションなどを経験した学生が増えていること、その一方で、興味よりも楽に単位を取りたい学生が増えていることや学習・生活両面で大学からの指導・支援を要望する声が高まっていることなどを紹介した。


 続いて、本調査の分析にかかわった、当研究所副所長の木村治生、大阪大学の川嶋太津夫教授、青山学院大学の杉谷祐美子教授、芝浦工業大学の谷田川ルミ准教授が、データを使って考えるヒントを紹介した。  木村副所長は、大学入試形態と学生生活への満足度に注目し、推薦・AO入試でどのような点に着目して選抜すれば、入学後の満足度が高くなるかを、本調査のデータ分析から提案した。


 川嶋教授は、本調査で、大学教育ではアクティブ・ラーニングがよく行われているにもかかわらず、学生の受け身志向が強まっていることに課題を見いだし、「アクティブ・ラーニングを取り入れた科目が増え、学生の負荷が高まっている。学びは本当に"脳動的"になっているのか」と問題提起。カリキュラムを整理する必要性を指摘した。


 続いて、杉谷教授は、調査結果の中で、アクティブ・ラーニングを取り入れた授業経験の有無では差が見られず、学内外での積極性によって差が見られたこと着目。「初年次教育が充実したために、かえって学生が丁寧な指導に慣れてしまっているようだ。学生の自主性を尊重した大学らしい学びを実感できる経験が、『生徒』を『学生』に移行させるのではないか」と考えを示した。


 最後に、谷田川准教授は、学生の学内での人間関係と学修意欲の関係について分析を紹介。学びが充実している学生は、友人や教員とのつながりが強い傾向が見られることから、学内での人間関係づくりの重要性を指摘した。「一見関係なさそうでも、丁寧に掘り下げていくと、意外な関係が見える場合もある。それがデータ分析のおもしろさだ」と、分析視点の大切さに言及すると、多くの参加者が深くうなずいていた。


本当に必要なのは能動的な学習者を育てること


 「個人で何かを考えたり調べたりする授業」などの能動的な学習形態をめぐっては、どの項目も「好き」と答える児童生徒が増加傾向にあり、とりわけ進学校の高校生で増加幅が大きくなっている。しかし、能動的な学習への転換が順調に進んでいると考えることは、まだできない。学校段階が上がるにつれて、実施率の低下が目立つ。高校での取り組みの推進が、現下の課題だ。


 家庭的背景による教育格差に関しては、第1に、高学歴家庭の児童生徒ほど学習時間が長い傾向は、どの学校段階でも変わっていない。第2に、保護者の学歴による子どもの学習時間の差は、小学校と高校で相対的に大きく、中学校で小さい。第3に、学歴による学習時間差は、第1回以降、小学校と高校で漸増傾向にあり、中学校では縮小傾向にある。


 調査結果から見えてきた課題として、第1に、今日はデータは挙げなかったが、子どもの学びの風景の最大の変化は教室へのICT(情報通信機器)の導入と、学校内外でのインターネットの活用が進んだ点にあるのではないか。将来的にみるとICT機器とインターネットを活用した学習の重要性が確実に高まっていく。その活用に本腰を入れて取り組む必要がある。その際には、どういう学習の質的な転換がそれらを通じて可能になるのかという視点が重要である。第2に、家庭の経済的・文化的環境による学力格差について、引き続き監視が必要である。第3には、学習の質、とりわけ自律的・能動的な学習者を育てることへの関心の転換が必要となる。学習時間が回復しても、自律的・能動的な学習者が育っているとは言えない。特に高等学校教育の課題は大きい。大事なのは、能動的な学習形態を広めることが目的ではなく、能動的な学習者を育てることである。能動的な学習者を育てるためには、時として、能動的な学習スタイルだけでなく古典的な学習形態も重要な役割を果たすのではないか。

ワークショップの内容2

教員や職員が学生に積極的に質問 フラットな関係で話し合いを進める


 次に行われた個人ワークでは、各自で調査結果を読み込み、大学の教育課題を見いだしていった。データ分析の観点のアドバイスもあったことで、調査結果の冊子のページを見比べて、つぶさに数字を読み取り、関係性を探り出そうとする、熱心な姿がうかがえた。


 そして、グループワークでは、メンバーそれぞれに読み取ったデータを挙げ、グループで一つの課題を決め、仮説を立て、解決策を考えていった。グループワークの制限時間は約80分間。その時間内でポスターまで完成させる。「○分までに課題を決めて、○分からポスターを書き始めましょう」と、各作業の目安を決めてから話し始めるグループ、司会や記録係など役割分担を決めて議論を進めるグループと、初対面のメンバーながらも、各自がはっきりと意見を伝え、様々に工夫を凝らしながら議論を進めていく。


 メンバーに教員、職員、学生と立場や年代の異なる三者がいることで、注目するデータの違いにも驚きや発見があったようだ。また、山田准教授の「フラットな関係で意見を述べあいましょう」という声掛けもあり、学生もしっかり意見を述べ、教員や職員はそれをしっかり受け止めていた。また、会場に用意されていた飲み物やお菓子を教員や職員が自ら取りにいき、学生に勧めて、学生が話しやすいようにという場づくりをする場面も。わきあいあいとした雰囲気が、真面目な話し合いを盛り上げるのに一役買っていたようだ。


 そして、学生の生の声を直接聞けるとあって、教員や職員はメンバーの学生に積極的に質問。学生も「自分はこう考えるが、理系の友人は違う考えで……」など、自分の体験や友人の様子を率直に答え、その言葉に深くうなずきながら、熱心にノートに書きとめる教員・職員の姿もあちこちで見られた。


1グループに学生メンバーは1〜2人だったが、データだけでは得られない学生の生の声に、教員や職員が新たな気づきを得て、話を広げていた。



ワークショップの内容3

グループのオーダーに応じてその場でデータを分析して情報提供


 今回のワークショップでは、初めての試みとして、当研究所の研究員が「分析チーム」として待機し、各グループからのオーダーに応じて、その場で解析ソフトを使ってデータ分析し、その結果を提供した。課題解決策の提案では、裏づけとなるデータが欠かせない。ワークショップの目的である、データを課題解決策に生かすノウハウを実際に体験してもらうためには、データ分析もしてもらうことが必要だと考えた。


 その場でのデータ分析ができたことで、各グループの議論はより広がり、深まっていったようだ。「学生の学びの姿勢が受け身」を課題に挙げたグループでは、学問系統の違い、高校での学びや大学入学後の学びとの関連に着目し、データ分析の結果も見ながら、議論を進めた。その過程では、メンバーの学生が、スマートフォンのスケジュール帳で自身の時間割を見せながら、授業について説明する場面もあった。


 また、「学生(高校生)が求めているものと、大学が提供しているものがずれているのではないか?」と仮説を立てたグループでは、高校時代の授業への興味・関心や自主学習の度合いと、入学後の授業への興味・関心との関連性に着目し、解決策を話し合っていた。


 寄せられた分析依頼は、23件。依頼の内容は、授業などへの満足度、学生の興味・関心、力を入れている行動など、大学生の特性や行動を切り口にした分析が多かったのが特徴だ。データ分析を担当した研究員は、「学年やエリア、入試方式など、基本的な属性からの分析を予想していたが、寄せられたオーダーは、施策に生かしやすいアクショナブルな変数を使った分析が多い印象を持った」と言い、参加者は限られた時間の中で、的確に課題解決に向けた分析の観点をつかんでいたことが分かった。


アドバイザーの大学教員に、データの見方や分析の方法などを積極的に質問。考え方のヒントを得て、議論はさらに深まっていた。



グループワークも中盤にさしかかると、分析依頼がピークに。





グループワーク開始から30分を過ぎたころから、あちこちでポスターを書き始め、席を立って話し合うグループが目立ってきた。どのようなタイトルにするか、その言葉選びにもそれぞれが案を出すなど、熱がこもる。



ワークショップの内容4

意外な関係に着目し、アルバイトの学習化を提案したグループが1位に


 完成したポスターは会場の壁に貼られ、ポスターセッションが行われた。

まず、各グループの代表者が30秒で、自分たちのワークの内容をアピール。「学生は主体性がないと言われていますが、それは本当でしょうか?」と投げかけたり、「学生が4年間で得たスキルを分析したところ、最高の学習環境を発見しました!」と分析結果をあえて隠して発表したり。会場からは、「おお」というどよめきや笑いが湧き起っていた。また、代表者に学生を送り込むグループが多く、その学生も大学の授業でプレゼンテーションをよく行っているからか、堂々とかつユーモアたっぷりにアピールし、会場を盛り上げていた。


 その後、1人2票ずつ、「いいね!」と思ったポスターに投票し、その得票数で上位2グループが表彰された。


参加者はポスター一つひとつ丁寧に見て回り、データのどこに着目したのか、何と何を結びつけて考えたのかなど、熱心に質問。各グループの代表者も、自分たちの頭で考えた内容だからこそ、その疑問に熱く答えていた。

 1位に選ばれたグループのテーマは、「アルバイトをいかに学習化するか」。メンバーの学生が、「アルバイトに力を入れた学生」と「お金が必要になったら保護者が援助してくれる」がともに増加しているという調査結果に着目。それならば、「なぜアルバイトをするのか」という疑問からデータ分析をしたところ、アルバイトに多くの時間を割いている学生は、自身の関心より楽に単位を取れることを重視して履修をし、大学生活満足度は授業を頑張っている学生と変わらないことが分かった。


 そこで、「大学の教育だけでは学生の多様化に対応しきれておらず、アルバイトで満足を得ているのではないか」という仮説を立て、「アルバイトを学習化させる」という観点で課題解決策を探ったと言う。最終的に、「アルバイトがお金を稼ぐためだけの時間になっているのはもったいない。大学の学びと連動させてはどうか」というアイデアから、課題解決策には「キャリア科目や基礎ゼミで、アルバイトを通して学んだことを振り返る」「将来の目標とアルバイト、大学の授業とのかかわりを考えさせる」を提案した。


 データ分析は3件依頼。「仮説を最初から固めずに、『これとこれの関係を分析したらどうか』と、気になったことから分析してもらった。予想と違い、関連が見られなかったデータもあったが、ほかの2つの分析結果から言えそうなことを仮説にした」と、その場でデータ分析ができる環境を効果的に活用していました。さらに、「その場で分析してもらえるのは、わくわくした」とも語り、本ワークショップのねらいの1つである、データ分析のおもしろさを実感していた。


 2位は、同得票数で2グループあった。


 1つめのグループのテーマは、「学生が人生を幸せに生きるためには」だ。「不安な状況でも乗り越えられる力はどうしたら身につくか」という課題を挙げ、解決策には「初年次教育において、専門分野への興味をわかせつつ、粘り強く取り組み、学び続けなければならない課題に取り組ませる」と提案した。


 もう1つのグループは、「授業中になんでスマホを使っちゃいけないの?」を課題として、スマートフォンの利用時間と学生生活の満足度、学習への向き合い方との関連を分析。利用時間が多い学生は、予習をしない、エビデンスを気にしない傾向があるといったことなどを明らかにした。


 得票の結果を見ると、一見関連のなさそうな項目を結びつけて課題を見いだし、ユニークな発想で解決策を提示したグループに評価が集まっていた。


 このほか、学生の主体性に注目したグループ、進路選択での学問の選び方について課題を挙げたグループなどがあり、それぞれのグループが限られた時間の中でも、データをしっかり活用して解決策を提案した。


 表彰式では上位2グループに記念品が授与され、盛大な拍手とともに、ワークショップは終了した。


 その後、会場を移して、参加者の交流会を開催。普段は交流の持ちにくい他大学の教員・職員が語らい合い、親睦を深めた。

事後アンケート

具体的なワークの内容に約9割が満足と回答


 事後アンケートでは、参加者の約9割が「とても満足」「まあ満足」と回答。さらに、7割以上の参加者が自由記述欄に感想や意見を記入していた。そのことが、今回のワークショップがいかに"脳動的"な活動であったかを示しているだろう。


 自由記述の内容を見ると、大学教員では、「学生と率直に話せたことが一番の収穫。サンプル数は少なくても、非常に有益なエピソードを聞くことができた」「データの分析結果では、学生の発言から意外な実態が分かって興味深かった」など、学生の参加を称えるコメントが目立った。ワークショップの趣旨の1つである「イマドキ」をつかむ機会となったようだ。


 大学職員の参加者はIR担当者が多いためか、データ分析に関するコメントが中心に寄せられた。「学生アンケートを分析する方法を実践的に学べた」「具体的なデータを用いたワークだったので、学内での実践に活用したい」と、自身の職務にすぐに生かせる方法を学べたことへの満足感は高く、ワークショップが「コレカラ」の教育につながる期待をうかがわせた。


 学生からは、「先生や職員の方がいたので、学生の自分とは異なる観点で分析することができた。非常によい勉強になった」「学生だから関係ないと思っていたことも、実は関係があることに気づけた。学習へのモチベーションが上がった」と、自身の勉強になったという声が多くあった。


 大学教員・大学職員・大学生が"脳動的"に"共創"したことで、それぞれに得られたものは大きくなったようだ。三者が一緒に取り組むことで大きな何かを生み出すことができる。そうした可能性を感じられるワークショップとなった。




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