教育フォーカス

【特集10】高大接続の再設計 ~ 高校・大学、大学入試はどう変わるべきか

[第4回] 大学入学者選抜における能力測定の臨界点と複数回受験の効用 [1/4]

杉谷祐美子先生

木村 拓也●きむら たくや

九州大学 基幹教育院 人文社会科学部門 准教授
東北大学大学院 教育情報学教育部 博士後期課程中退 博士(教育学) 京都大学経済研究所助教、長崎大学アドミッションセンター准教授を経て、現職。専門は、教育計画論・教育測定論。研究テーマは、高大接続制度、入試データの計量分析。主著として、「大学入学者選抜と『総合的かつ多面的な評価』─46答申で示された科学的根拠の再検討」(日本教育社会学会編『教育社会学研究』第80号、単著)、「高大接続情報を踏まえた大学教育効果の測定─潜在クラス分析を用いた追跡調査モデルの提案」(日本高等教育学会編『高等教育研究』第12号、共著)など。

Ⅰ.「未完の教育改革」としての大学入学者選抜制度改革

先に上梓された中央教育審議会答申『新しい時代にふさわしい高大接続の実現に向けた高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜の一体的改革について』(平成26年12月22日)や、続いて出された「高大接続改革実行プラン」(文部科学大臣決定、平成27年1月16日)では、高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜を通じて、学力の3要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・恊働性」)を伸ばす仕組みを確立したいという一気通貫した方針がこれまで以上に明確にされた。ただ、その大方針に異論を挟む余地がないとして、肝心の大学入学者選抜改革の中身はとなると、共通第1次学力試験から「新」共通テストである大学入試センター試験に衣替えし、各大学独自で行う個別試験に対して「偏差値重視の受験競争の弊害を是正するために、各大学はそれぞれ自由にして個性的な入学者選抜を行うよう入試改革に取り組むことを要請する」(臨時教育審議会1985:28)とした臨時教育審議会答申のデジャブのような気がしてならない。 その意味では、今回の答申も、臨時教育審議会以降の「教育の個性化」「個性重視の原則」に基づく「未完の教育改革」としての大学入学者選抜改革の一貫である、と言って差し支えないだろう。

具体的には、今回の答申などでは、第一に、「高等学校基礎学力テスト(仮称)」「大学入学希望者学力評価テスト(仮称)」の実施、第二に、各大学のアドミッション・ポリシーと学力の3要素を踏まえた多面的・総合的な選抜方法の実施促進が謳われている。特に、前者の2つの新テストでは、「教科型」のみならず、「合教科・科目型」「総合型」の提案や、統一試験における記述式やCBTの導入の検討、実施時期や年複数回受験の検討、段階表示などの成績表示の検討、英語における四技能(「読む」「聞く」「書く」「話す」)測定の検討など盛りだくさんの検討事項が、謳われている。

更に、各大学の選抜となると、これまで特定のAO入試以外では、あまり大学入学者選抜の俎上に上ってこなかった「小論文、面接、集団討論、プレゼンテーション、調査書、活動報告書、大学入学希望理由書や学修計画書、資格・検定試験などの成績、各種大会等での活動や表彰の記録、その他受検者のこれまでの努力を証明する資料など」の「多元的な評価尺度」に着目し、それらを一層利用して選抜することが望ましい旨が謳われている。

「総論賛成、各論反対」という立ち位置は、(これから大学入学者選抜の現場で「よく?」みられるかもしれない)ディスカッションやディベートにおいては往々にして散見される態度ではあるが、これらの大学入学者選抜改革の具体案は、専門的立場から見れば、それぞれが非常に高度なテスト理論の専門知識が要求される制度設計事案であることが容易に分かる。おそらく、高等学校教育、大学教育、大学入学者選抜を通じて、学力の3要素(「知識・技能」「思考力・判断力・表現力」「主体性・多様性・恊働性」)を伸ばす方向性については、いずれもあるにこしたことはないという意味で、この種の議論に世論が異論を挟むことはまずないだろう。問題は、大学入学者選抜は、その合否が生徒の一生をも左右しかねない、ハイステイクスなものであるが故に、世論によって動かされることが多い反面、その内実は、テストとしての制度設計そのものが、テスト理論(教育測定)の専門的知識があった上で、設計される類いのものであることが世間的に全く認知されていないことである。

いつの時代も、大学入学者選抜制度の改革は有り続けてきた。共通テストの文脈で見れば、進学適性検査、能研テスト、共通第1次学力試験、大学入試センター試験と変遷してきている。個別学力検査に目を向ければ、臨時教育審議会答申以降、多面的・総合的な評価が求められ、AO入試を初めとした大学入試選抜方法の多様化施策が押し進められてきた経緯が有る。ただ、いつの時代も、大学入学者選抜制度の改革はいつまでも「未完」であり続けてきた。それは、遂行可能であるにも関わらず、改革に手がつけられてこなかったからなのか、それとも、そもそも与えられた大学入学者選抜改革案が遂行に値しない、或いはそれが実行不可能な案であったから、「未完」で有り続けてきたのか。このことを十二分に見極めて議論をする必要が有るだろう。

以下では、「未完の教育改革」である入試制度改革について、その制度的妥当性を高めるという観点から、テスト技術そのものの性質から生じる課題(Ⅱ節)と、テスト制度が内包する社会的課題(Ⅲ節)に分けて論じていくこととする。

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