教育フォーカス

【特集12】ICTメディアで変わる中高生の生活世界

[第3回] 「スマホ第一世代」の現実感覚-「つながり」や時間についてスマートフォンを所有する中高生はどんな感覚をもっているのか?- [3/3]

3. 育ってきた家庭環境に影響を受ける時間感覚

次に、「スマホ第一世代」の時間感覚を、家庭生活を中心に検討してみよう。

スマートフォン所有状況別のネット利用時間の状況は、図3-1、3-2のようになっている。スマートフォン所有者には、利用時間が長い傾向がうかがわれる。

図3-1 スマートフォン所有状況別ネット利用時間(中学生、平日)

スマートフォン所有状況別ネット利用時間(中学生、平日)

注)対象は、インターネット利用者。図3-2も同じ。

図3-2 スマートフォン所有状況別ネット利用時間(高校生、平日)

スマートフォン所有状況別ネット利用時間(高校生、平日)

とはいえ、スマートフォン所有者のネット利用時間はばらつきがあり、平日のネット利用時間が約1時間までの者は、中学生で約3分の1、高校生が約4分の1を占める。スマートフォン所有者がネット利用を長時間行うかどうかを分けるのは何なのであろうか。

図3-3及び図3-4は、ネット利用時間別に家庭生活の状況を示したものである。

図3-3 スマートフォン所有者の家庭生活の状況(中学生、平日のネット利用時間別)

スマートフォン所有者の家庭生活の状況(中学生、平日のネット利用時間別)

図3-4 スマートフォン所有者の家庭生活の状況(高校生、平日のネット利用時間別)

スマートフォン所有者の家庭生活の状況(高校生、平日のネット利用時間別)

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中高生とも、ネット利用時間が長い者ほど、自分専用の個室にテレビがある割合及び、自分専用の個室にパソコンがある割合が高い。他方、ネット利用時間が長い者ほど、家で新聞をとっている割合が低い。このことから、子どもを自由にしていて個室での電子メディア接触を許している家庭で育つことが、ネットの長時間利用につながると考えられる。他方で、新聞をとっている家庭では、子どものネット長時間利用が抑制されやすい可能性がある。

保護者との関係に関しては、どうだろうか。まず中学生について見ると、図3-5で示されているように、長時間利用者ほど保護者と話をしない傾向が強いことがわかる。

図3-5 保護者とよく話をするか(スマートフォンを所有する中学生、平日のネット利用時間別)

保護者とよく話をするか(スマートフォンを所有する中学生、平日のネット利用時間別)

このことから、保護者とのコミュニケーションが少ないことはネットの長時間利用につながりやすいことが考えられる。これは、ネットの長時間利用者に自分専用の個室にテレビやパソコンがある者が多いこととも整合していると言える。家庭で保護者とのコミュニケーションが希薄であり、個室にテレビやパソコンがあれば、ネット利用時間が長くなるということが言えそうである。

しかし、高校生については事情が異なる。図3-6は、保護者とよく話をするかどうかとネットの利用時間との間にあまり関係がないことを示している。

図3-6 保護者とよく話をするか(スマートフォンを所有する高校生、平日のネット利用時間別)

保護者とよく話をするか(スマートフォンを所有する高校生、平日のネット利用時間別)
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こうしたことから、中学生と高校生とでは、保護者との関係がネット利用時間の長短にどう関わるかが異なることが考えられる。

別の質問ではどうだろうか。図3-7、図3-8は、保護者に期待されていると感じているかどうかとネット利用時間との関係を示したものである。

図3-7 「保護者は私に期待している」と感じるか(スマートフォンを所有する中学生、平日のネット利用時間別)

「保護者は私に期待している」と感じるか(スマートフォンを所有する中学生、平日のネット利用時間別)

図3-8 「保護者は私に期待している」と感じるか(スマートフォンを所有する高校生、平日のネット利用時間別)

「保護者は私に期待している」と感じるか(スマートフォンを所有する高校生、平日のネット利用時間別)

高校生においては、ネット利用時間が長い者ほど「保護者は私に期待している」とは感じていないことが読み取れる。保護者からの期待が少ないことによって、自らの時間をコントロールすることができなくなり、ネットの長時間利用につながっている可能性がある。他方、ネットを長時間利用した結果、生活習慣が乱れ、保護者から期待されにくくなったということも考えられる。

他方、中学生段階においては、「保護者は私に期待している」と感じるかどうかは、ネット利用時間との間にはっきりした関係は見られない。

以上を総合的に見ると、スマートフォン所有者の家庭での状況をどのように理解することができるであろうか。

スマートフォン所有者は非所有者と比較して、ネット利用時間が長い傾向がある。しかし、スマートフォン所有者のネット利用時間にはばらつきがあり、中学生では約3分の1、高校生では約4分の1で、1日のネット利用時間が1時間程度までにとどまっている。スマートフォンを所有することが、必然的にネットの長時間利用につながるわけではない。

スマートフォンを所有していてネット利用時間が短い者は、長い者と比較して、自分の部屋にテレビやパソコンがない者、家で新聞をとっている者の割合が多い。家庭におけるメディア環境全般が、ネット利用時間の長短との間に影響を与えていると考えられる。テレビやパソコンの個室での利用がメディアへの長時間接触につながりうることはかねてより指摘されてきたが、そうした環境がスマートフォンの利用の長時間化にもつながることが示唆されたと言えよう。

また、保護者との関係も、ネットの長時間利用に影響を与えることが考えられる。中学生においては保護者とのコミュニケーションが少ない者が、高校生においては保護者から期待されていると感じていない者が、ネットを長時間利用する傾向が見られた。徐々に保護者から自立していく時期の中高生にとって、保護者との関係が希薄になることがネットの長時間利用につながる可能性がある。

「スマホ第一世代」の中高生の時間間隔は、育ってきた家庭環境との関係が深いことが示唆された。

4. おわりに

スマートフォンが急速に普及した2013年以降、青少年のネット利用時間、いじめの認知件数にネットいじめが占める割合、児童買春や児童ポルノ等に関する犯罪被害、フィルタリング・サービスの利用率等、あらゆるデータが望ましくない方向に変化しており、こうした急速な変化への対応が急務となっている。

本稿では、家庭環境に大きく影響を受けながらLINE等のアプリを中心に人間関係のネットワークをつくっていく「スマホ第一世代」の中高生の「つながり」や時間についての感覚を、調査結果を読み解くことによって考察してきた。

メディア状況が変われば、人々の現実感覚は大きく変わる。こうした変化をふまえ、情報モラル教育をはじめとする取り組みを進めていく必要がある。

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