教育フォーカス

【特集13】大学での学びと成長 ~卒業生の視点から振り返る

[第3回]  大学を卒業して実感できる大学での学びの意義 [2/7]

Ⅱ.学生の視点、社会人の視点

先ほどのデータをもう少し丁寧に見直すために、前述の3つの質問の回答を組み合わせた結果が図1である。全部で8パタンとなる。これを見ると、学生と社会人、または世代間でそれほど比率が変わらないパタンがあることがよくわかる。他方、大きく回答が異なるのは、「興味、応用・発展、演習」(興味のある授業、応用・発展的内容が中心の授業、演習形式の授業が多いこと)を支持するパタン、「興味、基礎・基本、演習」(興味のある授業、基礎・基本が中心の授業、演習形式の授業が多いこと)を支持するパタン、「単位、基礎・基本、講義」(単位を楽にとれる授業、基礎・基本が中心の授業、講義形式の授業が多いこと)を支持するパタンである。「興味、応用・発展、演習」については、学生はわずか5.5%しかいないが、社会人全体では22.6%で8パタンの中では最も多い。さらに年齢別にみれば、図1のように23~34歳は学生の約3倍、40~55歳にいたっては6倍近くに上る。これに対して、「単位、基礎・基本、講義」については、学生は41.5%を占めるものの、社会人全体では13.8%であり、23~34歳では学生の半分以下、40~55歳では約4分の1となる。「応用、発展」であれ「基礎・基本」であれ、「興味、演習」をよいとするパタンは、実に、学生で1割、社会人全体では4割であり、年齢別では23~34歳で約3分の1、40~55歳で約半数と、その差は歴然としている。

図1.大学教育に対する考え8パタン

図1 大学教育に対する考え8パタン

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それにしても、なぜここまで差がつくのであろうか。1つの考え方としては、回答者が授業を受ける当事者かどうかという問題がある。なるほど、実際に授業を履修する学生の立場に立ってみれば、単位のとりやすさだけで授業科目を選択しないにしても、卒業単位の修得やGPAといった成績評価などを考えれば難易度の高い授業を避けるのにもうなずける。また、授業形式についても、単純に講義と演習のどちらがよいかといった問いではなく、これらの形式の授業が「多いこと」についてよいかどうかを尋ねている。3年次までは半期に10科目程度、特に1~2年次には12~13科目も履修するのが常態化している日本の大学教育において(「第2回大学生の学習・生活実態調査」より)、演習形式の授業をやたらと増やすというのも学生にしてみれば酷なことかもしれない。まずは1科目1科目に十分な授業外学習時間を割けるだけの履修科目数および履修単位数の適正化を図ること、そしてそれを可能にするためにも、4年次での就職活動や実習等に備えて3年次までに卒業単位数のほとんどを極力修得することが暗黙の前提となっているような社会的通念から見直すことが先決であろう。
 そう考えてみれば、「興味、演習」をよいとするパタンが1割、「単位、講義」をよいとするパタンが約5割という学生の回答は、筆者のように大学教員として教壇に立つ身には残念な結果であり、もう少し両者の比率の差が縮まらないかとも思うが、反面、現在の大学教育システムにおいては学生が率直に思うところではないかとも推察できる。むしろ、注目すべきは、なぜ社会人が、それも世代が上がるほど、このように学生の能動的学習が求められる授業を支持する傾向にあるか、である。

 
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