教育フォーカス

【特集14】「問いのデザイン」でアクティブ・ラーニングの「種」を育てる

【導入編:1】課題提起 [4/4]

Ⅴ.導入時の工夫 3 
― 教科共通で話せる「問いのデザイン」をテーマに ―

三つめは、一つめの仕掛けをより効果的にするために、研修テーマを教科共通で話ができる「問いのデザイン」にしたことです。

先生方は授業中、子どもにたくさん発問をしていると思いますが、子どもの頭を働かせる問いになっているでしょうか。例えば、「アメリカの首都は?」と質問しても、その知識を知らなければどんなに考えても答えは出てきません。または、「みんなで選挙制度について思ったことを話してみよう」と、いきなり抽象的な問いを投げかけてはいないでしょうか。質問を受ける側は、答えのない問いを投げかけられても、考える段取りができていないので答えようがありません。質問を投げかければ、相手は考えるというものではなく、問いかけ方によって、人は考えることもあれば、黙ることもあるという事実を自覚することが大切です。そこで、研修では、問いをどのようにつくればよいのかをグループワークで体験してもらいました。

一つは、考える段取りをつけていくための問いの制約のつけ方です(図2)。最終的には「豊かな朝食」について考えてほしいのですが、いきなりそれを聞いても「豊か」の定義が共有できていなければ、問いたい内容と別の答えが出てくるかもしれません。そこで、「今日は何を食べたのか」から質問をして、「豊かな朝食」をイメージできるようにしたのです。

 

もう一つは、深く考えるきっかけの与え方です(図3)。

例に挙げた3つの質問に対して、いずれもあえてどれか一つを選ぶことにして、なぜそれにこだわるのかを考えてもらいます。また、研修会では、よい問いをつくるためには、たくさんの問いをつくることが重要だというお話もしました。同じ問いでも、相手によって反応はさまざまです。一つの問いの完成度を高めるよりも、相手の様子によって問いかけ方を変えられるように、問いの引き出しを多く持っておくようにするのです。100者100様だと個別対応になりますが、たくさん問いをつくり、精選する中で、10通りくらい深く考えるきっかけにつながる問いの引き出しがあるとよいでしょう。私の場合、目指すは100者10様です。

私が思うに、「よい問い」は、自分事として深く考えられるものであり、しっかりデザインできていれば、問われた側が心地よく、答えたいと思うものです。答えを考え、話し、周りの答えも聞いていくうちに、自分の知らない自分に出会うような経験です。自分の知らないことを人と一緒に考え、自分事にしていくということが、新たな発見なのだと思います。そうした「よい問い」は頻繁につくりだせるものではないかもしれませんが、私も引き続き追究していきたいと思っています。

Ⅵ.まとめ 

アクティブ・ラーニングは、子どもに学びを委ねることになります。教員が学びをコントロールできない状態になるので、先生は不安かもしれません。しかし、まさにここが重要で、子どもが考える時間を増やすためには、自分の時間を手放す勇気が必要なのです。また、教員の知らないことを子どもから質問されるという不安もあるでしょう。その時には、「先生も知らないから一緒に調べてみよう」と言ったり、先生なりの仮説を話したりすることで、子どもの学びを支援できるのではないでしょうか。

今、アクティブ・ラーニングは過渡期にあります。これまで多くの先生が実践していますが、それは個人的な取り組みであり、学校全体で推進するというのは新たな試みです。そのため、アクティブ・ラーニングの評価と授業デザインの流れが体系立てられておらず、子どもの活動に対する評価方法、授業内容に対する評価方法が少なく、かつ確立されていないことが課題でしょう。

アクティブ・ラーニングの趣旨を自分事と捉え、自分にもできると考え、校内で教科を超えて子どもに付ける力について話し合うことがまず必要です。そして、各自のアクティブ・ラーニングを評価して、生徒にフィードバックし、先生の授業改善に生かす。その一連の流れができれば、アクティブ・ラーニングの定着と成功に大きな期待ができるのだと思います。

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