教育フォーカス

 

【特集17】学生の学びと成長のプロセスを可視化する
第24回大学教育研究フォーラム 参加者企画セッション 開催報告
学修成果の多角的・継続的な可視化とその活用
~育成と一体化した評価への試み~

■ 事例報告1/高知大学


 高知大学 大学創造センター 教授  塩崎俊彦
ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室 研究員 松本留奈


〔塩崎〕 まずは用語解説的になりますが、私たちが何をどのように評価するのかということについて、ご説明しておきます。資料p.30にありますように、具体的な能力として10の力を掲げています。これは、高知大学で3~4年前に「総合的教養教育に関する答申」が出され、その中で10の力を伸ばしていかなければならない、ということが打ち出されました。私たちはそれをよりどころに、3ポリシーの見直しを行いました。その時、現教育理事の強いお考えで、「10+1」の「+1」(プラス1)のところについて、理事は「10の力を取りまとめて何とかする力」と言っていますが、その「統合と人に働きかける力」が必要ではないかということで、「10+1」の能力となりました。それをもとに、セルフアセスメントシートを作り、5段階ないし4段階(「できていると思っている」~「あまりできていない」)で、学生に自己評価させるということをやってきました。来年度からは、それをもう少し明確にして、ルーブリックの形で学生に自己評価させていくということに取り組んでいます。今現在も、ルーブリックについてのやりとりを学部としておりまして、全学統一のルーブリックを作るというのは、本当に大変なことです。




また、アセスメント設計のプロセスとして、資料p.31に①~⑤のステップで整理しています。「ステップ①育成したい人物像と成長の定義」のところでは、先ほどの答申をもとに、一昨年3ポリシーの見直しを行いました。ただ、当時は全学改組の実施期間中だったため、ポリシーを大きく変えるのは望ましくないということで、資料p.30表の左端の4領域(知識・理解、思考・判断、技能・表現、関心・意欲・態度)の枠組みで作ったものはそのまま温存しました。その上で、それぞれの学科・コースに対して、3つのポリシーに基づいてディプロマ・ポリシーの能力評価指標を作ってください、作るにあたっては、先ほどの「10+1」の力に基づいて作成してください、というお願いをしました。それをもって、高知大学では「DPの見直し」という形で進めてきており、その際に、先ほどから出ている「10+1」の力が効いてきているわけです。

このp.31のシートで経緯をご説明しておきますと、一番右に、初年次科目(必修)とあります。これは、12年くらい前に、少人数のグループワークで行う3科目を全学必修で実施した時に、そういうグループワークをする授業をどうやって評価するのかという話があり、「汎用的能力を測定して授業改善・教育改善に結びつけるための指標を作れ」という要請が私のところに降りてきました。その頃から、セルフアセスメント評価指標といったものを作ってきた次第です。ですから、それなりに時間的な経過があります。3ポリシー見直しの時には4領域で設定していましたが、現在は3領域に分けて展開しています。そして来年度は、統合・働きかけの評価を、教員が行います。

セルフアセスメントシートについては、資料p.34に掲載しています。お示しした結果は、本年度の授業が終わった後のもので、学生の自己評価ですが、こういうことをしているということでご覧いただければと思います。

評価ツールの全体像としては、このセルフアセスメントシートを長いことやっていますが、それに加えてベネッセi-キャリアのアセスメント「大学生基礎力レポート」と、科目を決めて教員が行うパフォーマンス評価をしています。(資料p.35)。「大学生基礎力レポート」については1年生と3年生でやる、ルーブリックを使った「10+1」の能力評価については、1・3・4年次で実施します。ただ、就職が決まった4年生を捕まえるのは大変で、4年生についてどうやって実施するかは、今後考えていかなければならない課題です。また、直近の話では、卒業生アンケート、就職先インタビューという形で、卒業後のアセスメントというのも今後考えていかなくてはならないと考えています。

これらの評価ツールを作っていく際には、企業関係者、高等学校関係者といった外部のステークホルダーと一緒に、カリブレーション、チューニングを行ってきました。その中でステークホルダーから強く求められたのが、何のために評価するのかが明確に示されているか、評価の物差しが明確に示されているか、評価者・被評価者が話し合う時間が確保されているか、ということでした。それがその後の施策と結びついています。このステークホルダーから強く言われた評価者と被評価者とが話し合う時間というのを、我々はリフレクション面談という形で実施しようとしています。高知大学にはアドバイザー教員が必ず学生についており、アドバイザー教員が学生と面談する時間を取る、ということを今年度、決めました。学生は先に述べた各種のアセスメント結果とe-ポートフォリオを用いた振り返りを実施し、教員は他者評価を行い、自己評価が高すぎる学生、低すぎる学生へのフォローをしていくという形をとっています。

パフォーマンス評価については、先ほどの「統合・働きかけ」の力についてパフォーマンス評価をする授業をそれぞれ定め、学部・学科・コースに評価基準を作っていただき、3~4項目のルーブリック評価をする、ということを決めています。3年生の前期か後期にパフォーマンス評価科目があり、卒業時にもう一度パフォーマンス評価を行います。

なお、セルフアセスメントシートについての検証は、探索的因子分析を行いました。私たちが「統合・働きかけ」として設定した設問は、残念ながら他の能力要素である10の力の方に入ってしまいましたので、項目を見直さないといけないと考えています。

また、このほかに卒業生に対する1年目のアンケートもやっています。回収率が20%で、1年目としてはそこそこの数字ではあったのですが、よりよい実施方法について、今後継続的に考えていかなくてはいけないと思っています。

では、実際に検証をしてみてどうだったのかということについて、ベネッセの松本さんからお話しいただきます。

〔松本〕 アセスメントの実施や共同研究でのインタビュー調査を通じて、今回の検証結果がどうだったのかという視点から報告させていただきます。1点目は、今年度(H29)4月に1年生・3年生に実施した「大学生基礎力レポート」の結果についてです。2点目は卒業生インタビュー調査を今年度実施した結果について報告させていただきます。




まず1点目、「大学生基礎力レポート」の結果です。京都大学の山田剛史先生が示されているIEEOモデルに従って、ご説明したいと思います。まずinputの部分です。1年次に実施した「大学生基礎力レポート」の結果から、入学時点での学生の状態がどうだったのかの把握をしています(Input)。3年生の結果からは、大学が提供している教育・学習環境が適切かどうかの検証(Environment)、学生が学習にどれくらい傾倒しているのか(Engagement)、そして学修成果が出ているのか(Output,Outcome)、をご確認いただいています。それぞれ全国平均と比べてどうだったのか、資料p.40に細かく書いていますのでご参照ください。

今年度から始めましたので、今回の1年生と3年生のデータは、縦断でなく横断の結果になりますが、今後、今年実施していただいた1年生が2年後、3年生になったときには、縦断的な結果が得られますので、一人一人の細かなプロセスを検証していって、さらにいろいろなことが把握できるようになるのではないかと考えています。

次に卒業生インタビューについてです。これは、卒業後、社会でどれくらい活躍できているかということをもって、学修成果を検証するということを目的に行っています。卒業後1年目から5年目までの高知県内および首都圏に就職した方を対象としています。地方創生の観点から、県内に留まられた方と首都圏に出て行かれた方との差異を見ています。それから、このインタビューは、卒業生本人だけでなく、職場の方にも実施しています。本人の主観的評価だけでなく、本当に社会で評価されているのか、客観的に見て職場でどうなのかということまで確認する目的で、首都圏10組、高知県内19組、ペアでのヒアリングを行っています。

インタビューに先立っては、セルフアセスメントシートの項目を使用し、事前アンケートを実施しています。全体の傾向としては、主観・客観ともに高いのは、「感謝の気持ちを伝えることができる」、主観客観ともに低いのは、「関連づけて理解する」「図や表に表して説明する」「他者の視点で修正する」でした(資料p.42)。ただ、これは統計的な有意差はなく、傾向を把握するためのものとしてご理解ください。

主観と客観でずれた部分について、客観の方が高いのは「チームの中で積極的にとりくむ」「自分の役割を認識し責任をもって行動できる」「振り返りができる」「プレゼンがうまい」で、これらは、本人よりも職場の方からの評価が高くなっています。逆に職場の方からの評価が低いのは、「情報やデータが正確であるか、客観的であるか判断できる」「データの利用に責任をもつことができる」というエビデンスを扱う力の部分、それから「対極の視点から物事を捉えることができる」です。具体的にどんな声が出てきたかをまとめたのがこちらです(資料p.43)。先ほどの傾向と似通っていて、チームで仕事をすることができる、振り返って次の成長につなげることができる、といったあたりは、職場の方から高い評価を受けている部分でしたが、一方で「今やっていることが全体的に見てどのあたりを担っているのか」という全体を俯瞰する部分、エビデンスを持って語ることができる、承認や納得を得られるようなコミュニケーションができる、といったあたりはまだまだこれからですね、という声を職場の方からいただいています。

インタビューでは、様々な声を卒業生の方からもお聞きしました(資料p.44)。まず意外だったのは、高知大学にとっては県内出身者が2割しかいないということが長らく課題として挙げられてきましたが、卒業生は逆にそれを多様な人が集まっていたダイバーシティの中で学べたのがよかった、と高く評価しています。また、学外のリソースとして温かい風土・人柄によって大学への定着が促されたことも明らかとなっています。プログラムへの評価として、高知大学では地域振興活動を盛んにされていますが、それをやっておけばよかったという声が多かったです。

企業からの期待としては、高知県内と首都圏の企業では卒業生に対する期待、見る視点が違っていた、ということが今回の研究で分かってきています。高知県内の企業からは、卒業生を人として成長させたいという思いが強く、個々をそれぞれ見て、その個々の中での伸びしろを確認していくという視点で見守っているのに対して、首都圏の企業では、既にある能力観やスキルマップに従って、何年目だとこのくらいというような平均値や、一定の尺にあてたような評価の仕方が一般的になっています。ただしこれは高知だから・首都圏だからなのか、企業規模・業種によるものなのか、今回のヒアリングからは弁別できず、今後の課題として残りますが、このような「人を育てる」ための環境が大学のすぐ近くにあるということは、大学にとって非常に大きなリソースではないか、ということが今回の調査から確認できたのではないかと思っています。また、就活指導への示唆についてですが、就活生への積極的アプローチ、つまり情報が集約されていたり、就活のナビゲーションが整っていたりする点では、首都圏の企業の方が充実しているがために、それほど県外就職に強い希望がなかった学生も、先に決まったからということで県外に流出してしまっている可能性も見えてきています。

それから、大学での学びが今の自分にどれくらい役に立っているかについて、本当にたくさんたくさん卒業生が語ってくださり、このようにまとめてしまうのは残念なのですが、大きく5点ほどあるのではないかと思っています(資料p.45~47)。まず1点目、悩み抜いて卒論を書いたという経験、非常に厳しいゼミで鍛えられたなど、相当な努力をして何かをやり抜いたという経験。2点目、教育実習で責任感を持った、作ったものを売るところまでやったという実社会との接点を持った経験。3点目に実験の手続き、思考が深まっていくなど、学問固有の物の見方や考え方に触れたという経験。4点目に高知大学オリジナルのプログラム、高知ならではの地形や自然を生かした実習活動など、そこでしか受けられない、大学独自の個性や特色を生かした教育を受けられた経験。5点目に進みたい進路が学びからみつかった、行動や振舞いを変えて新しい自分が見つかった、といった自分の適性、新しい自分、将来を知ることができた、という経験。大きく分けるとこのような5つの要素とそれを支える人の存在が今の自分を支えている、というコメントがありました。

〔塩崎〕 卒業生インタビューやアセスメントから見えてきたことを受けて、今後どのように教育実践・施策へ反映していくかということについて、最後にお伝えします。資料p.48のプロセス⑥の矢印がここだけ白抜きになっているのは、現在進行中であることを示しています。

今後アセスメントをされる大学については、アセスメントプランを明確にする、ということが大事だと思います。ステークホルダーから言われたことでもありますが、尺度を共有して、評価者と被評価者が話し合う時間をとる、ということ。私たちの場合は、それはリフレクション面談という形で、ほぼ全員の教員が学生との面談を行うこととして結実しています。ただ、面談スキルの向上策については、今後考えていかなくてはいけないと考えています。

それから、卒業後のキャリアの観点から、学修成果を可視化するための量的調査を今後行う予定です。「入学者に占める県外出身者8割」にこれまで頭を抱えていたわけですが、学生たちはそれを楽しんでいるということ、これはやろうと思ってもなかなか仕掛けられない条件ですので、これをどう生かしていくかについて、今後考えていかなければならないと思います。

就職支援への対応については、リフレクションセメスターを3年生のおおむね1学期に設定し、それまでの学びを振り返って、残りの大学生活をどう改善していくのかを考える時間として取っています。その間に面談もありますので、その中でキャリア形成の支援もしていきたいと考えています。

 

 

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