教育フォーカス

 

【特集17】学生の学びと成長のプロセスを可視化する
第24回大学教育研究フォーラム 参加者企画セッション 開催報告
学修成果の多角的・継続的な可視化とその活用
~育成と一体化した評価への試み~

■ 事例報告3/関東学院大学


関東学院大学 高等教育研究・開発センター 専任講師  杉原亨
関東学院大学 高等教育研究・開発センター 専任講師  奈良堂史
ベネッセi-キャリア 企画開発部 商品開発課  友滝歩


〔杉原〕 学生の成長プロセスの可視化の分析結果とその活用について、発表します。

発表のアウトラインですが、先ほど岡田さんのスライドにありましたこの6つのプロセスに沿ってご説明します(資料p.72)。まずプロセス①、共同研究の背景と経緯、研究の全体像に関する点についてです。

高等研は全学のキャリア教育科目を運営しており、今回、「成長プロセスの可視化」に向けたプロトタイプづくりを、1年生・4年生のキャリア教育を絡めて行いました。成長プロセスの可視化の目的は2つあります。1点目は教育の質向上、具体的にはキャリア教育のカリキュラムや授業改善です。もう1点は、可視化した結果を、内部質保証、認証評価などにつなげていくことです。




昨年度(2016年度)の研究成果と課題ですが、アセスメントとインタビュー調査によって、定量と定性の両面から成長プロセスの可視化を試みました。お手元にお配りした成果報告書p.9~10のところ、5角形の図のあたりをご参照ください。大学生版のPDACサイクルとお考えいただくとよいかと思います。観点として、中長期の目標設定、焦点化、負荷のある行動、リフレクション、というものを挙げています。先ほど志村先生がキャリアの自己開発として挙げられた、自己省察力、探索力、計画力に非常に近いところがあるのかなと考えています。

その結果を踏まえた上で、今年度はまず、初年次での可視化に取り組みました。キャリアデザイン入門科目でのレポート分析と教材開発を行いました(資料p.79)。「KGUキャリアデザイン入門」は、ベネッセi-キャリアのサポートも得ながら、4月から7月にかけて15回にわたり運営しています。毎回の授業でコミュニケーションシートに記入してもらい、それを講師が見て成長が感じられる学生を30名程度選び、記述内容の定量分析(テキストマイニング)を行いました。資料p.81およびp.113~118に詳細を載せています。前半の授業回では、思う・考える・感じるという単語が多かったのが、後半の方になるとコミュニケーション、行動、計画、実行などの単語が近い関係として出てきています。後半になるにつれて、行動に関する単語が増えてきています。

もう1点、定性分析としては、先に述べた成長プロセスの4観点に沿って研究メンバーがレポートを読み、評価しています。分析の結果から、学生の成長プロセスとして、3つのタイプが見られました(資料p.82)。1つ目は将来を意識した学びと実践が見られる人。起業したいから経営学を学ぶ、留学したいので留学サポートセンターに行った、といったパターンです。2つ目は、キャリア科目の授業のなかで、「人の目を見るようになりました」「積極的に会話するようになりました」といった小さなPDCAを回しているパターン。もうひとつは、大学とは関係ないところ、例えばアルバイトなどで「お客さんとようやく話すことができました」などが記述されているパターンです。

これらの分析結果から、どのような教材開発をしたのかについて、ベネッセi-キャリアの友滝さんから発表していただきます。


〔友滝〕 初年次の授業についての定量・定性分析を受けて、初年次キャリア教育科目をどのように改善していくかという授業運営のお手伝いをさせていただいています。

まず、授業の概要ですが、「KGUキャリアデザイン入門」という前期科目、全15回のうち8回分をベネッセi-キャリアでお手伝いさせていただいています。全学11学部の1年生、約2,800人が対象です。派遣している講師は23名、41クラス、3つのキャンパスで全学を上げて実施されています。大学様と共同で開発・制作したオリジナルテキストを使用し、自己理解・社会理解をベースに、将来を見据えてキャリアデザインすることを目的としています(資料p.84)。




また、学生自身が授業の中でも、また1週間の中でもPDCAサイクルを回していく中で、行動する力を身につけていただけるよう、毎回、ペアワークやグループワークを取り入れ、アクティブな授業を実施しています。資料p.85に簡単に各回の構成をまとめていますが、ディプロマ・ポリシー、建学の精神についてのお話(大学様実施)、社会理解、自己理解、といった内容が含まれています。シラバスをみんなで眺めながら、社会と学問の関係を考える、社会の課題と自分がこれから学ぼうとしていることのつながりを考える、自己理解をベースに、自分をさらに成長させるにはどのような授業を受けたらいいのかを考える、といったこともしています。

毎週の授業では、このようなコミュニケーションシートを用いて(資料p.88)、「この1週間で大学生活を充実させるために、あなたは何をしましたか」ということを書かせています。また、企業研究のワークシートというものがあり(資料p.87)、将来就職してみたい業界について調べて書きます。そして最終レポートとして、「この授業を受講したことは自分にとってどのような意味があったのか」を1000字程度で書いてもらいます。これらの課題の記述内容を、定性・定量的に分析されたのが先ほどの杉原先生の分析結果になります。

こちらの業界研究のワークシートは、興味ある業界を2つ選び、代表的な会社をそれぞれ3つずつ取り上げ、売上、利益などをIR情報から取り出してきたり、その業界全体の課題をニュースなどから引っ張ってきたりするという作業を学生に求めています。シート自体は簡単なものに見えるかもしれませんが、見た目以上に取り組みに歯ごたえのある、骨の折れる課題となっています。

学生の皆さん、特に今回講師がピックアップした意欲ある学生は、これらがきちんと書けています。与えられた課題に対して誠実に向き合い、情報を適切に取捨選択・抽出できる力があることを確認できました。一方、こちらのフリーで書いてもらうコミュニケーションシートや最終レポートでは、意識が高まり、いろんなことをやってみようというのは分かるんだけど、やろうとしている行動の選択が少しちぐはぐだな、というような弱点が見えてきました。

そして、これからまだまだ成長できる余地があるなと感じたのは、行動計画のワークシートでした(資料p.89)。これからの大学生活をどう送るかを書いてもらうものなのですが、自分自身や大学のリソースを含めた現状分析をしてもらい、目標設定をして、現状と目標とのギャップを分析し、取るべき方策をいくつか適切に導き出し、To Doレベルで分解して実行できるようにする。このような、私たちが会社で仕事をする中で実行していること、そして恐らく学生が学問に取り組む中で求められる力が、まだ前期の段階では弱いなということが分かってきましたので、ここをしっかり授業の中で実施できればということで、いま次年度にむけての改善計画を練っているところです。

この図(資料p.90)は、関東学院大学で次年度から実施する「GPS-Academic」という思考力等を測るアセスメントの中で示している問題解決のサイクルですが、この図の右側の部分(情報の整理・分析、まとめ・表現)は現状の強み、左側の部分(課題の設定、情報の収集、振り返りと考えの更新)が課題と言えるかなと考えています。

そこで、次年度シラバスの具体的な改善の方向として(資料p.91)、行動計画の立て方を学ぶ時間をこれまで以上にしっかり取って、学問と社会の関係を踏まえた上で、大学生活の送り方を考えていただく予定です。これが、大学での学びを支える力にもなっていくかと思います。資料p.92にあるようなワークシートの改善等によって、学生の皆さんが関東学院大学での4年間を通して大きく成長していけるような計画立てをできるようにしたいと考えています。

また、シラバスの第2回に「GPSアカデミック受検」と書いてありますが、こちらは思考力とそれを支える態度・姿勢、粘り強く取り組むレジリエンスといったことを測ることができるテストになっています。これを1年次およびそれ以降の学年での検証と育成に活用いただける予定と伺っていますので、引き続き今後も、成長の可視化と支援のお手伝いをさせていただきたいと思っています。


〔奈良〕 私からは4年生の話をさせていただきます。私ども関東学院大学では、1年次のキャリア教育で4年間の学びを計画、デザインしていこうとういうことに力を入れてまいりました。一方で、本当に成長できたのかということを、4年生の最後にもう一度振り返るような科目があるといいのではないか。4年間の成長を測るということについては、4年次に1年次と同じアセスメントを課して測るという方法もありますが、それだけでなく、自分の力で、やってきたことを自分の腑に落ちる形で科目の中でまとめていく、言語化していく、そういうことができたらという思いで「総まとめプログラム」というものをやってみようということを考えました(資料p.94)。




先ほど、共同研究における成長の定義として5角形のモデルの紹介があり、またPDCAという話もありましたが、成長の重要な側面として、「学習の自己調整」があるだろうと思います。学習の予見・遂行・自己省察を自分の力で回すことができる、これが成長なのではないかと考えました。これを、4年間の学びについて振り返り、総括して、社会に出た後の自分の学習課題に気づき、次の学びに向かっていく。卒業を目前に控えた学生に、そういう手助けができるような科目が置けたらいいよねということで、開発に取り組みました(資料p.95)。

4年間の学びをまとめるのは卒論なのではないかと考える先生方も多いと思いますが、確かに卒論は能力のまとめにはなっていると思います。例えば論理的思考力、問題発見、課題解決などの能力です。しかし一方で、学生がテーマを自由に選択するゼミが多いですから、知識のまとめにはなっていないのではないか。「真の総論」と我々はよんでいますが、4年間で学んできた知識や理解のまとめをするような授業があったらいいと考えました(資料p.96)。資料p.97で「パズルのメタファー」と書きましたが、学生の知識は完成途上のパズルのようなものだと考えることができるのではないでしょうか。例えば私が専門としている経営学の領域では、学生にインタビューしてみますと、経営戦略、組織、マーケティングなど楽しいところは授業をとってきた、しかし数字を使うような簿記、会計、ファイナンスはやってこなかった、したがって経営学部なのに財務諸表が読めない学生がいる、ということがありました。このとき問題なのは、「分からないことがある」「知らないことがある」ということではなくて、自分にはどこが足りていないのかということを卒業の段階で振り返るとともに、今後の学習課題に自分で気づいて卒業後も学び続けることこそが大事、ということです。

本学は12項目のディプロマ・ポリシーを全学で設定しています。その中の一つに「生涯学び続ける意欲」があります。そういう意味でも、4年間でどこまでできたのか、これから先何をやるのか、という見通しをもって社会に出てもらうことをする必要があるのではないかといった思いで始めたのが、今回のプログラム開発です。

プログラムでは、4年間何をしてきて、どんなことを考え、何を得たのかをしつこいほど言語化する、ということをやっています(資料p.98)。プログラムの到達目標として、「学びを総括して語る・書くことができる」「身につけた能力を列挙できる」「自分の強み弱みを整理できる」「社会で必要な力を就職先と関連付けながら説明できる」「行動計画を具体的に作成できる」という5つを設定しています(資料p.99)。具体的に何を開発したかですが、科目シラバス、ワークシート、授業で投影する資料、プログラムを評価する枠組み・ルーブリックなどを開発してきました(資料p.100)。

「総まとめプログラム」のもともとのアイデアとしては、半セメスター・8回分・1単位の授業、あるいは3日間集中講義の1単位を想定していましたが、今回は共同研究のトライアルとして1日に圧縮し、自分がやってきたことを言語化してもらうメニューで実施しています(資料p.101)。

11月に実施したトライアルでは、文理のバランスがとれた形で、17名の学生に参加してもらいました。参加者の傾向ですが、一般入試・センター利用入試での入学者が多く、全学アセスメントの結果からも、比較的学力の高い学生が集まっています。中には数名、大学院進学者もおり、こういったプログラムに関心をもってくれる意欲の高い学生が集まってくれたという傾向がありました(資料p.102)。

学修成果の可視化のためにどのような情報を取得したのか、ということですが(資料p.103)、モチベーションチャート、自分版カリキュラムマップといったワークシートを使って、4年間の学びや取り組んできたことについて書いてもらいました。自分版カリキュラムマップは、これはコンセプトマップ、マインドマップといった様々な言い方がありますが、概念地図法を使って自分のやってきたことを書き出してみる。それを、ペアを組んで相手に説明して深めていく、ということをやってきました。本学はe-ポートフォリオのシステムがありませんので、自分が4年間にどんな科目をとってきたのかという履修科目リストを持ってきてもらい、それを使って自分の学んできたことを絵にするということをやらせると、このくらいのことは書ける(資料pp.104~105)ということがわかりました。あくまで一例ですが(資料p.105)、こちらの学生は、時系列で自分がどんな課題意識をもってどんなことをやってきたのかを図にしてくれています。

今後については、入口・初年次のところでのキャリア入門科目、出口・4年次の総まとめ科目とをつなぐということも1つの課題でしょうし、あるいはより質の高い可視化の仕組みづくり、ポートフォリオや面談なども課題かもしれません。そのあたりの「今後どうするか」について、杉原先生からまとめていただきます。

〔杉原〕 学習の可視化という点では、おそらく可視化というフェーズは超えて、次にそれをどう評価してその結果をどう活用するのか、というフェーズに入っているのではないかと思います。その評価をDPと紐づけることが望ましいのですが、その際には、先ほどの総まとめプログラムで掲げた到達目標をどうDPと結びつけるのかが大事だと思います。

本学では、e-ポートフォリオについてはまだ本格的に導入していませんが、何かしらの学習に関する記録をつける必要があるのではないかと思います。そして、記録するだけではなく、教職員が指導に活かせるところまで仕組みを作ることが大事だろうと考えています。こういった可視化した情報を、学内の成績、出席状況などの様々なデータと関連づける活動も必要です。そうすることで、初年次で課題として見えたことが、4年次にどのようになっているか、パネルデータとして検証していくこともできるのではないかと考えています。

学びの振り返りに関しては、もっと専門教育・科目の内容に踏み込んだ形でやろうというプランも当初あったのですが、まずは我々が担当するキャリア教育をベースにして実施しました。ですので、本当は、専門の教員と一緒になって振り返ることが望ましいのではないか、と考えています。

最後に、こういった総まとめプログラムをキャリアデザイン科目の全体設計の中にどう位置づけていくかについてです。学内でヒアリングをしてみると、今回のプラン通りに4年次の秋学期でやるということだけでなく、3年次のオリエンテーションで実施して就職活動に活かす、あるいは、2年次の夏休みなど早い段階で実施してその後の大学生活、学びに生かしていくのがよいのではないか、など様々な意見がでています。4年生で社会と大学をつなぐという観点だけでなく、柔軟にいろいろな形態でやっていけるのではないかと思います。

 

 

Topへ戻る
 

 【特集17】 一覧へ