教育フォーカス

 

【特集17】学生の学びと成長のプロセスを可視化する
第25回大学教育研究フォーラム 参加者企画セッション 開催報告
2年半の追跡調査に基づくアサーティブプログラム・アサーティブ入試の現状と課題 ~多面的な評価に基づく選抜の効果とは~


■報告1 アサーティブ入試の目的 ~志願者の何を見ているのか?  資料

追手門学院大学 アサーティブ研究センター研究員/教務部 アサーティブ課長 志村 知美



私からは、アサーティブ入試を何のためにやっているのか、始まりの所をご紹介させていただきたいと考えています。追手門学院大学に2013年に赴任し、入試を変えていくというミッションはあったのですが、取り掛かりとして何をどうやっていこうかと考えたときに、その学校にいる学生がどんな子たちなんだろうと、好奇心と言ってしまえばそれまでですが、当時の先生や職員に「追手門大学の学生ってどんな学生ですか?」ときくと「いい子です」と一言なんですね。「いい子ってどういう子ですか?」と聞くと、「窓口に来て『すいません』『こんにちは』とあいさつができます」という答えが返ってきて、たくさん学生がいる中で、本当に「いい子」の一言なのかな?という思いがありました。何をどうしていいのか戸惑っていたところもありましたので、学生と直接話をしよう、その子たちに聞くのが一番かなと思ったわけです。餅は餅屋ではないですが、そこにいる子たちが何を考え、何を求めているのか、まず自学の学生を知るところから取り組もうとしました。そこで、学内をうろうろして、その辺で歩いている学生を捕まえて、「この学校にきてどう?」「何で追手門学院大学にきたの?」という話を聞きました。

また、いろいろな高校にも伺わせていただいて、高校生ともたくさんの話をしてきました。

その中で得られたことを、私なりに簡単にまとめたものがこちらになります(シート2)。まず、高校生が大学に行きたいのはなぜかを尋ねると、「就職」「世の中がそんな流れだから」「高校が進学校なので大学には行かなきゃいけない空気だ」と言っていました。じゃあ、大学はどうなの?という話を掘り下げてくと、「大学入試って入学したら何か役に立つんですか?」自分たちは無駄な勉強、合格を得るためだけの勉強、大学に入るためだけの勉強をしているという発言が、高校生、大学生両方からありました。「それじゃあ勉強が面白くないでしょ?」というと、「そもそも勉強って面白いことじゃないですよね」という共通した声がありました。確かに、私も高校、大学時代、勉強が楽しかったかと言われると「んー」というところがあるのですが、この歳になって大学院にいったりすると、「学ぶっておもしろい」とやっとわかったんです。ですから、高校、大学生に「大学に入るためだけが勉強じゃない」と伝えたい。そういう意味で、高校の進路指導の問題も見えてきました。大学生に、「入学してどうだった?」と聞くと、グループディスカッション、議論の時間が増えてきて、発言の仕方、手を上げるタイミングが難しい、分からないという戸惑いの声も多くありました。また、ノートの取り方に戸惑ったという声も印象的でした。

そういったことを自分なりにまとめていったのですが、最後に決定的だったのが、「不本意入学です」と言った子が多かったのです。これは、アンケート調査でも出ていたのですが、本学への第一志望での入学は、当時、2割弱(現在は約5割)という数字が出ていました。「不本意です」ということを、学生自身が言うのです。「不本意で大学にきて、大学生活は楽しい?」と聞くと、「べつに。でも、大学くらいは出ておかなきゃ。だから楽しいとかではなく、卒業できればいい」。それじゃあ多分楽しくないし、400万円もお金をだして、君のうちはお金持ちなんだね、という笑い話をしたり。でも学生なりにもがいているんだなというのを感じました。進路指導の現実や、高校から大学の接続のところで起こる、議論の仕方、ノートの取り方といった高校と大学との学び方の違いに戸惑い、そもそも不本意で入ってくるので学びのモチベーションも低いということを、この入試でどうしたいかと考えたときに、追手門学院大学を第一志望にして、この大学で学びたいという学生を増やしたいと考えるようになりました。

ただ、入試だけでこういうものを育てていく、評価する、ということは難しかったので、プログラムという形で、育成する場所を設けました。このプログラムで何をやっているかですが、3つの柱があると考えています。

1つ目は自己省察力、ふりかえりです。17,18歳の高校生に昔はどうだった?と振り返ることを促すのですが、結構覚えていない、意識していないということがわかりました。この「ふりかえる」「自分と向き合おう」「自分のことを知ろう」ということを常に繰り返して伝えています。そうしていくと、過去と今と未来をつなげていく戦略的な思考というものが少しずつ身についていくのではないかと考えました。

次に、探索力です。調べる、考える、組み立てる。「分からなかったら調べて」「調べたことを考えてみよう」「これとこれをつなげたらどうなるか考えてみたら?」と伝えると、「あ、わかった」「そうなんだ」と目がきらきらしてくるんですね。こうやって学び方を学んでいく。

3つ目は計画力です。「で、あなたはどうしたいの?」と聞くと、未来を意識するようになる。

具体的に面談で何をしているかですが、ちょうど先週にアサーティブガイダンスがありました。そこで、高校3年生の男の子が私のところに来ました。「きみは大学に行って何を学びたいの?」と聞いたら、すごく胸を張って「社会学です」と答えました。「何で社会学に興味があるの?」と聞いたら「地理と歴史が大好きなんです」。なるほど、「社会」の「学」。彼には、「社会学って何?ということを調べてこよう」「ついでに社会科って何なのかを調べて、比較しよう。そこから本当に学びたいことを、もう一回整理をして、もう一回来て」。これを「やり直しの刑」と私は呼んでいるのですが、「もう一回考えようよ」ということを伝えると、彼もショックだったみたいです。大学で学びたい、大学に行きたいという気持ちを伝えに来たのに、社会学って何、という根本的なところでストップがかかってしまった。「でもね、言葉だけ鵜呑みにするんじゃなく、言葉がどんな意味を持つかを考えなきゃだめよ」と言って帰したので、近いうちにもう一度来てくれるのを楽しみにしていますが、高校の進路指導の現実の一端を見たような思いがしました。こういうミスマッチを解消するという役割もありますし、過去を振り返る、自分を知る、調べる・考える、学び方を学ぶことができれば、この先社会に出ても、とりあえず生きていけるだろう、ということを考えました。ですから、アサーティブプログラムは、キャリア成熟の基礎を作る場所として成り立っているのではないかと思うようになりました。

ただ、ここで大きな課題は、アサーティブプログラムに来る子たちの多くは、勉強が嫌いだから、勉強が苦手だから、一般入試ではない入試としてアサーティブ入試を受けたい、という気持ちを持っています。ですから、いま一番の課題は、基礎学力を向上させる、勉強に取り組ませる仕掛けを考えることだと考えています。これはのちほど、ベネッセの木村さんからデータでご紹介いただけると思います。基礎学力が全くないわけではないのですが、やはり基礎学力が低いかなと感じることがあります。

つい先日、卒業式があり、アサーティブ1期生が社会に出ていきました。彼らに、4年間の学生生活を振り返ってもらって、アサーティブプログラム、アサーティブ入試を経て社会に出ていくことをどういうふうに感じたかについて、ヒアリングをしました。当時、52名が入学して、8名がいろんな事情で退学し、2名が休学中です。残りの42名のうち、連絡が取れたのが28名で、その子たちはほとんど単位がとれているので、「大学には行かないけれど、電話でよければ協力しますよ」、と言ってくれて、「大学生活の最後にアサーティブの話を伝えたい」と言ってくれて、快く協力してくれました。そこから見えてきたのは、「学生生活4年間を100点満点で何点つける?」と聞くと80点、90点と高得点をつけてくれます。「じゃあ残りのマイナス20点、10点はなに?」とき聞くと、「もっと勉強しておけばよかった」「1年生のとき、「こういうことが学びたい」と思って入ってきたのに、一般入試や公募制で入った子たちに『こんな大学に第一志望で入ったの?』とバカにされたことがショックだった。その時に、少し心が折れてしまったことがマイナス」。彼らからは、「推薦入試を増やして、一般入試を減らしてください」という提案が出るくらい、この入試は良かったと言ってもらえたことが、大きな財産だと思っています。

私からは、アサーティブ施策導入の経緯、そしてアサーティブ1期生の様子を簡単にご紹介させていただきました。このあと、木村さんから、データを踏まえた分析結果のご紹介をさせていただきます。

 

 

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