教育フォーカス

 

【特集17】学生の学びと成長のプロセスを可視化する
第25回大学教育研究フォーラム 参加者企画セッション 開催報告
2年半の追跡調査に基づくアサーティブプログラム・アサーティブ入試の現状と課題 ~多面的な評価に基づく選抜の効果とは~


■報告2 アサーティブ入試の成果と課題  資料

ベネッセ教育総合研究所 高等教育研究室長 木村治生


いま、志村先生から、アサーティブ入試を導入した目的に関する話がありました。私の役割は、データから、その目的が実現できているのかを確認することです。

きれいごとだけでなく、いくつかの課題についてもご報告させていただきます。この3年間の共同研究では、明らかになった成果をどう全体に広げ、課題をどう解決するかを議論してきました。いま大学は、それを具体的な施策として実行しようとしています。私のパートの後に、原田先生、福島先生から、具体的な施策について語っていただきます。そのつなぎを果たすのが、私の役割です。

シート2は、研究の背景を示しています。大学教育には、社会から厳しいまなざしが注がれ続けてきました。ちなみに、大学生の学修時間は、平均するとどのくらいかご存知でしょうか。私たちが行っている調査(「第3回大学生の学習・生活実態調査」2016年)では、だいたい40~50分くらいです。これは、小学生の校外学習時間の半分です。大学生が十分に学修していないことに対する指摘は、さまざまなところからなされています。また、大学での学びが将来にどうつながるかという職業的レリバンスが分かりにくいという指摘もあります。そのため、去年の中教審答申(グランドデザイン答申)では、学修成果を可視化する方針が示されました。しかし、どのように可視化するかだけでなく、可視化したものをどう使うのかということとセットで議論する必要があります。この共同研究のよいところは、データを「どう使うか」に踏み込んでいるという点です。

また、私たちの問題関心は、大学の個別性を尊重しつつ、共通性をどう構築するかという点にもあります。課題は大学によって異なりますし、それを解決するためのリソースも当然違います。ですから大学との共同研究では、その大学に応じたカスタマイズが求められます。しかし、その一方で、測定内容や方法、質保証の仕組みのところで、共通化できるところは共通にすることも同時に考えなければなりません。私たちの役割は、その共通化にあるのではないかと意識しています。他の大学にも活用できるようにするにはどうするか、そういう観点をもってデータを分析してきました。

シート3は、分析枠組みです。1年次から3年次の3時点(調査時期は4月)で、ベネッセi-キャリアが提供している「大学生基礎力レポート」を使ってデータを取りました。今回の報告は「パート1」で3時点の学生の成長を可視化し、「パート2」で変化した学生の特徴を検討する、という2部構成で行います。

まず「パート1」でご紹介するのは、大学志望度のデータです(シート6)。先ほど、志村先生から話があったように、アサーティブ生は「第一志望」の比率が高く、一般入試生と比べて、大学に対するコミットメントが高い学生が入学しています。これは、この選抜の大きな効果の一つで、当初の目的と合致する部分です。

では、能力はどうなのか(シート7)。数値は、能力アセスメントの結果を学内の偏差値に換算しています。これを見ると、アサーティブ生は、入学当初、平均よりも低く、2年次にはさらに下がります。しかし、3年次は学内で真ん中くらいのポジションに上がります。3年次は1・2年次で測定している基礎学力とは少し異なるタイプのアセスメントを使ってい批判的思考力を測定しているので、実線でつなぐのは適切ではないところもあります。しかし、アサーティブ生の能力が落ち続けているわけではないことがわかります。

シート8は、大学での学業成績(GPA)の変化を記載しています。アサーティブ生が、2年次秋から3年次春にかけて上がっているのは、先ほどの能力アセスメントの結果とも一致しています。学内の成績も、上昇傾向です。

意識、行動面についてみたのが、シート9以降です。本日は、調査の中身については詳しく取り上げる時間がありません。報告書p.12~13に調査内容が書かれていますので、ご参照ください。

学びに対する意識(学びの価値、学びへのコミット、学びへの心構え、学びの見通しに関わる設問の合計得点を学内偏差値に換算)は、アサーティブプログラムの面談の中でも問い続けていることであり、アサーティブ生は一貫して高い傾向が出ています(シート9)。このあたりは、プログラムの成果が表れているところです。

また、進路に対する意識や行動(自己理解、社会理解、進路の明確度、進路実現に向けた行動に関わる設問の合計得点を学内偏差値に換算)も、アサーティブ生は高い傾向が見られます(シート10)。

次に、協調的な問題解決力です。1~2年次では、アサーティブ生の数値は高い結果でした。学内の友だちが多く、仲間と積極的に活動するのはアサーティブ生の特徴です。しかし、2年次から3年次にかけて数値が下がり、平均に近くなっています(シート11)。このように、当初の良さが消えてしまい、他の学生と同化してしまうのは、新たに生じた課題といったところでしょうか。

シート12は、自習時間の変化を示しています。1年次は高校時代の学習時間ですが、これは学習時間が長いグループと短いグループに分かれ、アサーティブ生は短いグループです。しかし、学年を追うにしたがって、学内の平均と同等になります。当初課題であった学習行動の改善が見られます。

成長実感(シート14)や大学納得度(シート15)は、アサーティブ生は1年次や2年次は高い傾向にありますが、3年次になると学内の平均に近くなるという課題が見られます。

こうした結果をまとめたのが、シート16です。これを見ると、アサーティブ生が入学当初に持っていた良さを維持している部分や、課題だったことが改善している部分が見られます。これらは積極的に評価できる点です。しかし一方で、入学当初に持っていた大学へのエンゲージメントが弱まっていると感じる部分もあります。

3年間継続して調査を行うことで、入学時の基礎学力や学習行動の不足といった課題が改善されたものの、入学後のエンゲージメントをどう維持するかに課題が移行していることがわかりました(シート17)。課題が入学後の教育の問題に移行していて、ポートフォリオの活用や教育的な介入(面談など)といった入学後の働きかけが重要になっていることを示唆しています。

次に、少し教育の問題に視点を変えて、「パート2」として、「高い実績を上げているのはどんな子か」を検討しました(シート19)。先ほど、データに関する課題認識を述べましたが、データは取っただけではダメで、学内データと結合して分析を深めていったり、成長した学生に共通する要素を解明して、施策にうまくとりいれるにはどうしたらいいかを考えたりすることが重要です。そういう点から、今回はGPAと関連づけて分析を行いました。

GPAの変化のパターンで、学生を3タイプに分けました(シート20)。成績上位を維持している学生(成績上位維持者)、成績が上昇した学生(成績上昇者)、それ以外です。その3タイプにどんな違いがあるかを追跡したところ、成績上昇者は成績上位維持者よりも、学びに対する意識(シート21)や進路に対する意識・行動(シート22)の数値が高い傾向がありました。研究会では、こういう学生の傾向は、アサーティブ生と近いという議論もしました。一方、協調的問題解決力(シート23)は、成績上位維持者が高い傾向があります。このように意識は成績変化と関連が出てきます。ところが、自習時間(シート25)や読書冊数(シート26)のような学習行動は、成績の変化と関連が見られません。行動すれば成績が伸びると予想していましたが、予想とは異なる結果が出ました(シート27)。

こうした分析から、どのようなインプリケーションが得られるか、この後のパートにつながる論点を提示します(シート28)。第一に、成績上昇者に注目すると、学習意欲や進路意識は成績上昇に大きな効果を持っていると言えそうです。この点も、先ほど「パート1」で述べた教育の問題です。学習意欲や進路意識をどう高めるか。学内の施策にどう生かすかを考える必要があります。

第二に、学習行動が成績に影響を与えていないということをどう考えるのか。これは、結構重い課題なのではないかと思いました。学習したとしても成績が伸びないのはなぜなのか。学生に出す課題や評価の問題とも関連していそうです。

大学内では、今まさに、学内で様々なデータを蓄積して分析していこうという体制を作っていこうとされています。また、入試から教育に、課題のありかが移行しています。アサーティブ課が入試部から教務部に移ったということも、そういう流れの中にあると思います。こうした分析結果を教育のなかにどう生かしていくか。その話は、この後の原田先生、福島先生に続きます。


 

 

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