教育フォーカス

【特集28】乳幼児期の社会情動的発達を支える子育てとは?~夫婦ペアデータからみたチーム育児の葛藤と協働~ 乳幼児の生活と発達に関する縦断研究より

 【話題提供2】 

    夫婦で子育てを楽しむことのメリット

李 知苑●い・じうぉん

ベネッセ教育総合研究所 学び・生活研究室研究員。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。修士(教育学)。ICTと子どもの学びや発達との関連、親子関係、子どもの非認知能力の発達等に関心を持って研究に携わっている。専門は教育心理学、発達心理学。2019年より「乳幼児の生活と育ち」研究プロジェクトを担当。

子育てに対する感情への注目

以前から子育てに対する親の自己効力感や自信は、養育の質を向上させる要因として知られています。本日は、そうした子育てに対する親の気持ちに注目し、それらが養育行動にどのようにつながるのかについてお話します。

子育て夫婦の気持ちの中で、今回注目したいのは、子育て肯定感です。子育てをうまくできているという効力感や自信、楽しさなどが挙げられます。そうしたポジティブな気持ちの総称を今回の研究では「子育て肯定感」とします。一方、子育てに関する不安や負担感などのネガティブな気持ちの総称を「子育て否定感」としています(図1)。

本調査では、こうした子育て夫婦の気持ちを毎年調べてきました。それらが、どのように変化しているのかを見ると、母親の子育て肯定感は、0歳児期から3歳児期まで高い水準で推移していることがわかります。父親の子育て肯定感は、母親と重なるように推移し、大きな変化はありません(図2)。

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多くは0歳児期の子育てに対する感情が維持されるが、例外も

詳細のデータを分析すると、上記のパターンにあてはまらない人がいることもわかりました。母親の子育て肯定感の変化をいくつかのパターンに分類したところ、約97%の母親が高い水準で推移していますが、約2%の母親は、最初は高かったけれど低くなり、約1%の母親は、最初は低かったけれど、次第に高くなることがわかりました(図3)。

一方、父親の子育て肯定感の変化パターンも、99%の父親が高いまま推移していることがわかりますが、残りの1%は、子どもが大きくなるにつれ下がっていくことが示されました(図4)。

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母親の子育て否定感が子どもの年齢とともにどのように変化しているのか、いくつかのパターンをご紹介します。約81%の母親は、子育て否定感がやや低いまま、約19%の人はやや高いまま推移していることがわかります(図5)。父親は母親よりも多いパターンに分けることができ、約56%の父親が母親と同程度の子育て否定感を持ったまま、約38%が子育て否定感は平均より低いまま、約4%が平均より高いまま、約2%が0歳児期は子育て否定感は低かったものの、2歳児期以降高まっているということがわかりました(図6)。

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このことから、まず、母親・父親ともに、多くの人が0歳児期から子育てに前向きな気持ちを持ち続けていることがわかります。また子育て否定感の変化パターンは母親よりも父親のほうが多様です。全体の平均値だけでは見えなかった母親・父親の様々な変化に注目すると同時に、その変化が何に起因するのかについて今後検討していく必要があります。

親に対する早期支援の重要性が明らかに

次に、子育て肯定感と否定感が、親の養育行動にどのように影響するのかを見ていきます。子育て肯定感とポジティブな養育行動の関係性、子育て否定感とネガティブな養育行動の関係性を分析しました。ポジティブな養育行動とは、温かい接し方や子どもの意欲の尊重などが挙げられます。ネガティブな養育行動とは、感情にまかせて叱ることやきつくせめる、叩くことなどが挙げられます。

母親・父親の子育て肯定感・否定感はそれぞれポジティブな養育行動・ネガティブな養育行動につながることがわかりました(図7・図8)。特に、0歳児期の子育てに対する感情がその後の養育行動を引き出すということだけでなく、自身の養育行動から子育てに対する肯定感や否定感が沸いてくるという双方向的な関係性も明らかになりました。

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本調査をふまえると、親の支援においては、子育てに対するポジティブな気持ちを持たせることに加え、子どもと関わるための最初の一歩を促す支援のあり方が重要だと考えられます。また同時に、0歳児期の子育て不安や負担感、ネガティブな感情をいかに軽減させることができるかが重要で、親に対する早期支援の大事さがうかがえました。

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