教育フォーカス

【特集30】大学教育学会第44回大会 ラウンドテーブル
「コロナ禍が学生の学びと成長に与えた影響〜大規模調査から大学教育の今とこれからを考える〜」リポート
〜「第4回 大学生の学習・生活実態調査」結果より〜

報告2「学生像のとらえ直し—生徒化は進行しているのか?―」

杉谷祐美子

青山学院大学 教授 杉谷祐美子

早稲田大学第一・第二文学部助手、青山学院大学文学部教育学科専任講師・准教授等を経て、現職。専門は、高等教育論、教育社会学。主に、学士課程カリキュラム、初年次教育、レポート・ライティング教育、大学生の学修行動などについて研究。主著に、『大学の学び 教育内容と方法(『リーディングス 日本の高等教育』第2巻)』(編著、玉川大学出版部、2011)、『進化する初年次教育』(共著、世界思想社、2018)、『学士課程教育のカリキュラム研究』(共著、東北大学出版会、2021)など。

「生徒化」が進むも、その裏にある支援を求める要因に注視を

 1990年代から、自主性の乏しさ、受動的な姿勢、教員の指導の要望など、受益者的な意識を持つことが、大学生の「生徒化」として議論されています。杉谷教授からは、今回の質問項目を用いて、大学生を8タイプに類型化した分析が報告されました(図4-1)。
 学生タイプは、「大学授業」に関する質問(自分の興味がある授業がよいか、楽に単位が取れる授業がよいか)で2群(学習積極群・学習消極群)に分けます。そのうえで、それぞれについて、「学習方法」「学生生活」の質問を用いて「自立派」(学習方法は自分で工夫・学生生活は自主的)、「学習指導派」(学習方法は授業で指導・学生生活は自主的)、「生活指導派」(学習方法は自分で工夫・学生生活は教員が指導)、「依存派」(学習方法は授業で指導・学生生活は教員が指導)の4タイプを設定しました。このうち、「学習積極群」の「自立派」を「学生」タイプ、「学習消極群」の「依存派」を「生徒」タイプと定義すると、「学生」タイプが年々減り、「生徒」タイプが増えています。2021年調査ではその割合が逆転していることがわかりました(図4-2)。
 この8タイプを用いて、大学教育観や授業への取り組み、学生生活について分析すると、「学習積極群」は授業や自主学習に積極的に取り組んでいますが、「学習消極群」は「授業についていけない」と感じる割合が高い状況でした(図5)。ただし、「学習消極群」のすべてが、授業や自主学習に消極的というわけではなく、その中でも特に「自立派」「学習指導派」が消極的でした。加えて、「学習積極群」「学習消極群」のいずれでも「生活指導派」「依存派」、中でも「生活指導派」は、「授業の課題を提出しないことがある」の肯定率が他のタイプよりも高い傾向にありました。
 次に、学生生活について分析すると、「学習積極群」「学習消極群」のいずれでも、「生活指導派」「依存派」は、学習相談や心理相談を利用する割合が高くなっていました(図6)。さらに、大学の中に自分の居場所がないと感じたり、経済的な理由で休学や退学を考えていたりする割合が、他のタイプより高く、心理面・経済面で不安や悩みを抱えていることがわかりました。以上の分析を踏まえて、杉谷教授は次のように考察しました。
 「確かに大学生の『生徒化』は進んでいましたが、その裏にある、学生生活に心理面や経済面での不安を抱え、支援を求めている姿が見えてきました。単に『受動的で依存度が高まっている』として、大学生の気質の変化として捉えるのではなく、大学に指導や支援を期待する要因を丁寧に見ていくことが必要でしょう」

図4-1 8タイプの類型の仕方 クリックで拡大します

図4-2 8タイプの経年変化 クリックで拡大します

図5 授業への適応 クリックで拡大します

図6 学生支援の利用度 クリックで拡大します

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