教育フォーカス

【特集31】学会取材リポート
初等中等教育におけるメディア利用と学習成果との関連
―子どもの生活と学びに関する親子調査より-

報告4「休校中の学習行動とメディア利用」

東京大学 准教授 王帥

東京大学 准教授 王帥

東京大学大学院教育学研究科教育学研究員、同社会科学研究所特任研究員等を経て、2020年4月から現職。専門分野は、教育社会学、高等教育論。

デジタル機器の整備だけでなく、自律的な学習習慣が重要

 この報告では、休校期間中のオンライン授業の実施やデジタル機器の利用、家庭学習の状況を検討することで、生徒たちが家庭学習をどのように評価し、デジタル機器の利用やオンライン授業がどのような役割を果たしたのかを明らかにしていきます。分析の結果では、次の3点が見えてきました。

 1点目は、学校段階や学校設置者によるデジタル機器の活用状況の違いです。オンライン授業の実施状況について見てみると、中学校より高校、公立学校より国立・私立学校のほうが、実施した割合が高いという結果でした。家庭でのデジタル機器の利用についても、中学生より高校生のほうが、利用した割合が高い傾向が見られました。

 2点目は、オンライン授業の影響についてです。休校中にオンライン授業があったかどうかで生活時間の違いを見てみると、オンライン授業があったグループのほうが学校の宿題とパソコンの利用にかける時間が長い傾向がありました。
 また、家庭学習の様子を、自己研鑽型、家庭学習不安型、家族依存型、計画指向型の4パターンに分類し(図10)、オンライン授業の有無や家庭でのデジタル機器を用いた学習の頻度がどう影響しているかを分析しました。その結果、中学生では、それらの影響がほとんど見られませんでしたが、高校生では、家でデジタル機器を学校の宿題以外の勉強で使う頻度が高いと自己研鑽型になりやすいことや、オンライン授業の実施とデジタル機器の利用が家庭学習の不安を高める一面があることがうかがえました(図11)。

 3点目は、学習の評価に与える影響についてです。家庭学習の評価(学習内容の理解度、学校の学習の満足度、家庭学習の充実度)を従属変数にしてデジタル機器を用いた学習の影響を見たところ、「オンライン授業の実施」があると、学校の学習指導に対する満足度が高まることがわかりました。また、「家でデジタル機器を使って学校の宿題以外の勉強をする頻度」は、中学生では家庭学習の充実に結びついている一方で、高校生では学校の学習指導に対する満足度を低下させる効果が見られました。さらには、「勉強の自律性」が、中学生で家庭学習の充実度に影響したり、高校生で学習内容の理解度の向上に影響したりしていることがわかりました(図12)。

1人1台端末の環境が整ったことで、今後、学習へのメディア利用は増えていくと推測されます。しかし、環境を整備するだけでなく、自律的な学び習慣の確立につなげるような指導の工夫が一層求められると考えます。

図10 家庭学習の様子の4パターン クリックで拡大します

図11 家庭学習の規定要因分析(高校生) クリックで拡大します

図12 家庭学習の評価の規定要因分析 クリックで拡大します

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