教育フォーカス

【特集31】学会取材リポート
初等中等教育におけるメディア利用と学習成果との関連
―子どもの生活と学びに関する親子調査より-

コメント、ディスカッション

ベネッセ教育総合研究所 主任研究員 佐藤昭宏

ベネッセ教育総合研究所 主任研究員 
佐藤昭宏

東京大学大学院教育学研究科修士課程修了。ベネッセコーポレーションに入社後、子どもや保護者、学校教育にかかわる調査研究や高等教育の質保証に関する研究・研修開発等に従事。2009年から現職。

 各報告者からの発表の後、ベネッセ教育総合研究所の佐藤昭宏主任研究員からコメントが寄せられ、報告者との質疑応答が行われました。

佐藤 今回、田島先生は「家庭内」のメディア利用、森先生は「学校内」のメディア利用、王先生は「休校期間中」のメディア利用と、異なる切り口・時間軸でパネルデータセットを分析していただきました。今後さらに分析を重ねていくステータスということですので、今回の報告内容に関する質問とともに、追加分析に対する希望を含めてコメントします。

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報告2 田島准教授とのディスカッション

佐藤 コロナ禍で在宅時間が増え、メディア利用が増えたことが、学業に与える影響は、保護者や学校の先生方が関心を持つ重要なテーマだと思います。報告では、コロナ禍を含む2018年から2021年にかけて家庭でのメディア利用時間が長くなっていること、学校段階が上がるにつれて利用時間が長くなること、媒体による多少の差は存在するものの、総じてメディア利用時間が翌年の成績に与える影響はわずかに留まることを示していただきました。メディア利用が子どもの学習や成績に与える影響について、遅行性を考慮したエビデンスは大きな示唆を与えるものと思います。
 1点、日本ではチャットやゲームが多いという話がありましたが、それらの行動は、自分専用の端末を保有しているかどうかの有無や世帯年収の影響を受けることが推察されます。家庭でのメディア利用と学業成績に関して、これらの変数を含めた分析をされていましたら、教えていただけますか。また、国立、公立、私立など、学校設置者によるメディア利用と成績の違いなどについても、ご存じの点があれば共有をお願いします。

田島 家庭や学校の状況などの個人差を考慮することは、おっしゃる通り重要な視点です。世帯年収と、子どもが自分専用のデジタル機器を所有していることには、相関があることがわかっています。ただ、それ以上の分析は、今回行っていないため、個人差の影響を分析することは、今後の課題です。また、学校設置者の違いについても、注目していきたいと思います。

佐藤 コロナ禍の前からメディアの利用時間が長い子どもと、コロナ禍を起点に利用時間が長くなった子どもがいると思います。コロナ禍におけるメディア利用の変化幅によって、成績への影響が異なることがあるのでしょうか。

田島 王先生(報告4)からも発表があった通り、コロナ禍の過ごし方は、学校のオンライン授業があったのかなど、子どもによってさまざまな違いがありました。外出自粛だからと、新しいメディアを買ってもらった子どももいると思います。コロナ禍で生活の何が変わったのか、そして、その変化がメディア利用の習慣にどのようにかかわっているのか、注意深く分析する必要があると考えています。

報告3 森研究員とのディスカッション

佐藤 学校でのデジタル機器の利用頻度について、地域差や学校設置者の違いは見られたのでしょうか。

 自治体の人口規模で分析しましたが、地域差は見られませんでした。もともと2020年の第6回調査では地域差はなく、2021年の第7回調査では地域に関係なく一様に利用頻度が上がっていました。国公私立の学校設置者別に利用頻度を見ると、公立学校では2021年に一様に上がっていますが、それはGIGAスクール構想で、一斉に端末が整備された影響が大きいと捉えています。ただし、一口に地域と言っても、人口規模だけでなく、自治体の財政状況や教育委員会のかかわりなどの影響もあると考えられるので、丁寧に分析していきたいと思います。

佐藤 授業の楽しさの規定要因分析について、授業でデジタル機器を使うことが、直接「授業の楽しさ」に影響をもたらす場合だけでなく、ほかの取り組みを媒介して影響している可能性について言及されていましたが、新しい学習指導要領下において、「協働的な学び」が推進されていることの影響も大きいように思いました。ご報告いただいた中学生の媒介メカニズムは、小学生や高校生にも共通するものなのでしょうか。

 今回の調査で、小学生は、デジタル機器の利用よりも、「調べたり考えたりしたことを発表する」ことが授業の楽しさにつながっている傾向が見られました。また、高校2年生~3年生では、デジタル機器の利用と合わせて、「グループで調べたり考えたりする」が有意になっていました。学校でのデジタル機器の利用の効果は、学年に合った学びのスタイルとも関連を持っていると思うので、メカニズムを丁寧に見ていきたいと考えています。

佐藤 現在、小・中学校ともに、1人1台端末はすでに普及されている状況です。今後は、利用頻度に加え、利用の質や影響を確認しながら、授業改善を行うことが重要になりそうです。

報告4 王准教授とのディスカッション

佐藤 休校期間中のオンライン授業は、学校の満足度には正の効果があるけれども、家庭学習の充実度や学習内容の理解度とは統計的に有意な効果が確認されなかった点や、図11や図12の規定要因分析で示された、家庭の収入が高いほど、家族依存型が強く、家族依存型が強いほど、家庭学習の充実度や学習内容の理解度が高いといった傾向を興味深く拝見しました。それらの結果を踏まえると、家庭学習の充実度や学習内容の理解度を高める点に限って言えば、勉強の自律性を高めるだけでなく、教育投資をして家族依存型を強めるというアプローチも、一概にネガティブだと言えないと思います。どのように捉えるとよいでしょうか。

 家庭の年収を媒介して、家族依存型になりやすいといったことはあり得ると思います。今回の分析では、交互作用項などを入れていないので、今後、もっと丁寧な分析をできればよいと思います。

佐藤 独立変数間の相関なども見ながら、モデルをより精緻なものにされていくということですね。通塾や学校外のサポートの有無なども、学習の内容理解や家庭学習の充実度に影響を与えていそうでしょうか。

 今回の分析では、特にデジタル機器の「宿題」と「宿題以外の勉強」を変数として入れました。塾や学校外での学習行動を変数に加えると、おそらく、この4タイプの規定要因が変わると考えられます。なお、高校生のみですが、「宿題以外の勉強」でデジタル機器を使う頻度が高い場合、学校の指導の満足度が低いという結果が出ました。学校以外の勉強が充実して、家庭学習や学習塾でデジタル機器を使っていると、学校での指導が評価されにくくなるのではないかと、解釈しています。いずれにしても、学校外の勉強、塾など、ほかの因子も加えて、総合的に分析する必要があると思いました。

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