教育フォーカス

【特集32】
帝京大学町支研究室・横浜市教育委員会・ベネッセ教育総合研究所
共同研究:「働き方の改善」と「学びの充実」を両立できる学校づくりを目指して

第2回:両立を実現するためのポイントとは?

本記事は、第2回にあたります。第1回の記事では、「働き方の改善」と「学びの充実」の両立が難しい関係にあることが示されました。「働き方の改善」をつきつめると学びが充実せず、「学びの充実」に注力すればするほど、勤務時間が長くなる可能性があります。しかし、両者は今の学校にとってどちらも欠かすことができません。難しい中でも、両立をいかに目指すかが求められると考えます。本記事では、「両立している教員」の特徴を見ていくことで、両立のためのヒントをさぐります。

両立している教員に注目

 本調査では、勤務時間の他に、学び、成長することができているという実感(成長実感)についても質問しています。時間外労働が短く(月あたりの時間外在校等時間が文科省指針の45時間以内)、かつ、成長実感を持っている(成長実感を問う質問に肯定的回答をしている)群を「両立している教員」群と定め、「両立している教員」群と「そうでない」群とは、行動や意識、とりまく環境等がどのように異なるのかを見ていくことで、その傾向を分析しました。

両立している教員の意識や行動にはどういう特徴があるのか

①「仕事のとらえ直し」(ジョブクラフティング

 まず、両立している教員と、そうでない教員とで異なっていたのは、ジョブクラフティングの有無でした。つまり、仕事のやり方を変えたり、よりやりがいのある仕事に意味づけるなど、仕事に工夫を加える行動をしていることが分かりました。これは、前回の記事でも、働き方に向き合う重要なキーであることが明らかになっています。

*ジョブクラフティングとは、仕事の取り組み方、関わる人間関係の在り方、仕事の意義づけという、3つの側面から、仕事をとらえ直すことです

 ただし、前回指摘した通り、労働時間が短いほど学びを充実させづらい傾向にあり、逆に学びを充実させようとすると労働時間も長くなりがちである傾向をふまえると、単に労働時間を削減する方向にジョブクラフティングを行うと、結果的に学びも縮減してしまうことも考えられます。両立している教員は、そのような状況が考えられる中であっても、十分に学びも充実させています。そのヒントはどこにあるのでしょうか。

②働き方改革の先にあるのは「より良い教育」

 両立している教員の特徴の一つは、働き方改革の目的に関係していると思われます。両立している教員は、そうでない教員より、働き方改革の目的を「より良い教育を実現するため」と認識する傾向が強いです。

③新たなことへのチャレンジ

 両立している教員のもう一つの特徴は「新しいことへの挑戦」にあります。両立している教員は、そうでない教員よりも前例踏襲を避けようする傾向であり、新たなことにチャレンジしている傾向があります。

両立している教員を支える組織の姿は?

 両立している教員は、仕事のやり方を工夫したり、新しいことに積極的に取り組んだりしながら、そうした改善や挑戦の一環として働き方についても工夫を凝らしていると考えられます。
 しかし、こうした改善や挑戦は個人の努力だけでできるのでしょうか。教員がおかれている組織にも関係があると考えられます。そこで、「両立している教員」が組織に対してどのような認識を持っているかをとらえることを通じて、「両立している教員を支える学校組織」のあり方について考えていきます。

①働き方の改善を推奨する組織

 まず、組織として業務の効率化や柔軟なやり方を推奨し、それぞれの多様な働き方を尊重する雰囲気があることがわかります。

②一人ひとりの考えを生かし、任せる学校運営

 「両立している教員を支える組織」では、その組織にとっての方針や目標がより明確であり、共通理解がはかられていることがわかります。
 加えて、そうした目標が、校長等のトップリーダーからもたらされたものではなく、「自分事」になっていることも特徴であると言えます。目標自体に各メンバーの想いが反映されているとともに、各自がその目標のもとで任されて、自らの判断にもとづき挑戦している組織であることがわかります。

③助け合い、心理的安全性がある職場

 両立している教員を支える組織の特徴の一つとして「心理的安全性」があると考えられます。心理的安全性とは、組織のメンバーが自分の考えや疑問などを他者に伝えることに対して、不安や恐怖を抱かない状態のことを言います。生産性の高い組織の特徴としてあげられることが多いです。
 本調査でも、心理的安全性に関する質問項目において、両立している教員は、そうでない教員に比べて肯定的回答の割合が高くなっています。心理的安全性の高い組織には、「助け合い」や「挑戦」を推奨する価値観があると言われています。「助け合い」に関する質問項目についても、また、②で見た通り「チャレンジ」の支援に関する項目についても高い値になっており、こうした特徴とも合致しています。

④日常の対話が学びの場

 両立している教員は、日常の対話から学べている傾向が見て取れます。特に、管理職との日常の対話で学べている割合が、そうでない教員に比べてかなり高くなっています。

両立する個人と組織の在り方

 これらの結果をふまえると、両立する個人と組織の在り方について、次の4つのポイントがあることが考えられます。

1.「よりよい教育」のための働き方改善
 現在「働き方改革」というと、得てして、労働時間を短くすることが目的になりがちです。もちろん、現状の長時間労働の状況をふまえると、それ自体は実現せねばなりません。しかし、両立している教員は、単純に「時間短縮」を目的にやることを減らすことに注力するのではなく、目的を「より良い教育を実現するため」にと捉えています。

2.「仕事のとらえ直し(ジョブクラフティング)」とチャレンジ
 その目的のもとで、前例踏襲とはせずに、自分なりの目標を持ったり、それぞれの活動の意味を問い直したりしながら、より効率的で効果的な別の方法を探ったり、新たなやり方を取り入れたり、チャレンジしています。

3.一人ひとりの考えを生かし、任せる学校運営
 その改善を支えているのは、①組織の目標が、共有されているだけでなく、その策定に全員が参加し、個々の思いが反映されたものになっていること、②その目標に向かうプロセスは組織によって統制されているのではなく、個別のやり方や判断は教員一人一人に任されていることの2点です。つまり、「自分の考えが反映され、任されている」と教員自身が感じられる学校運営になっていることが大切であるといえます。

4.心理的安全性のある「日常の対話」が学びの場
 また、上述した通り、一人ひとりの考えを活かし、任せる組織のもとで、各教員は仕事の意味を問い直しながら、柔軟に新たなチャレンジをしています。これらが同時に学びにつながるのは、心理的安全性のもと、忌憚のない意見を本音で言い合えるからこそ、その対話から有益なフィードバックが得られるからだと考えられます。結果として、管理職や同僚との日常の対話の中で学べていると考えられます。

以上、2回にわたって、「学校づくり調査」の結果をもとに、教員の「働き方の改善」と「学びの充実」の両立について、その実態、両立のポイントについてみてきました。
次回以降は、学校の具体事例や横浜市の取組を交えて、教員の「働き方の改善」と「学びの充実」の両立について、考えてみたいと思います。

第1回:なぜ、「働き方の改善」と「学びの充実」の両立が重要なのか?
第2回:両立を実現するためのポイントとは?(この記事)
第3回:両立を実現するためのポイントを学校に聞いてみました
第4回:横浜市の取組について聞いてみました

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