教育フォーカス

【特集32】
帝京大学町支研究室・横浜市教育委員会・ベネッセ教育総合研究所
共同研究:「働き方の改善」と「学びの充実」を両立できる学校づくりを目指して

第4回:横浜市の取組について聞いてみました

帝京大学町支研究室・横浜市教育委員会・ベネッセ教育総合研究所は、共同で「教職員の『働き方の改善』と『学びの充実』を両立できる学校づくり」(以下、本調査)をテーマに調査・研究を実施し、その内容をこれまで3回にわたって紹介してきました。
第1回は、「働き方の改善」と「学びの充実」の両立が重要であること、第2回は、両立するための個人と組織の在り方について論じ、第3回は、日々新しいチャレンジをされている学校の校長及び先生方に、「働き方の改善」と「学びの充実」の両立を目指して、具体的にどのような工夫をしているのかを伺いました。
第4回の本記事では、横浜市教育委員会(以下、市教委)で施策立案や学校支援に取り組む方々に、「働き方の改善」と「学びの充実」の両立に向けた具体的な取組、実施にあたっての考えや想いなどについて伺い、持続可能な学校について一緒に考えていきます。

  • ●お話を聞いた横浜市教育委員会の方々
  • 総務部 教育政策推進課(以下、政策課) 佐藤悠樹課長、河瀬靖英主任指導主事、西戸達哉係長
  • 教職員人事部 教職員育成課(以下、育成課) 小原健人課長、柳澤尚利首席指導主事、鈴木紀知主任指導主事
  • 教職員人事部 教職員労務課(以下、労務課) 大木靖博課長、鈴木智久係長
  • ●聞き手 帝京大学大学院教職研究科教職実践専攻 講師:町支大祐氏

横浜市の施策の全体像について

町支:今回のプロジェクトの背景にある問題意識は、子どもの学びの充実のために、教職員の働き方の改善と学びの充実をどうやって両立させていくのか、という点にあります。今回は市教委の方々に働き方の改善、学びの充実、及びその両立に向けての施策や、本調査の結果を見ての感想等について伺っていきます。

佐藤:これまで3課で様々に連携して取り組んできました。ただ実態としては着実な進捗を見せる一方で、道半ばの状況でもあり、我々も非常に悩みながら進めています。最初に全体的な話からいたします。
本市では、2018年に「横浜教育ビジョン2030」を策定し、横浜の教育が目指す人づくりとして「自ら学び 社会とつながり ともに未来を創る人」を掲げました。そして、その実現に向けたアクションプランとして、「横浜市教育振興基本計画」を策定しています。「第4期横浜市教育振興基本計画」(以下、第4期計画)では、「一人ひとりを大切に」「みんなの計画、みんなで実現」「経験・勘×データ EBPM(Evidence Based Policy Making:エビデンスに基づく政策形成)の推進」の3つの視点に基づき各種の施策を盛り込んでいます。本調査のテーマは、その中の「柱6:いきいきと働き、学び続ける教職員」に該当します。(第4期計画へのリンク)

横浜市ではこれまで2018年に策定した「横浜市立学校 教職員の働き方改革プラン」に掲げた4つの戦略、それに基づいた、40の取組を総合的に推進してきました。4つの戦略とは、「戦略1:業務改善」「戦略2:業務の適正化・精選等」「戦略3:体制強化等」「戦略4:意識改革等」です(図1)。

(図1)働き方改革の取組
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例えば、クラウドサービスを活用した資料共有・授業準備などのICTを活用した業務改善、プール清掃などの業務の外部委託、そして、職員室業務アシスタントや部活動指導員、ICT 支援員などの専門スタッフの配置や、大学と連携した働き方改革の視点を盛り込んだ管理職研修など、あらゆる手を打ってきました。そうしたいわば「総力戦」をやってきた結果、時間外在校等時間が月80時間超の教職員の割合は年々着実に減少しています。しかし、残念ながらプランで掲げた目標達成までは道半ばという状況です。
今回、第4期計画の策定に際して、働き方改革の目的を根本から捉え直すところから始めました。というのは「働き方改革」と「資質・能力の向上」の両立について、現場の先生方が大きなジレンマを抱えている状況が伝わってきていたからです(図2)。

(図2)働き方改革のジレンマイメージ
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業務を効率化して働き方の改善を図る必要がある一方で、新型コロナウイルス感染症対策やGIGAスクール構想によるICTの本格運用などによって新たな業務が加わり、求められることは増え続けています。本調査結果にもありましたが、教員自身の資質・能力の向上が求められ、学ぼうとすると時間がかかる傾向にあり、先生方はそれらの板挟みになっています。
そして、学校からは「働き方改革で、数値ばかりを追わないでほしい、何のためにやっているかわからなくなる」という声や「とはいっても、長時間労働を厭わない、それでいてやりがいに溢れる先生が現場を支えている実態があるんだ」という声も多くありました。現場からもいろいろとお話を伺いながら整理をしてみたのが図3です。B象限の「やりがいはあるけど、長時間働いている」先生の存在が現実にあり、その方々が学校を支えている実態があることも認識しています。

(図3)働き方改革と仕事のやりがい

そこで、それらを踏まえて、働き方改革の目的「何のために」について、改めて根本的な議論をすることから始めました。そして、最上位概念は「子どものため」であることを確認した上で、以下を第4期計画に明記したのです。
 ◆子どもたち一人ひとりを丁寧に見とった上で、それぞれの資質・能力を育成するためには、教職員の資質・能力を向上させる必要があり、そのために働き方改革が大きな役割を果たす
 ◆子どもたちの前に元気に笑顔で立ち、一人ひとりと向き合うために、ワーク・ライフ・バランスを整え、教職員自身が健康であることが必要
そして、教職員集団全体の持続可能性、教職員本人の中長期的な心身の健康、「教職」をより一層魅力的な職業とする観点から、
 ◆献身的な教員像に依存しない改革の必要性、すなわちBからA象限への改善を例外なく促していくこと
また、計画内の柱の建て付けについても、第3期横浜市教育振興基本計画では「働き方改革」と「学び続ける教職員」の2つが別々の柱でしたが、第4期計画では政策体系上も1本の柱にまとめ、「いきいきと働き、学び続ける教職員」とし、政策課・育成課・労務課の3課を中心とした関係課室が連携して取り組むことが対外的にもわかる形としました。

担当が違う3課が連携する

町支:3課で連携とのことですが、まず3課のそれぞれの役割について伺えますか。

小原:育成課は、教職員の研修を所管しています。初任からのステージに応じた研修、働き方の研修、及び教育課題として、例えばICTのコーディネーター養成研修なども担当しています。

大木:労務課は、教職員の勤務条件、職員団体の窓口、給与の支給のほか、健康管理も当課の所管になります。

佐藤:政策課は、具体的な施策や事業を持つというよりは、事務局全体の取りまとめや文字通り政策の推進機能を持つ課です。したがって働き方改革についても全体の取りまとめという役割です。他にも第4期計画など政策全体の取りまとめ、教育DX等の推進等を担っています。

町支:そうしますと、労務管理中心の課(労務課)と学び中心の課(育成課)があり、それを政策課が取りまとめているということですね。3課での連携はどういうところから始められたのですか?

佐藤:一番初めは、お互いの課が何をやっているのかから共有しました。

大木:第4期計画に向けて、教職員の「働き方」と「学び」を1本にしようとしたことは画期的だったと思います。3課で最終目標を決めて、うまく融合しながら、進めていくことでこれまで以上に教職員がいきいきと働いていけるよう、各課の抱えている課題や想いをざっくばらんに共有することから始めました。

町支:おそらく様々な難しさがあって、連携するといっても一筋縄ではいかなかったのではないかと思いますが。

佐藤:どうやって連携するか、本当に手探りでした。労務課は行政職員が中心。政策課は行政職員と学校籍の指導主事が在籍。育成課は学校籍の指導主事が中心。組織ごとに出自の違いもありました。

小原:行政側も学校籍も、それぞれの視点をお互いに大切にしないといけないなと思っていて、政策課にうまくつないでもらいました。育成課は教職員出身の指導主事が中心なので、まずは、教職員の学びを子どもたちのために生かすことを考えます。労務課は教職員の健康ということが第一ですね。

大木:風土も違います。労務課は、労働関係の法令を常に意識しています。その根拠に対して現在の運用やこれからの目指すところが間違っていないか、厳しく見ていく必要があります。そうすると、どうしても教育委員会規則の時間外在校等時間の上限の数字にとらわれざるをえない。。ただ、それを現場の方にどう伝えたらいいか、この3課の中でも頭を悩ませました。

町支:まとめる立場ではどのようなご苦労がありますか。

河瀬:先生方の健康を守るということを、現場に納得してもらうにはどう伝えるか。私も学校籍なので、とても悩みます。いろいろなハレーションがありますが、理解していただく必要がある。議論した内容の多くは、そのようなことでした。

町支:そうした、出自や風土、役割の違いは大きいかもしれませんね。そもそも問題意識として語ってきたように、学校には、働き方と学びのジレンマがある。行政にも同じような構造があって、そのそれぞれを担う部門間でジレンマがあるわけですね。
少し話題はズレますが、働き方改革の件で学校に行くと、行政への期待や不満も聞こえてきます。「縦割りで難しいとか言ってないで、現場のためになんとかしてください」といった声ですね。
しかし、現実問題として、これまで関わりがなかった課同士が関わるには様々な難しさがあるだろうと思います。きれいごと抜きに、その事実や難しさは認識して、それをいかに乗り越えるかをちゃんと考えた方が、物事が進むのだろうと思います。
働き方の問題は、社会総がかりで取り組むことであり、学校と行政との連携は、間違いなく必要です。その時に、行政が抱える現実的な難しさが理解されないままだと、学校が行政に「べき論」を一方的に求めて、学校と行政の距離感がむしろ広がってしまう。それはお互いにとって不幸であり、問題解決から遠ざかりかねません。ですから、この3課が難しさを乗り越えて、学校や教職員の今とこれからに向けて奮闘している姿が学校現場に伝わることが大事ではないかと思います。
そういった意味で、どのように取り組んできたのかについて振り返ってみていただき、まだご苦労はされているとは思いますが、それでも協力が少しずつ進み始めたきっかけというのはあるのですか。

佐藤:最も重要だったのが「働き方改革と学びの両立という政策課題は、みんなのものですよ」という共通認識の中で、他の部署を巻き込んでいくプロセスだったかなと思います。市教委の中でも、特に学校籍の中には働き方改革に懐疑的な方もいました。でも、その時は法規や労務の論点、さらには今がいかに危機的な状況なのかについて粘り強く対話を重ねてきました。その際、実際のデータという客観的な根拠を見ながら議論を重ねたことは効果的でした。

大木:校長会で、各区校種別の時間外在校等時間の月ごとの一覧を配付、共有することを始めています。様々な反響がありますが、校長に安全配慮義務を意識していただく機会であるとともに、学校での実践を開示していく必要があることをご理解いただきたいと思っています。ただ、労務課から数字だけを示すだけでは学校の理解は得られにくいので、こういった形で3課が様々な角度から伝えていくことに意味があると思っています。学校教育事務所にも協力してもらっています。

町支:どういうところに抵抗感があるとお考えでしょうか。

大木:学校それぞれの事情がある中で数字を一律に比較されることに抵抗があるのではと感じています。同じことをしても行政職の多い事務局と学校では、受け取り方が異なるということが多くあります。時間外の勤務が多い学校を糾弾することが目的ではなく、それをきっかけに各学校での取組や悩みを共有し議論することで取組を進めていくきっかけとして捉えていただければと思っています。そういったプロセスの途中にあると考えています。

小原:育成課は教職員の資質・能力の向上を担ってきました。しかし、学ぼうとすると時間がかかるというジレンマに直面しているわけですよね。なんとかして時間を確保できなければ、資質・能力の向上を実現することは難しいと思っています。ですから、我々にとっても労務課との連携やそこを取りまとめてくださる政策課との連携は欠かせないわけです。

佐藤:このような話を3課ミーティングで継続的に重ねてきました。労務課はデータを用いて言いづらいことを言うある意味損な役回り。それだけではうまくいかないので、育成課の支援もいただきながら、また「何のため」というところを重ねて議論してきたイメージです。

自主性を大切にする教育行政とその鍵

町支:他に、特徴的な施策などはありますか?

佐藤:横浜市では、「質の高い学びと持続可能な学校の実現」を推進していますが、その中で、40分午前中5コマという実践(※1)をはじめとする日課表の工夫を後押ししています。各校における取組が報道されたこともあり、市内で様々な挑戦が見られるようになってきています。

※1「持続可能なあり方を探る公募型モデル事業」の一例。本事業のモデル校の中には、授業時間を1コマ40分間として、午前中に5コマを実施し、下校を14時30分とする取組を実践している小学校がある。モデル校の教員アンケートでは、「勤務時間内に自分の裁量ある時間が増えた」は72.9%、「生徒の集中力に高まりを感じた」は63.6%と肯定的な回答を得られている。モデル校は2021年度は14校、2022年度は20校。

町支:この施策では、放課後の時間が生み出されるのはもちろんのこと、1コマの時間を変えることで、単元や各授業で何を目指すのか、重要ポイントを捉え直す機会になり、先生方の学びにもつながると聞いたことがあります。本調査の結果でも、「意味を問い直し」しながら変えていくことが重要と出ており、それとも合致するように思います。

佐藤:そうですね。さらにこの取組を後押しする意味で「予備時数は必要最低限でいい」ということを明記した通知を市教委として出しました。市として明言したことの反響は予想以上に大きく、「助かった」というお声を多数いただきました。

町支:この点については文科省からも発信はありましたが、なかなか変化が起きていない自治体も多いと思います。横浜市は改めてそうした発信をして具体化につなげたのですね。他にも、教師の学びに関する答申などが出る中で、セルフマネジメント(※後述)を打ち出したり、かつては若手育成についてもメンターチームを始めたりするなど、いち早く具体化を進めてきた様子がうかがえます。こういった、市教委として主体的に政策を打ち出していく姿勢があるように思います。そうしたことを構想したり、実現したりする時の鍵はどのあたりにあるのでしょうか。

河瀬:そうですね。日課表等を変えるには、保護者や地域の理解が必要になります。その際に、市の施策であることが大きな後押しとなります。学校と市教委、行政職、指導主事、みんなで、学校現場をどう支援するのがベストなのかを常に考えています。現場が第一で、現場がやりたいことを大事にしていくのが風土としてあることが大きいです。

佐藤:先ほどの「40分午前中5コマ」も、市の全体施策とした方がよいという意見もありましたが、今はあえてそうしていません。モデル校では、45分で日課表を工夫している学校や他にもいい実践をしている学校があります。そして何より大切なのは、教育課程編成はあくまで校長の裁量・権限で行うものだという大原則です。それを尊重して学校に任せつつ、市教委としては、良い実践が多数生まれ得る確率を高める施策を意識的に打つこと、そして良い取組はどんどん伸ばしていくための応援をする。一方で困難を抱えている現場には具体的な形で手を差し伸べる。こういったメリハリが大事です。

町支:市としての動きの背景には、学校現場の自主性を大切にするという考えがあるわけですね。それでいて、自主性を重視しながら、しっかり支援もしていきたい、と。現場のやりたいことをつかんで後押しをするためには、その「つかむ」が大事になりますよね。どういう形で行っていますか?

河瀬:教育課程編成の工夫などの事例を紹介する情報交換会を実施しています。モデル校は自分たちの実践をプレゼンする、取り組んでいない学校は聞きたい学校の実践を聞いて持って帰ってもらう、というスタイルです。実践を広げる場でもあり、我々が現場の先生の不安や悩みを聞ける重要な場でもあります。

佐藤:情報交換会は良かったです。各校の取組について興味はあるが、今はまだ自校では実践できない、という学校も多く参加します。そうやって2年越しで実現させた学校もあります。また、主催は市教委ですが、市教委からの発信はほぼなく、主役はモデル校一校一校の実践です。意見交換も参加した現場の方々同士のやりとりに委ねるというスタイルも、新しかったようですが好評でした。

河瀬:モデル校が増えているだけでなく、情報交換会の参加者も2021年度の28人から2022年度は108人と増えました。「持続可能な学校にしていきたい」という学校現場の温度が少しずつ高まっていると感じています。

佐藤:校長会や研究会との意見交換が重要です。やりたいことやご意見、もちろん建設的なご批判もいただきます。実際に保護者に「学校によって教育課程は違います。ご理解ください」といった趣旨の文書を出したのも、校長会からの依頼を受けてでした。

町支:あくまで、押し付けではなく各学校の自主性を大切に、状況にあった施策を支援する。そのために校長会や情報交換会でのやりとりなどから実情をつかみ、後押しするということですね。そうした中で広がりつつあるのが、教育課程編成を変えるなどの両立につながる動き、ということだと理解しました。

本調査結果との関連1:大人の個別最適な学び

町支:ここから本調査結果に関しても伺いたいと思います。まず1つは、教員も個別最適に学ぶことについてです。

小原:働き方の改善という視点で考えると、教職員の学び方も、個別最適にするべきと考えています。集合研修だけでなく、オンラインやハイブリッドを選べるようにするなど、研修効果を考えつつ、この2年コロナ禍の中で変えてきました。
もう1つは、セルフマネジメントの取組です。「人材育成シート」を活用し、教職員本人が研修計画を立て、管理職との期首・期末面談や、日々指導、助言を得るようにしています。教職員研修管理システム「leaf」を活用して、資質・能力について自己認識を可視化し、目標を持って学び続けることができるように支援しています。

町支:なるほどと思います。一方で、「校内での個別最適な学び」を考えると、これまで大切に積み上げてきた校内研究の形を揺るがすことになるのでは?とも見えます。研修も個別最適な学びを促すとなると、見方によってはそうした揺さぶりにつながるかもしれませんが、その点はいかがでしょうか。

小原:セルフマネジメントの中でもう1つ大事な視点として、教職員は学校で育つという点です。その意味でも、校内研究は大切な学びです。各人がどういう力を身につけたいかを意識しているかどうかで「学び」は大きく変わってきます。学校でやっていることだからやらなきゃいけないということではなく、自分で目的意識を持てているかどうかが大切ですし、そこに学びのセルフマネジメントという視点が関わってきます。

河瀬:子どもたちの成果の出ている校内研究は、先生の学びにもなりますが、時間や労力がかかりすぎるという課題意識もあがってきています。また、これまで通りに研究することが目的となり形骸化してしまっているというケースも見受けられます。年齢構成も変わる中、今の教職員と一緒にそもそもの目的に立ち返って、研究の在り方も改めて考えることが必要になってきていると思います。

町支:本調査の結果からも、仕事の捉え直しが重要だと出ていました。授業をもとにみんなで学びあうことはとても重要です。その在り方をどうしていくのか、校内研究についても捉え直していく必要性が生じているということですね。

本調査結果との関連2:信じて任せる学校運営

町支:もう1つ結果で大事なのが、両立している学校のマネジメントの在り方として、一人ひとりの考えを生かし、任せる学校運営であることが両立の鍵と出ていますが、この点についてどう思われますか。

佐藤:教職員に任せることや、その前提として心理的安全性と対話が重要という分析は、本当にそうだと思いました。一方で、マネジメントのスタイルは極めて多様です。強力なリーダータイプもいれば、サーバントリーダーシップタイプで、校長自身が前に出なくても学校がまわるような組織づくりをされている方もいます。本調査から分析された4点は「できていればいいこと」で、それをどう実現するかは、校長のマネジメント、リーダースタイルの在り方次第かと思います。

そして、そのスタイルを見つけてもらうというのが、町支先生にもご協力をいただいている、新たに2年目校長全員を対象として導入した管理職研修です。サーベイフィードバック型(※2)で、ご自身の目の前の環境が何を求めているのかを吟味しながら、1年かけて学校づくりをした上で、自分のマネジメントについて考える機会です。これまでは選択でしたが全員必須にしたのは、横浜市の校長全員にこのプロセスを経験してもらい、その経験を通じて、お一人お一人のそれぞれのマネジメントスタイルを考えてもらいたいという意図があります。これまでこの研修を進めてきた育成課と丁寧に相談をしながら打ち出していきました。

※2 ここでいうサーベイフィードバックとは、校内で働き方についての調査を行い、その結果に基づいて全教職員で対話を行い、働き方改革を進めること。横浜市では、校長が校内でサーベイフィードバックを進めることの後押しや、その取組を振り返ってマネジメントについて考えるという研修を行っている。横浜市教育委員会と立教大学中原研究室との共同開発。

町支:改めて考えると、「校内での校長と教職員との関係」と「市内での教委と校長の関係」は似ています。学校がやるべきことをがんじがらめに指示されていたら、校長はその実現に向けて教職員に無理を強いることになるかもしれない。目指したいのはその逆ですよね。本調査結果の「一人ひとりを信じて任せる。そして個を生かしながら」というのは学校内の話だけじゃなくて、市教委と校長の関係においても、それぞれの校長の個性を生かすことに通じますね。そして、その個に応じたスタイルをどうやってつかんでいくか、そのためのきっかけとして、研修があるということですね。

小原:マネジメントスタイルを確立するには、校長を一人にしないようにすることがとても大事です。私たちは様々なステージで、主幹、副校長、教務主任、それぞれの方がマネジメントを学べるようにしています。初任の先生にも学級経営のマネジメントが必要です。それぞれのステージにおけるマネジメントを丁寧に学ぶ。プレイヤーからマネジャーにと徐々に視野を広げていく必要があります。

町支:キャリアの初期から、少しずつマネジメントを意識していくということですね。それは校内でもマネジメントに関心を持つということであり、校長を一人にしないことにもつながりますね。

最後のメッセージ

町支:最後に学校へのメッセージ、学校とともに、どうしていきたいか、というのをお聞かせいただければと思います。

大木:校長は実は大きな裁量と権限を持っていると思います。その裁量を生かしていくことで、成果につなげられる可能性は大きいと思います。学校によって様々な事情があるとは思いますが、変化を前向きに捉えていただけるとありがたいですね。

町支:今回、私自身も労務課の方と初めて話す機会を得ました。労務課は、守らなければいけないルールがあり、それを守るように伝えなければならない立場だと思いますが、ダメとだけ言いたいわけではなくて、学校のことを一緒に考えてくださっている方々だということを感じました。学校現場の皆さんにもそうしたことが伝わるといいなと思います。

佐藤:一人ひとりの子どもの学びを高めるのは先生であり、学校だというのが厳然とあります。不十分かもしれないですが、市教委としてできるだけの支援策や支援体制を用意しています。もちろん汗もかきます。ですので、なんとかそれらを上手に使ってほしいと思っています。それから、ある勉強会で、教諭の方から「市教委の人にもこんなに話が通じるんだ」と言われました。現場と行政が対立構造にあるように、本当に思われている。でも、そうじゃないのです。我々は敵ではなく「子どもたちのために」という共通の目標に向かってもがき苦しんでいる仲間ですよと伝えたいです。

小原:働き方と学びを一緒に考えるという方針にしたことが一番大事なことと思っています。オール横浜、教育委員会事務局全体で、働き方の改善に取り組み、教職員の資質・能力の向上にも取り組んで、子どもたちの幸せや資質・能力の向上に向けて一緒にやっていきたいです。

町支:ありがとうございました。「働き方の改善」と「学びの充実」を両立するためには、本調査結果で出てきたようなポイントが大事だと思いますが、そのために市教委としても各学校の自主性を生かし、声に耳を傾けながら、現場の後押しに向けて取り組まれている様子がうかがえました。本日は誠にありがとうございました。

第1回:なぜ、「働き方の改善」と「学びの充実」の両立が重要なのか?
第2回:両立を実現するためのポイントとは?
第3回:両立を実現するためのポイントを学校に聞いてみました
第4回:横浜市の取組について聞いてみました(この記事)

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