教育フォーカス

【特集34】外国につながる子どもの支援の充実に向けた日本語学習と教科学習

第3回 実践の場から日本語指導と教科指導を考える②
認定NPO法人多文化共生教育ネットワークかながわ(ME-net)

第2回では、常総市立水海道中学校夜間教室での実践を中心に、学校現場での指導・支援についてお伝えしました。第3回は、学校外で外国につながる子どもへの支援を行う認定NPO法人多文化共生教育ネットワークかながわ(以下、ME-net)の実践から、日本語指導と教科指導について考えます。
ME-netは、神奈川県内の外国につながる中学生や高校生を対象として、日本語学習や教科学習、高校進学情報の提供などの支援を展開しています。具体的にどのような支援を行っているのか、支援を行う上での課題は何か、武一美理事長にお話をうかがいました。

認定NPO法人多文化共生教育ネットワークかながわ 理事長

武一美

高校進学情報の提供を出発点として、県内で多様な支援を展開

―最初に、ME-netの活動内容を教えてください。

 ME-netでは、外国につながる子どもの教育を支援し、共に生きる社会の実現を目指しています。活動内容は、日本語を母語としない受験生を対象とした高校進学ガイダンスや、神奈川県内3か所(川崎、相模原、愛川)での学習支援教室、高校進学を希望する人のためのフリースクールの運営、神奈川県内31校への多文化教育コーディネーターの派遣、教育相談など、多岐にわたります。

―どのような経緯で設立されたのでしょうか。

 1990年代、神奈川県では外国につながる子どもが増加していましたが、高校進学を希望しても、情報不足が原因で諦めざるを得ない子どもが多くいました。その状況に問題意識を抱いた学校教員や地域の支援者が1995年に1回目の高校進学ガイダンスを実施したことが、のちにME-netへとつながりました。

その後、ガイダンスは、神奈川県教育委員会(以下、県教委)の協賛を得て継続して実施し、次第に高校に入学する子どもは増えていきました。しかし、今度は中退者が続出するという問題に直面しました。そこでME-netでは、神奈川県内の複数の高校にコーディネーターとして地域の支援者などを派遣し、教員と一緒に子ども一人ひとりに必要な支援を検討して手配するといったサポートを県教委との協働で始めました。さらに、子どもが困難を乗り越えられるように、学習支援教室やフリースクールなど、様々な形で日本語や教科の学習などをサポートする活動を広げてきました。

―学習支援教室の活動内容を教えてください。

 学習支援教室は、県内に3か所あります。それぞれ活動内容は異なりますが、高校生を中心に、一部は中学生を含めて外国につながる子どもをサポートしています。私が主にかかわる川崎教室は、2020年度に県教委の委託により開設しました。県立高校の教室を借りて、毎週土曜日の午前と午後の2回、日本語学習や教科学習をサポートしています。参加生徒は川崎市周辺の4校を中心に31校の高校から集まり、30~40人程度が在籍しています。高校入試で外国人等の特別募集枠で合格した生徒などには、高校入学前のプレスクールへの参加を呼びかけています。プレスクールでは、日本語の習得段階の把握や学習支援のほか、先輩から高校生活の体験談を聞ける場を設けるなど、希望を持って高校に入学できるようにサポートしています。

本人の希望を聞きながら、子ども一人一人にあわせた支援を検討

―学習支援教室では、具体的にどのような支援をされていますか。

 最初に日本語の習得段階を把握した後、高校1年生では日本語の習得段階ごとのグループに分けて日本語学習を進めます。高校2年生になると、日本語学習と並行して、教科学習の支援も行います。高校3年生は進学に対応した教科学習が中心となり、必要に応じて日本語能力試験の対策なども行います。

日本語学習も教科学習も、個別の相談を通して本人の希望を聞いて、支援内容を検討しています。高校卒業後も自分で学んでいけるよう、私たちがすべての学習内容を決めるのではなく、生徒自身が「今の自分には何が足りず、何を勉強するべきか」を考えられるように支えたいと考えています。

―外国につながる子どもは、日本語や教科の学習を進める上で、どのようなことに難しさを感じているのでしょうか。

 本当に人それぞれです。例えば、中学生や高校生の年代で来日した子どもは、ある程度、母国の学校で学習しており、日本語の力がついてくるとスムーズに教科学習に移行できる場合があります。難しいのは、日本語が分からないだけではなく、教科学習も置き去りになっているケースです。小学校低学年で来日した場合、まずは日本語を学びますが、日本語がほとんど分からない時期には、授業を受けても学習内容を理解できません。その時に学ぶはずだった概念が身についていなかったということが起こり得ます。その後、学び直しの機会がなければ、小学校で学ぶはずだった概念が身についていないままとなり、日本語が上達しても、高校の教科学習が理解できないということがあります。

母語とは異なる言語で学び続けるのは、本当に大変です。とても頑張って大学院に進学したある若者は、「中学時代の学習についての記憶がほとんどない」と話していました。周囲からは順調にステップアップしているように見えましたが、とても大きな負担を強いられていたのだと思います。

―高校入学までにどのような支援を受けてきたかによって、子どもの状況や課題は異なるのでしょうか。

 外国につながる子どもが中学生までに受ける支援は、地域や学校によって様々です。外国につながる子どもが多い地域では、国際教室などの支援があるケースが大半ですが、学校に1人だけといった場合、日本語の初期指導を受けた後はほとんどサポートを受けていないこともあります。どの地域や学校で過ごしてきたか、そしてそこに熱心に指導・支援をする先生がいたかによって、子どもの状況や課題は大きく異なります。

中には、中学校までの支援体制が整っていても、学ぶ意欲を持てない子もいます。保護者の都合で来日したことを機に心を閉ざしてしまうようなケースです。ただ、そうした子が、ある時に「このままではいけない」と気づいて本気で学び始める姿を何度も見てきました。私たちは、子どもが気づいた時にしっかり受け入れて、学びの場を提供できる場であり続けたいと考えています。

教科の概念にかかわる指導は、教員との連携が必要

―学習支援教室では、どのような方が支援を担当されているのでしょうか。

 日本語学習の支援は、日本語学校や大学で日本語を教えている方が担当しています。教科学習の支援は、大学生や社会人のスタッフが担当しています。現在、川崎教室では2校の大学と連携しており、学生が交代で来てくれています。学生スタッフには外国につながる人もいて、同年代でおしゃべりをしながら楽しそうに学ぶ姿が見られます。

ただ、教科を支援できるスタッフは不足しており、特に数学や理科などの理系教科を教えられる人材を必要としています。生徒が少しでも理解できるよう工夫していますが、高校生ということもあり、教科指導は専門知識がないと難しいと感じる場面が多々あります。例えば、中学校でこの単元を理解していないため、高校で学ぶこの概念が分からないといったことは、教科の専門知識がないスタッフではなかなか分かりません。

また、学校には、「ここまでは理解させたい」といった到達目標があります。ただ、日本語の力が不足している生徒は、すべての学習内容を学ぶのが現実的に難しいですから、ポイントを絞って指導・支援した方がよいとする場合もあります。そうした判断も、教科の専門知識がなければ難しいものがあります。

―高校の先生方とは連携をされているのでしょうか。

 川崎教室には、外国人等の特別募集枠を設定している高校3校と、外国につながる生徒が多く在籍する定時制高校の先生が輪番で参加されています。先生方とは生徒の情報を共有し、「この進路を目指しているので、そろそろ小論文の指導をしましょう」など、生徒の希望進路に応じた支援を一緒に考えています。生徒の状況や課題は在学中にも変化するので、3年間を通して学校と連携して情報をやり取りすることは非常に大切だと実感しています。

一方で、教科学習に関する連携はほとんどできていない状況です。おそらく各学校では、日本語の力が不足している生徒の教科指導をどのように支えていくか、試行錯誤をされているはずです。そこで、先生方が集まって教科ごとに情報共有や勉強会をできるように、川崎教室が先生をつなげる役割を果たしたいと考えています。ただ、開設後すぐにコロナ禍に見舞われたこともあり、実現には至っていません。

すべての若者が同じスタートラインに立って力を発揮できる社会を

―進学などで学習支援教室を巣立った子どもとの接点はあるのでしょうか。

 大学で困ったことがある場合など、高校卒業後も学習支援教室に助けを求める若者は少なくありません。外国につながる高校生が大学に進学するのは、とてもうまくいったケースといえます。ただ、大学進学はスタートに過ぎません。大学では高校以上に学問の専門性が高くなりますから、教員が話す内容を十分に理解できず、非常に苦労します。ですから、私たちは、高校を卒業したから支援は終わりと捉えず、必要な時にいつでもつながり、サポートする存在でありたいと思っています。

―ME-netが行う活動は、どうすれば全国に広まるとお考えになりますか。

 神奈川県では、県教委が中心に動いていることが、外国につながる中学生や高校生の支援の充実につながっています。高校進学ガイダンスには県教委の担当者が参加して相談ブースを設けていますし、ME-netの様々な活動も、県教委との連携によって高校が積極的に動いてくれることでうまくいっている面があります。中学生や高校生への支援を充実させるためには、いかに都道府県教委と連携するかがポイントになると思います。

―最後に、様々な活動を通してどのような社会の実現を目指しているのかお聞かせください。

 外国につながる子どもたちは、様々な困難や苦労を強いられています。それは本人の問題ではなく、社会の側に不備があり、そのしわ寄せが子どもに及んでいるのです。私たちの活動は、そうした社会の不備を少しでも補えるよう行っています。今後、国や自治体によって体制が整備され、すべての若者が不自由を感じることなく、同じスタートラインに立ち、それぞれの力を発揮して活躍できる社会が実現することを、私たちは願っています。

―本日は、ありがとうございました。

第4回は、第1回の課題整理、第2回、第3回の実践者への取材をうけてのまとめとなります。

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