教育フォーカス

【特集36】ベネッセ教育総合研究所 子育て支援ウェビナー 働く母親の「子育て肯定感」を高めるには

ベネッセ教育総合研究所の調査結果では、母親の子育てへの否定的感情が増加しており、特に近年、働く母親の育児負担感や不安感が増えている。
今回は、「働く母親」に焦点を当て、働く母親ご自身と、母親を取り巻くパートナー(父親や地域など)と共に、子育てをポジティブに捉えられるようにするためにはどうすればよいかをディスカッションした。

ウェビナー概要

  • 主催  ベネッセ教育総合研究所
  • 日時  2023年5月6日(土)13:30~15:30​
  • 形態  ウェビナー(ZOOM)での開催
  • 参加者 子育て支援に関わる方、保護者、行政関係者、企業の方など 約100名

当日プログラム

13:30~14:00
●基調報告
「母親の子育て否定感増加の実態と課題」   動画(YOUTUBE)はこちら
ベネッセ教育総合研究所 研究員 野﨑友花  当日の発表資料はこちら​
幼児の生活アンケート ダイジェスト版
幼児の生活アンケート レポート

14:00~15:30
●パネルディスカッション​
「働く母親の子育て肯定感をどう高めるか」  動画(YOUTUBE)はこちら

  • 佐伯早織氏 当日は発表用資料はこちら
  • 京都大学大学院修了後、法人営業や新規事業開発のコンサルティング等に従事した後に独立。現在は、1歳児のお子様の 育児をしながら、ライフイベントと仕事に悩む人向けのコーチングに従事。​
  • 渡邊大地氏 当日は発表用資料はこちら
  • 株式会社アイナロハ代表取締役。自身の父親としての産後の経験等から、2011年に株式会社アイナロハを設立。2012年より「産後サポート“ままのわ”」事業を開始。子育て関連の講演や、著書も多数。
  • 松田妙子氏 当日は発表用資料はこちら
  • 特定非営利活動法人せたがや子育てネット代表理事。NPO法人子育てひろば全国連絡協議会理事。2001年に子育て支援グループ「amigo」を立ち上げ、産前産後の母子のケアを中心とした支援を世田谷区内で展開。現在、子育て支援者の養成や地域のネットワーク化に関わる子育て支援コーディネーターとして活躍。

当日サマリー

第一部(基調報告) 「母親の子育て否定感増加の実態と課題」

■報告者:ベネッセ教育総合研究所 野﨑友花
ベネッセ教育総合研究所で実施した「幼児の生活アンケート」の調査結果をもとに、
近年の母親の子育て意識と行動の変化を確認し、第二部のパネルディスカッションにつながる課題を整理した。

  • ■ポイント
  • 1.子育てへの肯定的感情は減り、否定的感情が増えている。
    特に、働く母親の育児負担感や不安感が増えている。​
  • 2.平日の子育て分担・家事分担は、共働き世帯でも母親分担は多い。
    父親が悩みを聞いてくれる家庭は、母親の否定的感情は軽減。
  • 3.母親の「友人・知人」「祖父母」から教育やしつけの情報を得ることが減っている。
    /SNS中心に子育て情報を収集している。/母親が家を空けるとき、子どもの面倒を見てくれる人・機関が減少。

第二部(パネルディスカッション) 「働く母親の子育て肯定感をどう高めるか」

■登壇者:佐伯早織氏/渡邊大地氏/松田妙子氏
■ファシリテーター:持田聖子(ベネッセ教育総合研究所)

前半:3名の登壇者がそれぞれの立場から、働く母親の子育て否定感増加の課題に言及

佐伯早織氏:仕事も子育てもそれぞれ100%の人と自分を比較してしまう
仕事を持ちながら、小さな子どもを育てる当事者として、ご経験を交えながらお話しをいただいた。ポイントは以下の4点。

  • 1 否定感を感じる要因:家で子どもと2人きりになる閉塞感。ネット・SNSは、子育ての良い部分の一面だけ切り取られて見えるため、自身の子育てを比較して落ち込む
  • 2 肯定感を感じる要因:外で他のご家族や地域の方と交流することで、子どものことを他の人からほめてもらえる
  • 3 仕事と子育ての両立:仕事も子育ても、それぞれ100%の人と自分を比較してしまい、自分への不足感を感じてしまう。
  • 4 自己肯定感を高めるヒント:自分なりのバランスを見つけること。自分ひとりで背負わず、時にはこだわりを捨てる寛容さも大事。同じ悩みをもつ子育て仲間や先輩とリアルな場でコミュニケーションすること。

渡邊大地氏:妻の家事時間が減っても子育ての「責任感」は減らない
母親のパートナーである父親の立場から、否定感の背景や、解決に向けた糸口をお話しいただいた。ポイントは以下4点。

  • 1 茨城県のある学校では、高1生の約6割が共働きを希望(女子7割台、男子5割台)しており、性別役割分業の意識は根強く残っている。
  • 2 子育て夫婦全体の家事時間は増加。妻の家事時間は減っても責任感は減らない。
  • 3 夫の家事の分担を増やすだけが解決策ではないのでは。
  • 4 父親が悩みを聞く家庭は、母親の否定的感情が軽減。→妻の悩みを聞くこと、夫婦共通の話題でコミュニケーションを図ることが大切

松田妙子氏:「ワーク」と「ライフ」をつなぐコミュニティが必要
子育て経験に加え、長年地域で子育ての支援を実践している立場から、否定感増加の要因と肯定感を高めるための心の持ちようについてお話しいただいた。ポイントは以下4点。

  • 1 今は子育てに悩むごく一部の人だけにスポットがあたっている。すべての親が子育てを安心して行えるよう、予防的に一人ひとりに「ライフジャケット」を配布するような社会が必要。
  • 2 「ワーク」と「ライフ」を支える「コミュニティ」をセットにした「ワークライフコミュニティーバランス」が大事。
  • 3 地域で顔見知りをつくるためには「防災」のように地域で共通のテーマが必要。
  • 4 「ちゃんと・しっかり子育て」の呪いを解く。大人が楽しく、地域に家族を開いていく。

後半:参加者からのご質問への回答も交え、登壇者同士でディスカッション

「父親」が子育てに積極的に変化するカギは「家事育児を全部やってみる」こと
「家事育児は楽しいよ」ではなく、家事育児の真の大変さを父親自身がやってみて実感すると、その大変さがわかる。「母親」は手を出さず、3日間くらい家を空けてみるのもよい。

保育は、保育園と親と共に作っていく場所
保育園が地域とつながっていないところも多くなってきた。保育園に子どもを預けている人の方が孤立している気もする。親は、保育園を単にサービスを受ける場所と思わず、ともに作っていく場所と捉えるべき。小さなトラブルやいざこざは、親同士でつながるチャンス。

園での保護者会活動は、仲間づくりの大切な機会
子どものことや親の声を園の先生に伝えるよい機会。保育園の中の様子もよくわかる。
園の先生は、親だけでなく、こどもたちにも「おとうさんおかあさんがんばっているよ」と伝えてほしい。親は、他の親に「自分の子どもがどんな子か」を知ってもらうと、子どもがいつもと違う様子のときに声をかけてもらえたりし、困った時に助けてもらえるようになる。

SNSを使ったコミュニケーション
SNSは、つながりをつくったり、情報収集のツールとしては便利だが、SNSだけで全てを判断しない。情報源としては活用しつつ、そこからリアルなイベント(オンライン含む)の参加につなげていくとよいのではないか。
また、小学生以上になればSNSの間違った使い方をしてしまうケースもある。親自身がSNSの上手な使い方を子どもに示していくことも大事。

今日からできること 「自分を開くこと」「周りに頼ること」
働く母親として(佐伯早織氏):
開いていくこと。母親自身が「孤独」にならないように周りの人に頼る。いらっとすることもあるが、悩みを分かち合うことが大切。

父親として(渡邊大地氏):
周囲に頼ること。お父さんは人に頼るのが苦手。最初の一歩踏み出すのは大変だが、一歩踏み出してしまえば、大丈夫。

地域での支援者として(松田妙子氏):
自立とは頼ること。子育てはまさにそう。そして、「どうしてそうなんだろう」と原因を考えるのではなく、「どうしたらよいんだろう」を先の解決策を考えるようにすること。

 ページのTOPに戻る