今回の実証研究を、「日本教育工学会第30回全国大会」でポスター発表されていますが、取り上げたポイントについて教えてください。
菊地:実践で得られたデータを元に、協調学習の成果や情報をタブレットに個人所有することが、児童の学力や学習意欲へどのように影響するかを一つの図にまとめました(図1)。もちろんこれは、1つひとつの事例をもとに一側面を示したものですが、従来の紙環境での学力の高低によって、所有意識が高まる過程には複数の道筋があるとしています。
図1. 協調学習で作成された情報や成果をタブレットに個人所有することの
児童の学力や学習意欲への影響
鈴木:この図式では、紙環境での学力が高い児童は、振り返りの際に、自分の言葉で再編集することによって所有意識が高まるとなっていますが、再編集ができなくても情報の所有意識は高まるのではないでしょうか。他の児童の情報を所有しているように見えるだけでも、他の児童の情報を自己のものにしようと努力しているともいえます。
菊地:おっしゃる通りです。学力下位群でも時間はかかりますが、他の児童のアイデアを、自分のアイデアにしようと試みていることが、アンケート結果からわかりました。アンケートでは、学力上位群は「改良、変更したアイデアがありましたか」「整理ができたアイデアがありましたか」という項目のスコアが、1回目の授業後から高かったです。一方、下位群では、1回目の授業後は低いものの、3日後に行った振り返りの授業後は、上位群と同じぐらいのスコアになりました。
久保田:上位群は、高いメタ認知活動を備えているため、活動の変化に対応でき、どんな活動でも情報を整理したり、書き換えたりすることがスムーズにできます。一方、下位群はグループワークと個人ワークの切り替えが上位群ほど上手にできていないのだと思います。限られた時間しかない授業中に、グループと個人の学習の意味や目的の違いを理解させるには、教員が活動を工夫しなければなりません。
菊地:そうですね。そこは教員側の課題です。ただ、椿本弥生准教授(公立はこだて未来大学)が、「寝かせ」が文章推敲などに及ぼす効果について研究されていますが、私たちも論文などを書く際、一度文章を書いてから少し時間を置いた方が、修正がはかどったり、思い切って改編できたりすることがあります。後日振り返りを行うことで、下位群でもメタ認知ができるようになり、知識の定着が促進されたのだと思います。
鈴木:不要な情報を消すということは大切なはずですが、大学で「XingBoard」を使った協働学習を行っても、他の学生の意見を消せないことは多いです。大学生でも自分なりの着地点が見えていないと、情報を取捨選択できません。
舟生:現在の「XingBoard」では、一度書いたものを消したら戻せないというシステム上の制約があります。今後の改訂点として、余白やストックのスペースが必要かもしれません。
菊地:システム面では、自分が大切だと思う点をハイライトできる機能があれば良いのではないでしょうか。また、私たち教員が、子どもたちが学んだことのまとめを自分の言葉で語れるように、授業をデザインしていくことも必要です。
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