教育フォーカス

【特集6】「学んだ情報の個人所有と学力や学習意欲の関係」に関する実証研究

【第4回】座談会 学習者用一人1台情報端末時代への展望
     ~学習内容の所有感に関する研究を振り返って~[3/3]

■ 多様な個を生かすためには、一人1台情報端末が欠かせない

所有感の視点から、一人1台情報端末を授業で活用することの可能性をお話しいただいていますが、政府の方針では、2013年6月に閣議決定された『日本再興戦略』で、「2010年代中に、『一人1台の情報端末』による教育の本格展開に向けた方策を整理し、推進する」とあります。今後、一人1台の情報端末整備に向けて、どのような点が課題になるでしょうか。

理事長 新井 健一

新井:一人1台の情報端末を整備する場合、その効果を示す必要がありますが、機能面の効果だけではなく、育成すべきスキルに対してICTでなければ得られない効果を示すというのはなかなか困難です。今回の議論で、久保田先生から子どもたちの個性に合わせた指導の可能性についてご意見がありましたが、「パーソナライズされた学び」という視点で考えたとき、学習記録データの活用という観点からも、一人1台情報端末を所有することは欠かせないと思います。そこで、課題になるのが、知識・能力・スキル・意識・行動などの多面的なアセスメントですが、現状、このような多様な評価はできていません。欧州では、こうした多様な評価の研究や開発が進んでいますし、PISA2015では、「協調的問題解決能力」が新たな領域として加わり、PISA2018では、「グローバル・コンピテンス」をみる調査の導入を検討しています。多様なスキルの評価方法を開発し、客観的に効果を示せるようにする研究がすすめられています。

久保田:ただ、評価開発だけが先走ると、先生や子どもたちが取り残されてしまいます。現場の先生の声も聞きながら、評価のあり方を考えていく必要があります。

鈴木:今回の実証研究でも、自分の言葉によってアイデアを再編集できた子、操作スキルで学びに貢献した子などがいて、協働学習において様々な貢献の仕方があることがわかりました。いろんな貢献の仕方を評価するためには、子どもたちの発言や動きをしっかりと把握する教員の目が重要です。

菊地:そうですね。教員の個を見とっていく目や見方を向上させることは大切ですし、ICT活用指導力を研修などで向上させることも重要です。また、現場ではLAN環境や機器等のインフラ整備が課題だと感じています。授業中にシステムなどがダウンしていきなり使えなくなるのは困ります。教員も子どもたちも安心してICTを使えるような環境が早急に整備されることを願っています。

最後に、今後のご研究の方向性などについて教えてください。

菊地:タブレットを一人1台用いた協働学習によって、子どもたちの学習意欲が高まる可能性が見出せました。子どもたちからも、タブレットは「宝物」「大切なもの」という声を聞くことができ、大きな手応えを得ました。「協働学習においてICTを活用したいけど、授業での具体的な活用イメージが持てない」という先生に、タブレットや「XingBoard」のようなツールをぜひ取り入れてほしいと思います。私たち、教員の業務も効率化され、授業設計のハードルが下がるはずです。これからもタブレットなどのICTの活用実践を行い、教育現場に広めていきたいです。そうすることが、実証研究に協力してくれた方々や子どもたちへの恩返しになると思います。

舟生:7月に「XingBoard」を App Store に公開しましたが、本日の議論でもさまざまな課題が見えてきました。知的に情報をつくったりシェアしたりするツールとして、更なるバージョンアップを進めていきます。また、ICTを用いた協働学習は、単発の活動で終わってしまいがちなので、長いスパンのなかで学習のポートフォリオを見ることができれば、「学びはみんなでつくるものだ」という学習観や知識観が醸成されていくでしょう。ICT機器をどのように授業内で活用すべきか迷われている先生には、まずご自身が使い楽しんでほしいと思います。自分が楽しむことで、授業内での活用法が見えてくるはずです。

久保田:既に特別支援学級では、タブレットが活用されています。画面の表示を拡大したり、文字のサイズを変更したり、文章読み上げ機能を使ったりするなど、個々の学習状況や困りごとに応じた学習が行われて効果を発揮しています。今後は、通常学級でも、一人1台タブレットが活用され、学びが多様化することを期待したいし、私もそれを後押しできたらうれしいです。

鈴木:これまでの協働学習では、子どもたちが教員に決められたチームで学習を行うことが多かったです。しかし、社会に出たときに必要なのは、「自律的にチームをつくる力」です。問題解決するためには、「A君とBさんとチームを組む必要がある」と子どもたちが自律的にチームを築く経験を積む必要があります。技術的にも理論的にも非常に難しいですが、そうしたスキルを育成するための研究を進めたいと考えています。現在、「XingBoard」は4人1組での作業が基本ですが、参加者が自らチームメンバーを増減できるような機能をつけることを検討中です。

新井:今回の実証研究では、一人1台タブレットを用いたことで、学習プロセスや成果などが可視化でき、情報の所有意識が高まることや、学習意欲の向上につながる可能性が見えてきました。先生方のお力添えがあったからだと思っています。ありがとうございました。

参加者全員

これからもベネッセ教育総合研究所グローバル研究室では、タブレットなどの情報端末を有効に活用し、自分の学習を自らデザインできるような学習者の育成を支援し、21世紀にふさわしい学びの実現につながるような調査研究を続けていきます。本日はありがとうございました。

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  [第4回] 座談会 学習者用一人1台情報端末時代への展望
     ~学習内容の所有感に関する研究を振り返って~