教育フォーカス

【特集9】少子化社会と子育て

[第4回] 少子化社会の課題 未婚化に焦点をあてて
-若者の交際・結婚・子ども観を知る-  [2/3]

2.特別講演 『「産む」×「働く」の授業
-仕事・結婚・出産 女性のためのライフプランニング講座』より

白河桃子先生

白河 桃子●しらかわ とうこ

少子化ジャーナリスト。相模女子大学客員教授。「婚活」「妊活」など、少子化に関するワードを数多く発信。著書に『「産む」と「働く」の教科書』(齊藤英和氏と共著 講談社)、『「婚活」時代』(山田昌弘氏と共著 ディスカヴァー携書)、『格付けしあう女たち』(ポプラ新書)、『専業主婦になりたい女たち』(ポプラ新書)など多数。

少子化対策は、子どもを希望する女性が「産みたい」「産める」と思える環境整備が必要

これまで私は、「婚活」、「妊活」、女性と就労などについて本を書いてきていますが、常に興味の対象は女性です。少子化対策をする上で、女性が産みたいという気持ちになるにはどうすればよいかを考える必要があります。OECDの調査では、女性の労働力率と出生率には正の相関があることがわかっています(図6)。女性の地方からの移動を示すデータや社会学者の研究等からも、女性が産みたい気持ちになるためには、育児と両立でき、続けられる安定した仕事が必要と考えています。

ところが、大学在学中は、出産後も働き続けたいと思っている女子大生が、就職した後、元気がなくなる。それは、自分の母親は専業主婦、社内で働いている女性は、バリバリ働いていてすごすぎて、いずれもモデルにならない、子どもを産んだら男性に負けてしまうのではないかなど、落ち込む要素がたくさんあるからです。でも、働く意味が腑に落ちていない女性も多いのではないかと思います。女性たちに、働き続けることに意味があり、それが結婚、子育てにもつながることを明示すれば元気になれると思っています。

 

図6.OECD加盟24か国における合計特殊出生率と女性労働力率(15~64歳)

図5.OECD加盟24か国における合計特殊出生率と女性労働力率(15~64歳)

*2000年

*女性労働力率:アイスランド、アメリカ、スウェーデン、スペイン、ノルウェーは、16~64歳。
イギリスは16歳以上。(出典)内閣府男女共同参画局 作成資料を転載
http://www.gender.go.jp/kaigi/senmon/syosika/houkoku/pdf/honbun1.pdf

(2015年11月19日閲覧)
Recent Demographic Developments in Europe 2004, 日本:人口動態統計, オーストラリア Births, No.3301, カナダ:Statistics Canada, 韓国:Annual report on the Vital Statistics, ニュージーランド:Demographic Trends, U.S.:National Vital Statistics Report, ILO Year Book of Labour Statisticsより作成。

「産む」×「働く」のハードルを越えるために

「産む」×「働く」の実現には、以下のハードルがあり、それを乗り越える取り組みが求められると思います。

1.妊娠についての医学的な知識の不足:女性は卵子老化など、さまざまな知識を得つつありますが、不妊の原因は男性側にもあり、情報は男女で共有すべきでしょう。

2.結婚後の男性への経済的な依存意識:日本の婚外子比率は約2%と低く、結婚の先に妊娠・出産があると考える人が多い。結婚にあたり、女性が男性に養ってもらおうと思うのは、結婚を遠ざける原因です。そもそも女性が結婚相手に求めるといわれる年収600万円以上の該当者は、結婚適齢期の男性のたった5.7%にすぎません(図7)。また「恋愛待ち受け」男女が多いので、結婚したい場合は自分から積極的にアプローチしていく必要があるでしょう。

3.仕事との両立がしにくい:職場に妊娠、出産を歓迎するムードがあると、大学卒業時にはあまり出産のイメージがなかった女性も出産後、就業継続するようになります。また、男性の育児・家事参加時間が長いほど第2子以降の出生率は上がっていることからも(図8)、長時間労働の是正が必要です。

4.加齢による不妊問題:日本では妊娠適齢期が企業での育成期と重なっていますが、私は、できれば女性が20代~30代前半までに第1子を出産できるとよいと思っています。働き方は、出産前までは欲張ってチャレンジし、出産後は成果の出し方を模索していくことを私はすすめています。ただ、ライフプランは、思った通りにはいかないことのほうが多いでしょう。そこで、「キャリア・ドリフト」、偶発性に依拠するということですが、思ってもみなかったことが起こったときにも、柔軟に乗り越えていけるようにという意識を持てるとよいのではないでしょうか。

 

図7.現実の未婚男性の年収

図7.現実の未婚男性の年収
*20~39歳。4,120名の未婚者の回答。
(出典)山田昌弘(2010年)日本の未婚者の実情と、「婚活」による少子化対策の可能性「クオータリー生活福祉研究」74号 Vol.19 No.2 P14-15.調査は、明治安田生活福祉研究所「結婚に関する調査」(2009年)より作成

 

図8.夫の休日の家事・育児時間と第2子以降の出生状況

図8.夫の休日の家事・育児時間と第2子以降の出生状況

 ※上記画像をクリックすると拡大します。

*1)集計対象は、①または②に該当し、かつ③に該当する同居夫婦である。
ただし、妻の「出生前データ」が得られていない夫婦は除く。

①第1回調査から第9月調査まで双方が回答した夫婦
②第1回調査時に独身で第8回調査までの間に結婚し、結婚後第9回調査まで双方が回答した夫婦
③出生前調査時に、子ども1人以上ありの夫婦

  2)家事・育児時間は、「出生あり」は出生前調査時の、「出生なし」は第8回調査時の状況である。

  3)8年間で2人以上出生ありの場合は、末子について計上している。

  4)総数には、家事・育児時間不詳を含む。
(出典)厚生労働省「第9回21世紀成年者縦断調査」より作成

少子化問題は当事者・企業・政府が三位一体で取り組む課題

2060年には労働力人口が現在の半分まで減ると言われており、企業は経営戦略として、働き方の改革をすることが急務です。女性の労働についてはこれまで3つのフェーズがありました。フェーズ1は第一次男女雇用機会均等法で、男女が平等に活躍できる場が与えられ、女性が男性並みに働きました。フェーズ2では、仕事と子育ての両立支援が行われ、育児休業制度や時短勤務制度の充実が図られました。そして現在はフェーズ3で、長時間労働の是正や評価観点の改革、有給休暇の取得率アップ、テレワークなどの柔軟な働き方などについて、企業は取り組む必要があります。女性にだけ親切ではなく、男女ともに働きやすい企業にする。これらは労働人口が減少する中での、よりよい人材獲得の条件となってくるでしょう。少子化問題は、当事者、企業、政府が三位一体で取り組まなければならない課題です。

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