教育フォーカス

【特集9】少子化社会と子育て

[第5回] 変わりゆく乳幼児の家族の実態とは?  [3/3]

3.【講演】「乳幼児の親・家庭環境の変化と対策について」大日向雅美(恵泉女学園大学大学院教授)

大日向雅美先生

大日向 雅美●おおひなた まさみ

恵泉女学園大学教授、NPO法人あい・ぽーとステーション代表理事 
専門は発達心理学、ジェンダー論。社会で子育てを支え、親が喜びをもって子育てにあたれるように、また、共働きをする家族のための子育て支援の必要性を訴えている。
ベネッセ教育総合研究所の「乳幼児の父親についての調査」監修

■ 『育児疲れ』母親・父親・祖父母の二極化

私は、育児相談や人生相談などを通して、親、とりわけ母親たちに接してきた立場からお話ししたいと思います。キーワードは「育児疲れ」です。

育児に疲れて、悩む母親の声を聞いていると、二極化の現実をつきつけられます。まず母親は、異様なほど生真面目です。先日、母乳がでないことを悩んだ母親がネット通販で母乳を購入し、その母乳に問題があったというニュースがありました。その母親は、「母乳がでなければミルクで済ませてもよい」と思えなかったのでしょう。また、ついかっとなって子どもに手をあげてしまったことを悩み、精神的にかなり参っているのに、「子どもを一時保育に預けてリフレッシュしたら」とすすめても、「母親なのだから、そんなことはできない」と言って、育児を一人で抱え込んでいる母親がいます。一方、子どもに関心も愛情も抱こうと努力することもなく、子育ては煩わしいだけと切り捨てて、子どもの気持ちを慮る様子も見せない母親もいるのです。

次に父親です。父親の中には「自称イクメン、実は自信喪失パパ」がいて、「こんなに家事も育児もしているのに、評価されない」と悩んでいます。一方で戦前の関白亭主顔負けの父親もいます。「俺は働いているんだ。文句言うならお前が働いてみろ」と妻に平然と言い放ちます。いずれも夫婦間の対等な関係は崩れ去っています。妻たちは、夫に「僕も大変だったけれど、君も大変だったね」と寄り添ってほしいのですが。

最後に祖父母世代の問題です。孫育てに過剰なほど専心する祖母がいます。ある人は、朝5時に起きて娘の家へ行き、朝食を作り、娘を駅に、孫を保育園に送り、夕飯の下ごしらえまでする。こういう祖母は、自分の娘の教育に専心してきて、自慢の娘となっている。ですから娘にはキャリアを継続してほしいという気持ちがあり、過剰なまでに娘を助けてしまうのです。その結果、娘の夫が育児や家事にまったく参画しないで済んでしまう。結果的に、娘夫婦が育児の苦楽を乗り越えて、絆を確かなものとすることができなくなってしまうということに気づいていません。一方で、孫の育児は手伝えない、あるいは手伝わない祖父母もいます。理由としては、健康状況がすぐれなかったり、まだ現役で働いていること、仕事を持っていること、あるいは距離的に支援が難しいということなどもあるでしょうが、中には確信的にまったく関与しないことをポリシーとする祖父母もいるのです。そのような祖父母からは、手伝いたいけれどできないのではないので、娘をいたわる気持ちも感じられない。「孫は来なくてよし、帰ってよし」という感じです。その結果、祖父母の支援を多く受けている母親と比べて、自分は全く受けられないと、ストレスを膨らませざるを得ない母親もいます。

■ 歴史的知識の欠如

こうした「二極化」がなぜ生じるのか、問題のルーツは根深いです。ひとつは今の母親世代が受けた、いかに早く一つの正答にたどりつくか、という教育に原因があったのではと思います。教育の中で、プロセスよりも結果に偏重した教育を受けた結果、失敗を過剰に恐れるようになる。育児にも失敗が許されないと思いこんで、過度に緊張した育児をしがちです。

また、人間の暮らしに関する歴史的な知識も欠如しています。育児は母親だけに託す基盤となっている性別役割分担は、高度経済成長期に国策として敷かれたものであり、まだ数十年の歴史しかありません。それ以前は、もっと多くの人が子育てにかかわっていたのです。しかし、現在、そのことを知らない人があまりにも多いのです。今なお、子育ては家庭内・身内の中で処理すべきという意識は根強く、そうした母親たちは子育て支援センターさえも使わないという現状があります。

■ 解決法は地域に

こうした閉塞状態にある母親たちをなんとか救えないかという思いで、私は港区のNPO法人あい・ぽーとステーションの活動を行っています。区と協働で実施している子育て支援拠点ですが、親子が楽しく集うひろばと共に、理由を問わずに子どもを預けられる「一時預かり」も年中無休で行っています。認可保育園に入れない多様な働き方をする親も多く利用していますが、母親の勉強やリフレッシュの場合も可能な限り応援しています。

また、あい・ぽーとステーションでは、地域の人材養成にも力を注いでいます。主に子育てが一段落した世代の女性は子育て・家族支援者として、団塊世代の男性は子育て・まちづくりプロデューサーとして、それぞれ養成講座を修了して、地域のために素晴らしい活動をして下さっています。女性の子育て・家族支援者さんは、きめ細やかに実家の母親代わりのように、子育て世代の親子の世話に当たって下さっています。また、男性の子育て・まちづくりプロデューサーさんたちは、長年企業や組織で培った知識や経験を活かして、子どもや親の支援の他に、地域の子育て拠点の企画運営のお手伝いもして下さっています。この団塊世代の男性たちの中には、自分が子育てにかかわれなかったことへの反省から、定年後に講座を受けて支援者になられた方もたくさんおられます。そうした「元父親」の反省は、今の父親に、子育て参加への気づきも与えてくれるのではないでしょうか。中高年世代が、「地域の祖父母」になることで、地域の子育て支援の輪が広がり、そして深まりを見せてくれていることを実感しています。

次世代育成研究室「研究室トピックス」も合わせてご覧ください。

編集協力 菅原然子

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