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対談:安西祐一郎氏に聞く「日本の教育課題と展望2013」全3回連載

【第2回】大学入試の未来と小・中・高教育の課題 [4/4]

 義務教育の課題

新井  次に義務教育の課題は何でしょうか。PISAの成績は今まではよかったのですが、これからの義務教育はこのままでいいのでしょうか。

安西  長い間、義務教育の学力水準は全国的になんとか維持されてきましたが、それが崩れ始めているように見えます。不登校の問題などに垣間見えるところですが、家庭環境が多様化しつつあるからではないでしょうか。その結果として学力に違いが出てきているように見受けられます。

例えば地域のコミュニティが機能していた時代は、近所に子どもたちの話し相手がいたのですが、コミュニティが消えてきた結果、子どもに逃げ場がなくなっています。先生に疎んじられ、家庭も崩壊していたら行き場がありません。昔は近所で陽が落ちるまで遊んでいればよかったわけですが、それもない。小中学校の問題は、どうしてもそういう地域ぐるみの、広い意味での教育環境や家庭環境の話になります。

家庭環境の変化

図2 家庭環境の変化

新井  教育カリキュラムについてはいかがでしょうか。

安西  例えば英語教育については発達認知科学をもっと取り入れて、ほんとうの意味で身につく英語にしてほしいですね。つまり、発達段階に応じた学習内容と方法の選択の問題です。英語が母語でない子どもの場合ですが、ヒアリングやスピーキングの基礎はなるべく小学校低学年までに、語彙などは記憶力の伸びる中学にかけて主に学習するというようなことです。この時期に覚えた語彙は忘れにくい。そして、中学では文法をきちんと学ぶべきです。英語は文法がきちんと身についていないと正確に話せません。正確に話せない人は自分の考えを正確に表現できません。これは私の考えですが、賛同してくれる人は英語関係者に多いですね。

新井  話すといってもレベルはいろいろありますね。

安西  そうです。英語で話すというのは、「Good morning. How are you?」のレベルではありません。

このあいだベルリンで50か国以上の代表者が出席する、世界の学術機関の会議であるセッションの座長をしました。その機関は発足して2年目で、今回の会議で運営規則を決めることになっていました。その承認を得ることがセッションの目的です。座長の役目はそういう場面を仕切れるかどうかです。そこで話す英語は、いわゆる英会話ではありません。内容がはっきりわかる文章をその場で発話する必要があるので、英語が母語でない人間にとってはどうしても文法をきちんと知っている必要があります。また、きれいで正確な英語が大事です。そんな国際会議なんて自分は関係ない、まずは「グッドモーニング」さえ言えればよい、と思う方もおられるかもしれませんが、これからの時代に英語が話せるということの意味は、こうした例からもわかることだと思います。

新井  英語だけでなく、日本語においても言えることですね。どのような言い回し、単語を使うかによって、その人の人格まで判断されてしまいます。

安西  まったくその通りです。グローバルな場で認められるかどうかは、話し方にもよります。日本語でもまったく同じことです。汚い日本語を使ったり、書いたりする人を、他人は信頼しませんし、尊敬しません。

新井  それはグローバル人材の話とも重なります。英語ができないことには始まらないですが、同時にそういうセンスが求められますね。

安西  その点を突き詰めると、一人の人間として堂々としているか、さらに言うと、日本の教育がそういうものをしっかり与えているかという大変深くて本質的なところに行き着きます。

安西先生&新井

次回は、第3回「ICTによる学びの変革とグローバル社会に必要な教育」です。

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