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対談:為末大氏に聞く「スポーツと教育の未来」全2回連載

【前編】トップアスリートの条件 [2/4]

為末 では、非日常に弱い選手はダメなのかというとそうではないです。そういう選手は、「いかに日常を非日常に持ち込むか」という方法を学びます。例えばイチロー選手みたいにルーティンワークを作る、また、練習の動作をレース本番でも取り入れるなどして、「今日は特別な日ではない」と自分に刷り込むことで、本番に強い自分を作り上げていきます。

 勝負強さはリスクの捉え方で変る

新井 日本人はシャイだと言われますが、勝負強さということについて、国民性の違いはありますか?

為末 あると思います。乱暴な分け方だと断っておきますが、僕の感覚ではヨーロッパ系、アメリカ系、東洋系に分けられると思います。日常に強くて非日常に弱いのが東洋系、日常に弱くて非日常に強いのがアメリカ系、ヨーロッパ系はその中間です。これは、東洋系の恥の文化のようなものが影響しているのではないでしょうか。メンツが大切な国であればあるほど、非日常に対してプレッシャーがかかるように思えます。

新井 非日常が大きなプレッシャーになるのですね

為末 一方で、成功したときに得られるものと失敗したときに失うもの、という問題もあります。アメリカの場合、成功したときに得られるものが大きいですが、失敗したときに失うものが小さい感じがしますね。だから、アメリカはチャレンジしやすい社会に見えます。日本の場合、チャレンジすることが損とは言いませんが、失敗したときのリスクが大きいような気がします。特にオリンピック選手の場合、失敗したときの社会的制裁が大きく、心理的には「恥をかく」ということに繋がるのではないでしょうか。その代わり、本番で恥をかきたくないというモチベーションで日常コツコツと努力することについては、日本人が強いです。しかし、いざ本番でやろうとしたときに背負うものが大きくなり過ぎて、パフォーマンスが縮こまることもあります。

新井 そうすると、本番に強いのは非日常に強いアメリカ系…。

為末 ただし、日常がその程度ではボロが出るよね、というところもあります(笑)。その点と直接繋がっているかどうかはわからないのですが、「アメリカ人は1回あきらめると力が出なくなるな」と感じていました。マラソンを観ているとわかりやすいですね。先頭集団から遅れるとすぐに棄権するアメリカ人と、遅れても粘って1つずつ順位を上げていく日本人などはその例の最たるものです。だから、(個人的戦略としては)どうやって彼らをレースであきらめさせるか、ということは大事でした。

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