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対談:遠山敦子氏に聞く   「挑戦のススメ」 [6/9]

 「最高」から「最低限」の基準へ

遠山 地方の学校の実情を聞くと、十分に指導もしないうちに「自分で考えてごらん」という授業の仕方しかできなくなっているケースもありました。当然、学力には個人差があるので、一人ひとりに教えていくという姿勢が抜け落ちてしまっていてはいけないと思いました。

ただ、すでに学習指導要領が決まり実施直前のタイミングでしたから、それを「変えます」とは言えません。だから、それぞれの地域、学校、先生において必要だと思ったら、宿題や補習授業、少人数教育、習熟度別教育などをやってくださいと5項目にわたってかなり具体的メニューを出しました。それが「学びのすすめ」と題したアピールです。これは前例のないことでした。

新井 反応はどうでしたか。

遠山 最初は反対もありました。文科省内でも、「ゆとり教育」のキャンペーンをやってきた人もいましたから。しかし、心ある校長や教員の皆さんは学校現場できちんと受け止めてくれました。また、当時の小野事務次官は豪腕を持って、周りをよくコントロールしてくれたので、一緒になって進めました。次第に課長クラスの人たちも、「学びのすすめ」の方向でやっていこうとなりました。大きな転機になったのは、学習指導要領というのは「必要最低限の基準」だということを示したことですね。

新井 そうですね。

遠山 学習指導要領はそれまで「最高の基準」でした。決まった基準まではいいけれど、それ以上は教えてはいけなかったのです。対して「最低限の基準」であれば、もっと教えることも可能です。また、学習指導要領を10年間修正しないというのではなく、必要なときに必要な手直しをしていくことを可能にしました。

徐々に「学びのすすめ」の考え方が取り入れられ、さらにいろいろな改良が重ねられ、平成24年から実施されている新学習指導要領は、非常にしっかりした内容です。

新井 過去を振り返ってみても、「学びのすすめ」が出てきたときが1つの転機のような気がしています。調査のデータを見ると、保護者の学校に対する信頼度や、先生は忙しいけれど気概をもってやっているとか、そういう指標や評価が高まってきているのは、あのタイミングからだったような感じがします。今、ゆとり教育の時に始まった総合的な学習の時間などの試みが、うまくかみ合ってきている感じです。

遠山 そうですね。総合的な学習の時間は、うまく使われるようになってきましたね。地方の伝統芸能や文化などをしっかり勉強するなど、プラスになっている面が出てきています。

新井 知識と体験・実感が結びついてきているという意味では、成果を生み始めていますね。

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